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ORANGE  作者: 陽葵


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3/12

3

 



 ヒマリは、そろりそろりと足を運ぶ。

 胸の鼓動がやけにうるさい。

 だって、ベッドに腰かけて本を読んでいるあかり君の首筋が、少しだけ見えていたから。


 ――ドキッ。


 その瞬間、手に持っていたお盆がぐらりと揺れ、オレンジジュースがこぼれた。


「つ、冷たっ……!」


 びっくりした燈君の声に、ヒマリは思わず顔を赤くして頭を下げる。

「ご、ごめんなさいっ!」


 床に広がるオレンジ色のしみ。

 焦りながら拭こうとするヒマリを見て、燈君は柔らかく微笑んだ。


「怪我、なかった?」


 その一言で、胸がいっぱいになる。

 違うんです、痛くなんてないんです。

 ただ、優しくされたことが、なんだか涙を誘うんです。


「お父さんには……内緒にしてね」


 ヒマリが言うと、燈君は濡れた髪を指でかき上げながら、落ち着いた声で答える。

「わかったよ」


 その声が、妙に心に響いた。

 まるで、夜の静けさを照らすオレンジの灯みたいに。


 少し空気を変えたくて、ヒマリは口を開く。

「ねぇ、散歩に行こうよ」


「晩ごはん作らないと……」


「ヒマリも手伝う!」

 勢いのままにそう言って、二人は夕焼けの道を歩き出した。


 しばらく歩くと、オレンジ色の看板を掲げたコンビニが見えてきた。

 肩と肩がぶつかって、ヒマリは反射的に謝る。


「あ、ごめんね」


「大丈夫だよ」

 燈君の答えに、なぜか心が温かくなる。


 彼は顎に手を当てて何か考え込んでいた。

「……グランデもいいかもしれないな」


「え、グランデってなに?」

 首をかしげるヒマリに、彼は少し笑う。

(あとで調べたら“壮大な”とか“メイン”って意味らしい。なんだか燈君っぽい言葉だ。)


「フランス料理作れるの? すごいね……」

 そう言いながら、思わず頭を撫でたくなったけど、身長差がありすぎて届かない。


 そんなとき――


「食べる?」

 燈君が、ホットスナックのチキンを差し出してきた。


「えっ、ヒマリ大丈夫だよ」


「最初から、ヒマリの分も買ってたから」


 その言葉が、胸の奥まで染み渡る。

 チキンをひと口かじると、あたたかくて、ちょっぴり甘くて、じんわり広がる。


 ヒマリの心は、まるで夕暮れみたいにオレンジ色で満たされていった。






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