3/9
第3話 語られぬ犯人
――物語は、語られぬ者の沈黙によって形を得る。
マチルダ・グレイは、新しい短編の執筆を始めていた。題名は『未完の密室』。
しかし、原稿の中で殺された登場人物の職業も、容疑者の名前も、どこか現実の編集部を思わせる。
リアムはページをめくりながら、背筋に冷たい気流を感じた。
作中の“被害者”は、まるで自分の未来を暗示しているように描かれていたのだ。
「あなたは、誰を殺そうとしているのですか」
彼がそう問うと、マチルダは微笑んだ。
「誰も殺していないわ。ただ――書くことで誰かを甦らせているだけ」
彼女の瞳は深い夜のように静かで、その奥では、まだ語られぬ犯人が息をしていた。
それが虚構の人物か、それとも現実の影なのか、誰にも断定できなかった。
――第4話「推理という祈り」
真実を語ることは、時に赦しと同義になる。マチルダが初めて“推理”という言葉の意味を思い出す夜。




