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私たちが選んだのは、緑だった。
甘くとろけるキャラメルフラペチーノじゃなくて、爽やかで、ほろ苦い――抹茶フラペチーノ。
葵ちゃんとヒマリのお気に入りだ。
でも、燈君は何を頼むんだろう?
「俺も、それで」
そう言って店員さんに伝える姿を見て、胸がじんわりと温かくなる。
何気ない仕草、すっと伸びた背筋、そしてカップを持つたびに動く筋の入った腕。
その全部が、妙に目を引いた。
「ねえねえ」
葵ちゃんが、さりげなく燈君の肩をコンコンと叩く。
「ん? どうしたの?」
燈君が少し見下ろすように、優しい目で葵ちゃんを見る。
――その瞬間、ヒマリは気づいた。
今日の葵ちゃん、メイクめっちゃ気合い入ってる。
ハイトーンの髪に、しっかりめのマスカラ。でも派手すぎず、ちゃんと素の良さを活かしてる。
(葵ちゃん、顔パーツいいもんなあ……)
なんて考えて、はっとする。
――今日、ヒマリ、ノーメイクじゃん!?
「ど、どうしよう……!」
慌ててトイレに駆け込む。
化粧ポーチを取り出して、鏡とにらめっこ。
ファンデ、チーク、リップ……即席メイク完了。
戻ってみると、二人はもうフラペチーノを飲み終えていた。
ヒマリの抹茶は、氷が溶けて、半分シェイク状態。
(もう、最悪……)
ストローをくわえながらふと横を見ると――
葵ちゃんと燈君の距離が、なんか近い。
(え、近くない? 気のせい?)
ふーん……。
ちょっぴり、胸の奥がチクッとした。
「葵ちゃんは、英語できるんですか?」
あ、敬語。
燈君、なんか緊張してる?
頑張って日本語覚えたのに、まだ丁寧モードだ。
思わず笑ってしまう。
(かわいいなぁ……)
ヒマリは、いつものようにカスタマイズしたトッピング入りの抹茶を飲む。
チョコチップ追加、ホイップ多め――これが至高。おすすめです。
気づくと、葵ちゃんが腕を組んで話をしていた。
「そうなんだ!」
「うん」
……え、何の話? 聞いてなかった。
どうしよう。めっちゃ盛り上がってるし。
「インドの南部に行ったことがありまして――」
うん、まだ敬語。
やっぱり緊張してるんだな、燈君。
(敬語じゃなくていいのに……ぴえん)
ヒマリは、気を紛らわせるようにスコーンへ手を伸ばした。
「あ……」
「どうしたの?」
「俺も食べたいな」
その一言で、葵ちゃんの目がきらっと輝く。
なんか、二人の空気がほんわかしてる。
ヒマリは、かじりかけのスコーンを小さくちぎって、燈君に渡した。
「Great!!」
でた――グレイト!
ヒマリの胸がふわっと軽くなる。
「ヒマリ、いつ化粧したの?」
「え、朝からしてたよ」
「ヒマリは、そのままでも……」
「えっ、ちょ、なになに!?」
二人の頬が、ほのかにオレンジ色に染まっていく。
その色が、秋の夕陽みたいにきれいで――
ヒマリは、思わず目を逸らした。
はずっ……。




