11
気まずくなって、思わず視線を逸らした。
燈君がスコーンを食べて「おいしい」と言ってくれたのは嬉しい。
けれど、恥ずかしさで胸がいっぱいになる。
葵ちゃんは、必死に場の空気を明るくしようとしてくれていた。
でも燈君は、そんなの気づかないのか――まだ「おいしいなあ」とか言ってる。
ほんと、空気読めない。かわいいけど。
「もう大丈夫だよ」と言いかけたその時。
「ランチ行こ!」
葵ちゃんが元気いっぱいに提案して、流れでランチに行くことになった。
今日のランチは――うどん!
きしめんもいいけれど、燈君にはぜひ“天ぷらうどん”を食べてほしい。
ヒマリおすすめの一品だ。
ちょっと恥ずかしいけど、勇気を出して、燈君の手を引いた。
「お、おっと……!」
その声が、少しくぐもって聞こえる。
手のひらから伝わる鼓動。
あ、緊張してる……? もしかして。
そんなことを考えている間に、隣では葵ちゃんがスキップしていた。
その横を、不器用に歩くヒマリ。
そして、私に手を引かれながら、穏やかに景色を眺める燈君。
三人並んで歩く姿は、まるで絵のように完成されていた。
たとえるなら――青春の一コマ、ってやつ。
(……でも、できれば私の顔にはモザイクかけてください。ぴえん。)
そうして着いたのは、「うどん ゐぬべゑ゙」。
ヒマリお気に入りのお店だ。
味噌煮込みから天ぷら、ぶっかけまで、うどんの種類は実に豊富。
個人店なのに、季節限定メニューもあって飽きない。
……というわけで、超おすすめです。
「あれ、なんて読むの? ……あ、読むんですか?」
「さあ、なんでしょう」
「え、なんだろう。ぬぬべる?」
「もう、いぬべえだよ!」
「Learning Japanese is no joke.」
《翻訳:日本語マジでむずい》
――ぷっ。
思わず吹き出してしまう。
やっぱり燈君、面白い。
これはもう、教育係ヒマリの出番だね。やった!ぱおん!
暖簾をくぐると、出迎えてくれたのは優しそうな店主さんだった。
「はい、いらっしゃい!」
店内は落ち着いた木の香り。
静かで、でもどこか温かい。
「おお、本格的ですなぁ~!」
葵ちゃんがわざとらしい声を出して、レポーターの真似をする。
店内に、くすっと笑いが広がった。
ヒマリは四人席に腰を下ろし、葵ちゃんの隣に座ろうとした――
その時、ふと燈君の視線を感じた。
(え……怒ってる?)
(いや、そんなはずないよね……?)
なんだか胸がざわつく。
最近、こういう小さなことでも気になってしまう。
「天ぷらうどん、一つください」
そう告げて、注文を済ませる。
ヒマリが頼むと、必ずと言っていいほど、燈君も同じものを頼む。
「俺も、それで」
ほら、また。
ほんと、真似しないで……。
――なんて思いながらも、心のどこかでちょっと嬉しいヒマリだった。




