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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
一章 戦士

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 実のところドレアム王国正式剣術も、これ一つで戦場を切り抜けられるみたいな便利な技術では決してなかった。

 さっきのように一対一で技に嵌めれば相手を圧倒できるけれど、実際の戦場では細かな動きを工夫するよりも、走って勢いを付けて大振りの一撃で敵を薙ぎ倒して威圧した方が戦果を挙げられるケースが圧倒的に多い。

 尤も勢いだけだとそれを止められた時にあっさりと返り討ちにあってしまうから、こうした技が色々と練られてきたのだ。


 ……これまで見たところ、ゲアルドはその勢いの極みのような戦士である。

 もちろんこれは比喩の話で、彼にそれしかない、それしかできないって意味じゃない。

 ただゲアルドが前に出る時の勢い、圧力は本当に強くて、それこそ軍馬の突撃とぶつかっても勝つんじゃないかとすら思う。


 僕が勝利して控室に戻ってあまり間を置かず、闘技場からの歓声が聞こえた。

 あぁ、恐らくゲアルドも、すぐに相手を仕留めたのだろう。

 彼が負けている可能性は……、残念ながら万に一つくらいしかない。


 いや、うーん……。

 確かにゲアルドが負けていれば優勝する確率はとても上がるのに、そうなったらそうなったで、僕は残念に思う気がした。

 我ながらどうにも合理的じゃないのだが、どうやら僕は、そう彼と戦いたいらしい。

 ゲアルドと戦った方が良い経験を積めるというのもあるけれど、それ以上に僕は、彼自身に興味があるのだろう。


 またここ数日は、殆どの時間をどうやってゲアルドに勝つかを考える事に使ってる。

 それを無駄にしてしまうのは、少しばかり惜しかった。

 こんなにも誰かとの戦い方を考えたのは、ワルダベルグ家に雇われたあの教師から一本を取ろうと頭を捻った子供の頃ぶりだ。


「出番だ。クリュー・ウィルダート、出ろ」

 僕はそう促され、木製の両手剣を握り締め、立ち上がって控室を出た。


 戦いを前に気が高ぶっているからだろうか、闘技場を照らす太陽の日差し、その眩しさを、先程の試合の時よりも強く感じる。

 そして周囲からは、大きな歓声が降ってきた。


 随分と盛り上がってるなぁと、まるで他人事のように思う。

 彼ら、町の住人にとっての闘技会は、年に数度の祭りで、重要な娯楽の一つだ。

 あまり血の流れない実戦には遠い催しだけれど、いや、だからこそいつ降り注ぐかわからない本物の戦争をあまり意識せず、娯楽として楽しめるのかもしれない。


 僕は、右手を天に翳して観客の声援に応じる。

 見ている観客の殆どは、ゲアルドが優勝すると思っているだろう。

 実際、僕だってそうなる可能性が高いと思っているのだから、そりゃあ当然だ。

 けれども、勝ち目がない訳じゃない。

 実際の戦場で戦うならともかく、この闘技会の試合という形式でなら、今の僕にも勝算はある。

 まぁ少なくとも、観客を退屈させる事にはならないから、よく見ていろとの意志が、翳した右手には籠ってた。


「よぉ、クリュー。やっぱりここで会えたな。いい顔してるじゃねえか」

 のしのしと、僕とは逆側から歩いてきたゲアルドが、そう言ってニカッと笑う。

 なんとも楽しそうな表情だ。


 そう、観客もそうだけれど、僕はこいつも楽しませてやらなきゃならない。

 しかる後に、その楽しさを悔しさに変えれれば最上だろう。

 左足を軽く後ろに引き、両手剣を構える。

 前の試合と同じ、ドレアム王国正式剣術の構え。

 控室の僕が他の試合を見ていないように、ゲアルドもさっきの僕の試合を見る事はできなかった筈。

 故に彼は、僕がこの構えを取るのは初めて目にする。


 ……けれども、

「おぉ、それは知ってるぞ。あの戦いでドレアムの騎士が使ってるのを見かけたからな。確かにあの騎士はなかなか活躍していたな。……でもよ、今、俺が見たいのはそれじゃないんだ」

 ゲアルドはそう言って首を横に振った。


 あぁ、くそう。

 ゲアルドはこれを知っていたか。

 いや、さっきの言葉が本当ならば、彼はあのセル大帝国との戦場で、ドレアムの騎士が戦っているところを見かけただけで、自身が相対してその技を身に受けた訳ではないのだろう。

 ならば技の理解には程遠い筈だが……、ゲアルドはそれでも、この剣技だけじゃ自分の脅威ではないと言外に、態度でも、そう言っている。


 まぁ、うん。

 元よりドレアム王国正式剣術だけで彼と戦う心算はない。

 今の状況なら使える技は他にもあって、今回は出し惜しみなんてしないと決めているから。


 僕は深く息を吸い、吐き、自分の集中力をゲアルド唯一人に向けて絞りながら高めていく。

 するとまず、周囲の音が、闘技場の喧騒が僕の耳に入らなくなって、消える。

 次に消えるのは光だ。

 世界が、ゲアルドを除いて黒く塗り潰され、彼以外の存在が何も見えなくなった。


「おぉ、それだ。それだよ。やっぱり持ってやがったな。あいつ等もそんな目をしてたぜ。あぁ……、やっと会えたな」

 ゲアルドが口を動かしているから、きっと何かを言ってるんだろうけれど、僕にはもうその声は届かない。

 今、僕の意識が拾うのは、彼の動きのみである。


 そして、ゲアルドが二本の棍棒を構えると同時に、僕は前へと踏み出して、二人の武器がぶつかり合った。



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