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おはようって、言い出せないまま――今日も私たちの一日が始まる。
実はね、ヒマリ、今……燈くんと同棲してるんです。
……ごめんなさい。いろいろすっ飛ばしました。
ある日、元気なお母さんと、やたらテンションの高いお父さんが、
「ヒマリの友達を見たい!」って言い出して。
仕方なく燈くんを連れて行ったら……案の定、お父さんが気に入っちゃったんです。
私、あわてて言いました。
「お父さん、燈くんに悪いよ」って。
そしたら――びっくりです。
「俺、ヒマリと結婚します」
……え? 何言ってるの、この人。
お父さん、当然ブチ切れ。
「おまえ、何を言っているのかわかってるのか!」って怒鳴り散らすし。
でも、燈くんは落ち着いた顔でこう言ったんです。
「行動で証明します」
そして、まさかの提案。
「この家の家政婦をやらせてください」
家政婦!? なんでそうなるの!?
ヒマリは、もうパニックです。
どうしたらいいのか分からなくて焦ってたら、
燈くんが、いつもの穏やかな声で言いました。
「大丈夫だよ」
その瞬間、頭をぽん、と撫でられて――もう、ダメです。
狼みたいなその仕草に、ヒマリ、完落ちしました。
うちの家は二階建てで、空いてる部屋が一つあったから、
燈くんはその部屋で寝泊まりすることに。
――で、事件は二日目に起きました。
私がふざけて「アイ・ニージュー!」って言ったんです。
すると、燈くん……そこから猛勉強モード突入。
たった一週間で日常会話をマスターしちゃいました。
「どうやってそんなに喋れるようになったの?」って聞いたら、
「本を読んだんだ」
と、あっさり言うんです。
しかも読んでるの、全部難しい本ばっかり。
最近は伊坂幸太郎さんの小説を読んでて、感心するばかり。
私の好きな作品を教えてあげたんです。
「『カラフル』って知ってる?」って。
そしたら、
「もう読んだよ」
って、返されました。……ぴえん。
ヒマリ、よく「ぴえん」って言うんです。
言葉の響きが好きなだけなので、気にしないでください。
でもね、「カラフル」を教えた時も、
「発音、違うよ」
とか、ドヤ顔で言ってくるんです。もう、むかつく!
日本語は私のほうができると思ってたのに……ほんと、びっくり。
そんなある日の午後。
おやつの時間になって、私は燈くんの部屋の前に立ちました。
「トントン」と、二回ノック。
……うるさくなかったかな。
そんなことを考えながら、静かにドアノブを引くと――
そこには、すやすや眠る燈くんの姿がありました。




