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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
二章 戦争と大男

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 ダストリアの首都、フィルダンでは冬の終わりが近付く頃に数日かけて祭りが行われる。

 それは冬の間に少しずつ蓄積されてしまった、鬱屈とした空気を吹き飛ばす為の催しだ。

 雪で街道が閉ざされている以上、人、物の移動ができないから、開かれる祭りもあまり派手なものにはならない。

 新鮮な食料品が並ぶ訳ではなく、遠い地の珍しい品を行商人が運んでくる訳でもないけれど、多めに蓄えた越冬の為の物資から幾らかを持ち出し、どうにか祭りの形を工夫して作って、精一杯に楽しむのだという。

 例えば、この日の為に熟成された酒の樽が開けられたり、料理に高価なチーズをたっぷりと使ったり、行商人が来ない代わりにフィルダンの民が好きに出店する蚤の市が開かれたりといった具合に。


 冬の無聊を慰めるといえば、大きな町には旅芸人の一座が逗留してたりもするのだけれど、フィルダンの祭りではそれよりも、民が冬の間に磨いた芸を見せ合う方が盛り上がるらしい。

 僕らが、滞在費が高くなる事も承知の上で、そこらの村じゃなくてフィルダンを越冬の場所として選んだのも、この祭りがあるからだ。

 より正確に言うと、この祭りを盛り上げる為に行われる闘技会を目当てに、僕らはフィルダンに滞在してる。


 といっても闘技会に参加するのは僕じゃなくて、ダラッドだ。

 この冬の祭りで行われる闘技会は、雪で街道が閉ざされているから、何時もの闘技会みたいに各地の猛者は集まりにくい。

 つまりは狙い目の闘技会であった。

 ダラッドに僕以外と戦う経験を積ませ、その上で自分の力を自覚させ、自信を持たせるには、この闘技会はうってつけである。

 もちろん目敏い者が僕らのように、この闘技会を目当てにフィルダンに滞在してる可能性はあるけれど、仮にそうした者に敗れたとしても、ダラッドにはいい経験となるだろう。


 使用する武器は、大会への申し込みが早かった為に特別に作ってくれた、木製の大盾だ。

 まぁ、本当だったら盾はあくまで防具で、片手で使用できる物を選んで、もう片方の手で武器を持つんだろうけれど、ダラッドは両手で大盾を使う。

 武器を使用する戦い方は、まだ彼には仕込めていない。

 拳や蹴りを使う事は教えたけれど、ダラッドの本気の蹴りは当たり所によっては人が死ぬので、なるべく加減するか、加減が難しければ最初から使うなと言ってあった。

 祭りの一環としての、地元の民ばかりが参加してる闘技会で、人死にを出して恨みを買うのはあまりにも拙いから。


 もちろん、木製の武器しか使わない闘技会でも、戦う以上は場合によっては人死にが避けられない事だってある。

 その時は道が雪で埋まっていても、どうにかフィルダン近郊の村に移動して、冬が終わるまでの残りの日々を、ひっそりと過ごすしかなくなるだろう。

 ダラッドは器用なタイプじゃないから、少しばかり心配だったけれど、それでも彼に経験と自信を得させる機会は逃せないから、闘技会に送り出す。



 闘技場は観客で一杯だが、その雰囲気は和やかだ。

 これまで僕が参加した闘技会は、観客も血が流れる事を期待して、或いは賭け事で、殺伐としつつも熱狂的な空気があったから、その違いに少し戸惑う。

 やはりこれは、出場者の殆どが地元の民、つまり観客にとっての顔見知りというのが、大きく影響してるんじゃないだろうか。

 そんな中で、体格のいいダラッドの姿はとても目立っていた。

 当然ながら、観客達は自分の知り合いの出場者に勝って、活躍して欲しいだろう。

 そうなれば必然的にダラッドは、悪役の立ち位置になる。

 今のところは野次が飛ばされたりはしてないが、その空気はダラッドの心を攻める筈だ。


 ……さて、その状況で彼は普段の力を出せるだろうか。

 見る限り、ダラッドは落ち着いてる様子。

 ふと、彼がこちらを見て、僕と目が合う。

 なるほど、これなら問題なさそうだ。


 ダラッドの目は、これから始まる戦いへの闘志と、それから期待に満ちている。

 どうやら僕とこなした訓練の成果を、試して見たくて仕方ないらしい。


 最初の集団戦では、試合の開始を告げる鐘が打ち鳴らされると同時に、盾を構えたダラッドが敵陣に突っ込む。

 その突撃に巻き込まれた敵チームの出場者達が、びっくりするくらい奇麗に弾き飛ばされて宙を舞った。

 恐らくダラッドが、衝撃の向きを調節して、弾き飛ぶようにぶつかったんだろう。

 仮にダラッドが相手を潰すようにぶつかった場合、力の逃げ場がないから、下手をしなくとも死者が出る。

 だから敢えて相手を弾き飛ばして、力が逃げるようにしていた。

 

 しかし潰されて死ななかったとしても、あんな風に弾き飛ばされるのは誰だって嫌だ。

 強力な突撃に浮足立った敵チームは、ダラッドのチームに攻め立てられて次々に討ち取られていく。

 見ている限り、敵チームには腕の立ちそうな出場者も混じっていたけれど、一度傾いた戦況は覆らずに、ダラッドのチームが勝利する。


 それを見守って、僕はホッと安堵に胸を撫でおろした。

 危なっかしくて仕方ない。

 ダラッドが自分で考えた作戦が上手くハマったというのは実にいい事だけれど、敵チームがもう少し冷静だったら、突出した彼は討ち取られてしまっていたかもしれない。

 正直、黙って見守るよりも、僕は自分で状況を動かしていく方が、性に合っているんだろう。



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