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僕は乱に身を立てる  作者: らる鳥
一章 戦士

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 一回戦を勝利で終えた僕らは、熱の籠った鎧下を脱いで少しばかりの休憩を与えられた後、すぐに次の試合の準備にかからねばならないらしい。

 脱落せずに二回戦に進む人数は、休憩中に数えてみたが二十八人だった。

 二回戦はその二十八人が、四つのチームに分かれて戦って、勝利した一つのチームのみが三回戦に進むそうだ。


 実に強引な数の減らし方だけれども、闘技会は二日間で全ての試合を終わらせる予定だというので、そうした無理が必要になるのだろう。

 つまり短い間に幾度も戦いをこなさないといけないって事だから、上位を目指すならば単に目の前の試合に勝つだけじゃなくて、体力の管理も重要になってくる。


 僕は与えられた短い休憩時間の間に呼吸を整え、少しでも多くの体力を回復できるように目を瞑った。

 深く大きく吸って、長くゆっくりと吐く。

 この呼吸法も、ワルダベルグ家にいた頃に学んだものだ。


 古くから青い血、貴族の間に伝えられている呼吸法には幾つか種類がある。

 例えば今行っているような、体力の回復を早めるものや、筋力を一時的に増強させるもの、集中力を高めるものや、大きな声を発せるようになるもの等。

 ……あぁ、思えば僕は、剣や槍、馬が得意だった以上に、これらの呼吸法に強く適性があったから、ワルダベルグ家の御当主様から青い血を濃く受け継いだ者として気に入られ、贔屓されていたのかもしれない。


 ただ僕に言わせると、この呼吸法は多少便利ではあるけれど、そこまで大層にありがたがるようなもんじゃない。

 何故なら体力の回復を早める呼吸も、無から体力を持ってこれる訳じゃないから、多用すれば空腹や眠気が襲ってくるし、眠気に負けると深い睡眠に陥って、ちょっとやそっとじゃ起きられない無防備な状態になってしまう。

 筋力を増強させる呼吸法は、増した力で剣を振ると、どうしても普段と同じような技の冴えは出せないし、場合によっては自分の力に身体が負けて、筋や腱を痛める事もあった。

 集中力を増す呼吸法だって、目の前に対しては深く集中できるけれども、それ以外が疎かになる。


 つまりどれも、戦場で用いるには少しばかりリスクが高い。

 もちろん使い方次第ではあるんだろうけれど、使いどころは限られていた。


 ふと、視線を感じて目を開けると、ゲアルドがジッとこちらを見ている。

 ……僕と目が合うとすぐに普段の、そろそろ見慣れてきた陽気な顔に戻ったけれど、さっきの一瞬の表情は、獰猛な獣を思わせるもの。

 一体どうしたんだろう?


 しかしそれを問いただす暇もなく、短い休息は終わりとなって、僕らはまた分けられたチームの色の鎧下を着込む。

 そして二回戦も、僕とゲアルドが着る鎧下は同じ黄色だった。


 あぁ、何というか、あからさまだなぁって、そう思う。

 どうやらこの闘技会の運営は、僕とゲアルドはセットで扱う事にしたらしい。

 恐らく試合や賭けを盛り上げる為なんだろうけれど、随分と露骨だ。


 第一試合でチームの勝利を決定付けたペアがそのまま第二試合でもチームを組んでいる。

 そうなれば当然のように、賭けの人気はそのペアがいるチームに集中するだろう。

 けれども観客がそのペアのいるチームに注目するように、参加者だって同じくそのチームを警戒するから、僕とゲアルドが優先的に狙われるのは避けられない。

 狙われた僕らが暴れれば、激しい展開になって試合も賭けも盛り上がるって訳か。


 こうなると幸いなのは、どのチームも所詮は寄せ集めでしかない事だった。

 チームを纏め上げて指揮を執れるような者がいないから、他のチームと争わないという、緩い同盟関係を作るといった高度な意思統一なんてまず不可能だ。

 仮にそんな優秀な指揮官がいれば、第一試合で僕とゲアルドばかりが目立つって事態にはならなかったし。

 僕らを優先して狙おうとは思っていても、近くに他のチームの敵がいれば、身を守るために戦わざるを得なくなる。


 注意が分散した状態では、幾ら数に勝ってもゲアルドの勢いを止められはしないだろう。

 ならば、この第二試合で僕がすべき役割は、敵チーム同士の敵対を煽る事だ。



 第二試合が始まると、他のチームはやはり僕らを狙って攻めて来た。

 他のチームの色は緑、赤、青。

 緑は少し開始位置が遠かったけれど、赤、青とはすぐにぶつかる。


 だがこちらは自分達からは攻めず守りの姿勢で、更にチームで最大の戦力であるゲアルドを、最前列ではなく二列目に置く。

 何故なら、最初からゲアルドが大暴れすると、他のチームがまずはそれを何とかしなければと纏まってしまうから。


 すると数が多い敵の勢いを止めるのは少し大変だけれど、……まぁ、どうにかはなる。

 というのも、恐らく僕らが勝ち進んだ場合に備えてだろうけれど、黄色のチームは一回戦で見れた限り、特に動きの良かった参加者が多い。

 要するに、ゲアルド程ではないにしても、それなりの強者が揃ってた。


 そのお陰で、赤、青のチームとの衝突、初撃を、どうにか受け止め、凌ぐ。

 ここで総崩れになってしまうと、相手が勢い付いて僕らを仕留めに掛かるだけなので、最初を受け止められるかが一番の問題だったから、……大丈夫だとは予想をしてたけれど、僕は安堵の息を吐く。


 あぁ、僕も既に仕事は果たした。

 僕が立っていたのは、黄色チームの前列の真ん中。

 丁度、右から赤が、左から青が、互いを意識しながらも攻めてきた辺り。


 僅かに先に攻めて来た赤の参加者の肩を、カウンターになるように棒で突いて、動きのバランスを崩して転がして、すぐに棒を引き戻し、青の参加者からの攻撃を受け止める。

 これは、少しばかり褒められていい働きだと思う。

 相手を突き転ばせるのは、実は結構難しい。

 急所を突いて倒すのではなく、転ばせるには、相手の動きをよく見て、そのバランスが崩れる箇所を、バランスが崩れるタイミングで突く必要があった。

 二人から攻められる圧力の中でこれを成功させたのは、あぁ、自画自賛に値する。


 青の前列の参加者からすれば、隣の赤の参加者が倒されたようにしか見えないだろう。

 しかし後列から見れば、転んだだけの敵チームの参加者が、どうせ後で戦わねばならない相手が、無防備を晒して目の前にいるのだ。

 あまりの好機に、仕留めてしまいたくなっても、そりゃあ無理はなかった。

 そうなるように、そう思える位置に転がしたのだから、そうなって貰わなきゃ僕だって困る。


 敵のチームが崩れるのは、後ろから。

 青の参加者が赤の参加者を仕留めて、報復の攻撃が行われ、前列は僕らと戦ってるのに、後列は青と赤が戦い始める。

 すると前列の参加者も、前の僕らにばかり意識を向けていられなくなって、……そして前に出てきたゲアルドに一発で吹き飛ばされた。


 後は、そう、崩れた相手のチームでは暴れるゲアルドを止める術はなく、無傷だった緑のチームは多少抵抗したけれど、僕ら黄色のチームは、一人の脱落者を出す事もなく、二回戦を勝ち抜いた。



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