D-DAY+131 2027年5月上旬 若返り治療への打診
N君がティアラの事で宮内庁を打診したら、宮内庁の長である宮内庁大夫と侍医が帝国ホテルに駆けつけp.adminとの面会を求めた
T先生が来客を迎え入れる間、リビングのソファに座ったp.adminは、どこか諦めたような表情だった
p.admin:
「あれ、一週間休みとは?…このままだと帝国ホテルで仕事をするだけになっちゃいますね」
N君:
「これから色んな方面に付合いがある方々なので、話を聞いて損はないと思いますよ」
宮内庁大夫は、入室するなり、深く丁寧な挨拶を行った
宮内庁大夫(以下、大夫):
「朱雀様におかれまして、国交締結の儀にお祝い申し上げます、かおり夫人様とリコ夫人様もご機嫌麗しゅう存じます」
p.admin:
「大夫殿よろしくお願いいたします。私達はこういう格式張った柄じゃないので、普通の挨拶でお願いします」
p.adminの言葉は丁寧だが、その内容は「形式の簡略化」を要求するものだった
大夫は一瞬、戸惑い顔をしていたがすぐに順応した
大夫:
「承知いたしました、ご配慮感謝いたします」
ちなみににW子はp.adminと一緒に16年間日本に住みましたが、
W子は人見知り的な性格の為日本語会話力はp.adminに及ばずだが、読み書きの「読み」だけがp.adminより優れた
R子は独学で日本語能力試験N2を取り、楽園島に関わった時から日本語を猛勉強、今はN1相当の日本語力があるが難しい表現はまだ苦手であった
S子はR子と同様に日本語能力試験N3を取り、国立大学経済学部卒の学力もあって、猛勉強で現在の日本語力はR子より少し上
***
p.adminは、本題を促した。
p.admin:
「して、大夫殿と侍医殿のご用件を聞いても?」
大夫:
「では、侍医殿からご説明いたします」
大夫は侍医に視線を送り、侍医が切り出した。彼の声は低いが、その内容は日本の皇室の命運に関わる、極めて重大なものだった
侍医:
「朱雀様、ご用件を説明させていただきます。単刀直入に申し上げます。上皇様と上皇后様に、貴国の若返り治療を受けていただきたいと存じます」
p.adminの顔色が、わずかに変わった。これは、楽園島の「超技術」が、日本の最も神聖で不可侵な領域に触れることを意味していた
2027年時点で上皇様が93歳、上皇后様が92歳になりました
健康に大きな問題はないが、心臓の持病や老衰による体の負荷がが日々重くなるようです
宮内庁大夫のお願いは、国民に愛された上皇様と上皇后様に異星文明の若返り治療治療を受けてもらいたいの事でした
p.adminは少し考えてから、大夫や侍医に向けて口を開いた
p.admin:
「我が国は確かに若返り治療技術はあります、しかし治療を受けるには医療ベイ、つまり例の『棺』の様な物に週一回で一時間程の非侵襲治療を受ける必要があります」
p.adminは相手の反応を試した
p.admin:
「現時点で医療ベイの設置場所は楽園島と月面基地、そして我々の軍用宇宙船『ネイビーゲーザー』の内部しかないのは難点ですかね」
T先生:
「(少し考えて)つくば大使館に医療ベイを設置して、上皇様と上皇后様につくばにご訪問していただく事はいかがでしょうか?」
大夫:
「(深く頭を下げ)それは…本件は内密に行いたいと、我々も無理難題を申す事は理解しておりますが…何卒ご配慮していただければ…」
「内密に」それは、皇居御所に、外部の、しかも異星文明のテクノロジーを持ち込むことを意味していた
p.admin:
「要するに、皇居御所に異星文明の医療ベイを設置してほしい事だよね、本件は日本の医療法に抵触すると思いますが大丈夫でしょうか?」
p.adminの鋭い指摘に、侍医は一瞬、言葉に詰まった
侍医:
「朱雀様は鋭い所に突っ込みますね、確かに日本国内で許可なしの治療を受けるのは法令違反ですが…」
p.admin:
「ですが?」
侍医:
「我ら侍医団の監視下で、上皇様と上皇后様は偶々、貴国が献上した『クリスタル製のお椅子』に座って1時間程で休憩する…という運用をするなら、法令違反にならないと判断いたします」
p.admin:
「なるほどね、この運用方法には問題ないと思うけど、医療ベイには一応操作も必要で、楽園島で異星医療カリキュラムを受けた人は限られますし、後は医療ベイは異星文明の持ち物ですので濫用は困ります」
侍医:
「医療ベイは、上皇様と上皇后様のみ利用することを保証いたします」
大夫:
「医療ベイの操作については、もし我が国のM子様とK子様にもその『異星医療カリキュラム』を受けていただく事が可能でしょうか?彼女たちなら、信用に足ります」
大夫の提案は、日本の皇室内部に、楽園島の技術のパイプラインを作ろうという大胆な戦略だった
p.admin:
「うん、正直に申し上げると楽園島の重要幹部か、私の妻でなければ『ネイビーゲーザー』で異星医療カリキュラムを受けるのは難しいと思いますね」
大夫:
「なら!M子様もしくはK子様を!」
その時、会話を静かに聞いていたR子が、口を開いた。彼女の日本語はまだ少し拙いが、発言は明快だった
R子:
「旦那様、そんなことしなくても私かS子が教えて差し上げれば良いではないか?」
p.admin:
「(そうか、その手があった)あ、そうよね。R子もS子も5ヶ月近く異星医療カリキュラムを受けたし、君らが侍医に教えると問題ないよね」
R子の提案は、外交的な複雑さを一気に解消する、家族内の合理的な解決策だった
大夫:
「左様ですか…しかしリコ子夫人に多大なご迷惑を掛けてしまいますが…」
その時、S子が口を挟んだ
彼女は、この任務の重要性を理解していた
S子:
「では私が教えに行きましょう、ワープゲートを一時設置すれば、つくばにいる時と同じようにいつでも帰れるね」
p.admin:
「うん、医療ベイとワープゲートを上皇様の御所に治療完了まで設置する事を認めましょう、医療ベイの利用方法の伝授はS子にお願いしますね」
S子:
「はい、喜んで、旦那様!」
R子が、S子のその「旦那様!」という言い方に、一瞬で複雑な気持ちになった
R子:
「!?(旦那様なんて…)」
p.admin:
「詳しい事はS子に説明してもらいますが、若返り治療で週一回で凡そ半年間の若返り効果があるので、上皇様と上皇后様はどれくらいの身体年齢にお戻りなさいますか?」
大夫:
「できれば、外見を70代後半に戻していただき、身体には50代か60代までお戻しいただければ…」
S子:
「割と注文は多いよね、皮膚のアンチエイジング治療を意図的に弱くするもできますが」
大夫:
「見た目も60代だと国民は不審と思われる恐れがあるので、その辺もご配慮していただければ…」
S子の冷静な技術的分析と、大夫の世論への細心の注意が対照的だった
S子:
「大丈夫よ、お任せください!」
大夫や侍医によると、上皇様と上皇后様に早急に治療を受けさせてもらいたい事なので、
p.adminは、胸の三角バッジを軽く叩き、シグマとオメガ艦長に連絡した
彼らに、医療ベイを日本の皇居御所に設置する事に意見を求めた
オメガ:
「司令官の決定なら我々は異存はありません、ただ、アルファ提督にも連絡を入れればよろしいかと」
p.admin:
「了解です、アルファ提督にお取次ぎをお願いします」
オメガ:
「ただいま!」
するともう一個のホログラムが出現し、アルファ提督の姿を写していた
p.admin:
「アルファ提督、人類調和の為に一時に医療ベイを日本に設置することとなりました。よろしいでしょうか?」
アルファ提督:
「問題ありません。若返り治療は元々司令官殿の『お給料』の一つなので、人類の調和に役立つ利用なら尚更の事で問題ありません」
p.admin:
「アルファ提督、ありがとうございます」
かくして、異星文明の超技術は、日本の皇室という最も秘匿性の高い場所に、「クリスタル製のお椅子」という名の医療ベイとして、密かに設置されることが決定した
#### 皇室への異星医療と「クリスタル製のお椅子」
p.admin:
「大夫殿、侍医殿、医療ベイを設置は問題ない様です、本日中早速設置しに行きましょうか?」
大夫:
「朱雀様!ご配慮大変感謝いたします。本当に助かります!では早速ご案内させていただきます」
p.admin一行は、公の場では異例の速さで、東京都赤坂の仙洞御所へと向かった。
p.adminの服装は、いつものポロシャツにカジュアルな長パンツと登山靴というラフなスタイルだった。大夫からは「気にしなくて大丈夫」との言質を得ていたが、隣に立つT先生の表情は厳しかった。
長年日本の格式に生きてきたT先生にとって、このラフさは、いくら国交を結んだ相手とはいえ、皇室への訪問としては少々我慢ならないものだったろう
一方、W子、R子、S子の三人は、普段着よりやや華やかな落ち着いたドレスを着用していた
公式ではなく私的な訪問なので、一行は特別な出迎えもなく、御所の奥深く、侍医の診察室隣の部屋へと案内された
医療ベイの転送と設置は、一瞬の出来事だった
p.adminの指示を受けたシグマが「ネイビーゲーザー」からワープで医療ベイを仙洞御所の庭園へ転送した
その後、異星ドローンの重力制御によって、医療ベイは静かに部屋へと運ばれ設置された
大気中の水素からエネルギーを得る反水素リアクターを備えているため、外部の電源は一切不要だった
静かで優雅な空間に、クリスタルで出来た医療ベイはかなり異質さを演出している
#### 「お姉様」と皇室への医療伝授
S子が、クリスタルの医療ベイの隣に立ち、指導役として動き始めた
S子:
「では、操作方法を教えますが、説明を受ける侍医さんは一人で良いですか?」
大夫:
「S子様、少しお待ちください」
大夫は、S子の言葉を待っていたかのように頷き、すぐに扉の外へ視線を送った。しばらくすると、もう一人の侍医と、そして日本の皇室を象徴する二人の女性、M子様とK子様が姿を現した
M子様、K子様:
「S子様、本日はよろしくお願いいたします」
二人は極めて丁寧な態度だったが、S子は臆することなく応じた
S子:
「あら、お姫様自らが習いますね、どうぞよろしくお願い致します」
M子様:
「いいえ、姫様なんて…祖父祖母の上皇様と上皇后様の長生きを助けることができれば、それだけで嬉しく存じます」
K子様:
「私もM子と同じ思いで、S子姉様から色々教えてもらえればうれしいと存じます」
K子様が親しみを込めて「姉様」と呼んだことに、S子は内心の優越感を隠さなかった
S子:
「あらお姉様なんて口は甘いね、私は現在身体年齢32歳で、K子様と大して変わらないよ」
K子様:
「それは…すごく羨ましい限りと存じます…」
K子様の率直な羨望に、S子は確信を込めて囁いた
S子:
「旦那の朱雀様次第だけど、恐らく日本の王室メンバーなら利用許可は降りるじゃないかなと私が思うよ」
それを聞いたK子様の顔には、希望の光がはっきりと灯った。若返り治療という永遠の命に近い贈り物が、手の届くところにあるという事実は、日本の皇室の未来をも変える可能性を秘めていた
それから4時間程、S子がメインでR子がアシストしながら、侍医2人とM子K子に異星医療の基礎と若返り治療の原理などを説明していた
#### 上皇・上皇后との謁見
同時刻、p.adminとW子は、大夫に連れられ別室へ案内された。「挨拶と感謝の意を申し上げたい」という、上皇様と上皇后様からの丁重な申し出だった
大夫:
「(ドアを軽くノックして)お入りしてもよろしいでしょうか?」
???:
「お入りください」
室内には、質素なシャツとパンツ姿の上皇様と、簡素だが品のあるワンピースをお召しになった上皇后様が椅子に座っていた
p.admin:
「楽園島の朱雀と申します、こちらは妻のかおりです、上皇様、上皇后様、本日はお邪魔させていただきます」
上皇様は立ち上がろうとされたが、大夫に制止された
上皇:
「こうして座ったままで申し訳ございません、朱雀殿、本日は、わたくしと妻がお世話になります」
上皇后:
「朱雀殿、若返りできると聞いて本当に嬉しく思います、これからお世話になります」
しばし、静かな挨拶が交わされた。p.adminの直接的で裏表のない言葉遣いと、上皇・上皇后両陛下の国民を案じる温かい視線が交わる、異例の時間だった
挨拶の後、上皇様と上皇后様は医療室へ移動した
S子のカリキュラムの一環として、いよいよ若返り治療の実演が行われる
侍医A:
「S子様、本当に大丈夫でしょうか?何卒、ご慎重に」
侍医の不安をよそに、S子はクリスタルの医療ベイの前で、強い自信を放った
S子:
「ご心配には及びません。万が一、何かあれば『ネイビーゲーザー』にここより治療可能範囲が広い医療室もありますし。いままで高齢者の若返り治療も10数人の治療実績がありますし、高齢で末期がんからの回復も1例ありました」
「高齢で末期がんからの回復」とは、他ならぬRiu先生(当時87歳)のことだ
侍医B:
「さようですが…」
S子:
「例のアウンサンスーチー氏も若返り治療を受けましたよ、今見た目は若々しいでしょう?」
この具体的な情報に、大夫は納得した
大夫:
「なるほど、侍医殿お二人もS子様と異星医療を信じましょう」
上皇様が医療ベイに入り、横たわるとクリスタルのカバーが閉じた。S子が外のホログラムパネルで操作を開始し、その様子をM子様、K子様を含む全員が真剣な眼差しで観察していた
凡そ1時間後、上皇様が出てきた
大夫:
「上皇様、ご気分は如何でしょうか?:
上皇:
「大丈夫だ、少し不思議な感覚がありましたが、寧ろ気が楽になった気がします。さあM子(上皇后様)も入ってごらん」
上皇后様:
「分かりました」
上皇后様の治療を受けいる間に、S子は最後の指導を行った
S子:
「治療後、新陳代謝が早くなると思われますので、よく食べて、よく寝ることを心掛けてください。太くなることはありませんので、ご心配なく」
上皇:
「承知しました。わたくしと妻の為に、ありがとうございました」
S子:
「いいえ、上皇様、旦那様がお二方の力になれればと仰っていましたので」
p.admin:
「お二方は元気になれれば何よりです…あれ、太く事はないって事はなんて私は痩せないんだ?」
S子は、無表情でp.adminの体型を一瞥し、事実を淡々と述べた
S子:
「旦那様の太さの遺伝子が強すぎたせいよ、ネイビーゲーザー医療室のスタッフにも言われましたよ」
p.admin:
「え…そんな…」
p.adminは活動的な日々を送り、若返り治療も受けているおかげで体重は130kgから120kgに減ってはいたが、外見はまだ「太い」のままであり、その原因を「遺伝子」に押し付けられたことに、がっくりと肩を落とした
一時間後、上皇后様の治療が終わり、お二方は大事を取って簡単な食事の後に寝室に戻られた
S子:
「では今日のカリキュラムはここまでね、治療は週1回なので次回も治療当日でカリキュラムを続けますけど、いいかしら?」
大夫:
「はい、大丈夫と思います、また是非S子様にお願い申し上げます」
侍医たちとM子様、K子様は、S子とR子に深く感謝の意を表した
侍医達:
「本日のご教授、ありがとうございました!」
M子、K子:
「S子姉様、R子姉様、本日はありがとうございました!」
p.admin一行は帝国ホテルに戻ったら午後3時となり、また遅れた昼食を取る羽目になった
著者視点:
SF物語とは言え、日本の皇室に関して描写していることは恐れ入ります
極力、丁寧しかもメインシナリオに参入させないように努力していますので、「物語」としてご理解していただけたら幸いです
S子は楽園島の外交行事を参加しながら、自分がp.adminは支えなきゃという使命感が高まっています
プライベートでp.admin、W子とR子に混ぜて将来の家庭生活を体験できたところで
「Azureなら無理に嫌な事を押し付けることもなく優しい夫」とS子が確認できた
W子はもうS子の嫁入りを認める傾向がありますが、R子はまだ消極的に抵抗中
ただR子自身も近い将来S子が嫁になる現実を少しずつ受け入れようと努力した
S子はW子に入れ替わり正妻になるつもりは一切ないが、p.adminの妻としてもっと活躍したい気持ちは強かっただろう
皇居御所で異星医療を教える事を志願したことは、ある意味フィアンセとしてM子様とK子様に睨み付けする思惑もあるかもしれない
因みにS子はイギリスやフランスの国交締結式典後の舞踏会でティアラ姿でデビューしたいようです、その前にp.adminに結婚を迫ります
* 若返り治療の対価
対価の話ですが、p.adminとしては一応「想定」したが、敢えて言わなかった
言ったら失礼しかも強欲と思われるからでしょう
今まで幹部の若返り治療もお金の話も出てきません、ボーナスとしても算入されないからp.adminは若返り治療を金儲けとして想定してないかもしれない
日本の皇室側としてはもちろん報酬について想定しており
しかし内密の治療なので、公の予算や支出からの支払いは避けたい
解決方法というか、突破口については大夫殿も苦慮したようです
助け船は、N君が「ティアラ」について宮内庁への打診です…(笑)




