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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
二章 戦争と大男

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 手を打ち鳴らし、大きな声を上げて、僕は獲物を目的とする方向に追い込んでいく。

 これが結構、難しい。

 真っ直ぐに逃げてくれれば楽なんだけれど、獣も意外と馬鹿じゃないから、こちらの意図を察するのか進路を逸らして逃げようとするのだ。

 だからその場合は木に向かって石を強く投げ、コォォォンと響く音で驚かせ、進路を修正する。


 今回の獲物は大きな猪。

 獣の中でも猪や熊は、追いやる役割の勢子に逆に襲い掛かってくる事もあるので注意が必要で、その場合は僕がそのまま狩らなきゃならない。

 狩りをするってだけなら、別にそれでも構わないんだけれど、ダラッドの訓練だと考えたなら、僕が仕留めてしまうのは都合が悪かった。


 だが今回狙った猪は、今のところは素直にダラッドの方へと逃げてくれてる。

 そして、それから間もなく前方、猪を追い込んだ方向で、大きく鈍い音が二度鳴り響く。

 一度目の音は、猪の突進をダラッドが大盾で防いだ音で、二度目の音は動きを止めた猪を、そのまま大盾で殴り付けた音だろう。


 訓練を始めて一ヵ月程が経つが、ダラッドも随分と強くなった。

 まず大盾で自分をしっかりと守る事を覚えた彼は、大きな猪の突進を受け止めても少しも揺らぐ事はないし、その力で振るわれる大盾は、猪を昏倒させるのに十分な威力だ。

 或いはもう止めを刺す必要すらなく、首の骨が折れてるかもしれない。

 その場合は、急いで血抜きをしたり、肉を冷やさなきゃ味が落ちるから、僕は急ぎ足でダラッドと合流する。


 もちろん、一ヵ月という時間でダラッドをここまで仕込むのは、かなり苦労した。

 彼は物覚えが良い方ではなく、更に言葉の意味の理解も遅かったので、盾の使い方は身体に、しつこい程に繰り返して叩き込んだ。

 あぁ、別にダラッドの頭が悪いといってる訳じゃない。

 これまで、そうやって覚えたり、考えて理解する事をこれまで必要としてこなかったってだけである。

 元が良かろうが悪かろうが、慣れていなければ最初は上手く行かないし、時間も掛かるのは当然だろう。


 正直、僕も苦労はしてるけれど、それ以上にダラッドは大変だった筈だ。

 けれども彼は、僕の言葉に良く従った。

 訓練に手を抜く事は全くなかったし、僕の言葉の意味を考えろと言うと、最初は戸惑っていたが、懸命に考えて自分なりの解釈を僕に伝えてくる。

 まぁ、その解釈も間違いが多かったが、根気よく、わかり易いように何度も修正を伝えれば、やがてスムーズに、僕の言葉の意味を正しく解釈できるようになってきた。


 良い買い物をしたと思う。

 この分ならキチンと働いてくれそうだし、そうなれば働きには報いたいから、やがては奴隷の身分から解放し、正式に配下、郎党にする心算だ。


 でもその為には、僕にも必要な物がある。

 ダラッドはこの先、グングンと強さを増していくだろう。

 元より力と体重、体格はとても優れているのだから、それを活かす技が伴えば、彼は相当の戦士になれる。

 だからこそ、それを従える僕にも、それ以上の強さが必要だった。


 人が人を従えるには、何かを与えなければならない。

 例えばわかり易いのが金や待遇等の利益だ。

 強い恩というのも、先払いの利益と言っていいだろう。

 或いは強さや賢さで導くのも、従えば利益を得られるとの期待感を与えられる。


 逆に不利益を与える事でも、人が従う場合もあった。

 この不利益でわかり易いのが、恐怖だ。

 逆らえばどうなるかわからない、恐ろしいって思いが、人を盲目的に従わせる。


 この与えられる利益、不利益が足りない場合、人は従う事に不満を持ち、裏切る可能性が生まれてしまう。

 もちろん僕は不利益でダラッドを従わせる気はないが、だからこそ与える利益は十分に示す必要があった。


 一ヵ月を共に過ごして、ダラッドが僕を裏切る性格をしてるとは思わないが、従う、従える場合だけじゃなく、人間関係の多くにおいて、信用は甘えだ。

 言い方を変えるとそれは、疑う努力の放棄でしかない。

 僕に従う方が得なのか、実は裏切る方に益がないか、こちらに抱いてる感情は好か悪か、相手の性格も含めて考える。

 尤も全ての人間に対してこれをするのは無理だから、自分に遠い人間はその対象から外すし、近くても害がなければ信用してると言って手を抜くだろう。


 だけどダラッドは、暫くの間は僕の唯一の配下となるから、彼を従わせる事に関して手を抜く訳にはいかなかった。

 訓練を付けて、学習させて、自分の成長を実感させる。

 飯を食わせて生きる事への安堵を与える。

 特にダラッドは大食いで、また食べる事が好きみたいだから、食事を十分に与えればそれを恩に感じるだろう。


 その上で、手合わせを行い、僕の力を実感させる。

 単純な力ではダラッドには敵わないが、身のこなし、技、戦術で、彼を圧倒して、従うに値すると思わせていく。

 或いはそれは上下関係の刷り込みで、飼い犬の躾けに近いかもしれない。

 ただ、それでも僕は、ダラッドが配下としてついてくるなら、彼に村での生活よりも良い思いをさせられる自信はあった。


 多分この自信が、人を従えるには必要なんだと思う。

 人を従え、食わせていくのだという覚悟を、背負えるだけの自信が。

 その必要性に気付けた分、僕も成長してるんだろう。



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