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「これ、どうやって食べるの?」
――うどんは初めてなのかな?
「啜るんだよ?」
「……ススる?」
燈くんは、きょとんとした顔で首をかしげる。
どうやら、“啜る”という言葉の意味がピンと来ていないらしい。
結局、店員さんにフォークとスプーンを借りて、ぎこちなく食べ始めた。
箸、難しいのかな……。
「あのね、こうやって持つんだよ?」
私はお手本を見せるように、そっと箸を持ち上げた。
すると、燈くんがふっと微笑む。
まるで何かを思い出したみたいに、懐かしそうな笑みだった。
よかった――思い出してくれたんだ。
そう思ったのも束の間、
「これ、竹でできてるんだよね?」
……あーもう、超天然。
きゃいーん、いや、ぱおん寄りのぴえんかも。
――なんちゃって。
ちなみに、ヒマリはちくわ天が好きです。
お口は小さいけど、頬張るのが大好き。
モグモグ。うん、おいしい。
そのとき、燈くんがちくわ天をフォークで突き刺しながら尋ねてきた。
「これ、なに?」
「ちくわだよ」
すぐにスマホで検索を始める燈くん。
“魚のすり身”という単語を見つけて、目を輝かせている。
そんな姿を見ていると、なんだかこっちまでワクワクしてくる。
ふと横を見ると、葵ちゃんがカレーうどんを食べていた。
――なのに、服がまったく汚れていない!
な、なんてこと!?
まるで訓練された兵士みたい……恐るべし、葵ちゃん。
食べ終わると、葵ちゃんは口の端をペロリと舐めて、
「おいしかった」と一言。
それに続いて、燈くんも「デリシャス」と満面の笑み。
フォークでうどん食べるのってどうなの……?
でもまあ、最後はきちんと手を合わせて「ごちそうさま」って言ってたし、よしとしよう。
店を出て、私たちは名古屋駅をぶらぶら。
ふと見つけた楽器店に立ち寄ると、葵ちゃんがギターを見つめて目を輝かせた。
「ちょっと弾いてみてもいいですか?」
そう言って手にしたアコギから、あの名曲――《禁じられた遊び》が流れ出す。
上手っ!!
私は思わず目を丸くした。
店員さんも思わず拍手してるし……葵ちゃん、まさかの隠れギタリスト?
その間を見計らって、私は燈くんに話しかけた。
「葵ちゃん、すごいね」
「うん。僕も、なにか弾こうかな」
え、弾けるの?
そう思っていると、燈くんはピアノの前に座り、「energy flow」を弾き始めた。
静かな旋律が、店内のざわめきをすっと溶かしていく。
……上手すぎる。
葵ちゃんも驚いた顔で聴き入っていた。
演奏が終わると、自然と話題は次の予定に。
「今度、栄に行こうよ」と葵ちゃん。
すると燈くんは、「いいですよ」とまた敬語。
もう、ほんと真面目すぎて笑っちゃう。
こうして私たちは、名古屋の街をのんびりと歩き始めた。
少しだけ、胸の奥が温かくなる午後だった。




