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第8話 白い編集室
――ページを閉じた瞬間、世界の外側で誰かがタイプを打ち始めた。
編集部の一室――壁も机も、白で統一されていた。
リアムはその静謐な空間の中央に立ち尽くしていた。
部屋には誰もいない。だが、タイプライターの音だけが響いている。
「……マチルダ?」
声に応えるように、机の上の原稿が一枚めくれた。
そこには、彼自身の動作が記録されていた。
“リアムは紙束を手に取り、現実との境界を失う”。
彼は震える手で次のページを開いた。
“彼はいま、読者の視線の中にいる”。
息をのむと、白い壁の一部がゆっくりと文字へ変わり始めた。
それは、誰かが書いている“現在進行形の物語”。
編集室は、現実と虚構が交差する“書くための密室”であった。
リアムは悟る。――自分は、まだ彼女の物語の中にいるのだと。
次回予告:
――第9話「鏡の読者」
物語を読んでいる“あなた”の名が、次の原稿に現れる。
語る者と読む者、その区別が完全に消える夜が来る。




