D-DAY+201 2027年7月上旬 再びH親王邸訪問 その2 花嫁たちの決断
この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません
* PM 3:30
p.adminとS子のロジカルかつ熱意ある説明、そして何よりK子様本人の固い決意により、H親王はようやく「K子がネイビーゲーザーに乗ってポルカラ本星(トラピスト1e)へ行くこと」を認可した
ここから先の具体的な実務、日本政府との交渉、ポルカラ本星への同行人員の選定、そして地球から持参する「お土産(文化交流の品)」の選定は、宮内庁大夫を通して進められることとなった。
こればかりは「執行官」であるp.adminの専門外だ
彼は、海産物や物産の卸に詳しく、強気な交渉ができる経済産業総括官のS子と、政治的な駆け引きのプロであるT先生(楽園島日本大使)にそのタスクを一任した
ただし、p.adminは同行者の条件について、譲れない厳格な要求を出した
p.admin:
「同行者は、K子の世話係と、私が直接審査・面接したJAXAやAIST(産総研)の純粋な科学者のみ。分不相応な野心家や、政治的な立場を持つ者は徹底的に排除し、外交関係者は必要最小限に留めること」
日本政府側としては、楽園島(p.admin)の頭越しに、ポルカラ本星の女王と直接的な同盟関係を結び、異星のテクノロジーを独占したいという打算が少なからずあるはずだ
しかし、その野心は現在p.adminがポルポ・カラマリのルールに則って遂行している「地球の執行官」としての業務の邪魔にしかならない
もし日本が単独で抜け駆けすれば、他の国々が黙って座視するわけもなく、地球規模の火種になりかねないからだ
p.adminは元首としての威厳を纏い、傍らに控える宮内庁大夫に厳粛に言い渡した
p.admin:
「大夫殿。我が国(楽園島)の主権と、地球全体のシステムの安定を守るため、今回のK子のポルカラ本星訪問の同行者については、一人一人を我々が厳格に審査・面接する必要があります。
ネイビーゲーザーは異星テクノロジーの機密の塊です。分不相応な野心を抱く者、そして政治的な打算がある者はご遠慮いただきたい。もちろん、私としては日本国の外交を無理矢理に制限するつもりはありませんが、今回の目的はあくまで『K子が私の妻になる前提の報告訪問』であり、貴国の星間外交の場ではないということを、政府側へ強くご理解させてください」
宮内庁大夫は、その言葉に込められた絶対的な圧力に深く頷きつつも、日本側の苦しい事情を静かに説明した
宮内庁大夫:
「朱雀陛下のお考え、ごもっともでございます。同行者の選定につきましては、陛下のご意向を絶対の条件として、私が責任を持って政府・官邸に申し伝えます。……しかしながら、陛下」
p.admin:
「なんでしょうか?」
宮内庁大夫:
「皇室のK子内親王殿下が、友好の使者として異星の文明へ長期にわたりご出発されるとなれば、日本国として、国民に何も説明せずに『こっそりと出発させる』という国の体裁は取れません。ある程度の公式な発表と、最低限の政府代表者(建前上の見届け人)の同行は、国家のメンツとしてどうしても避けられないかと存じます。その点だけは、どうかご配慮いただけないでしょうか」
p.adminは少し考えた後、「公式発表の体裁と、最小限の見届け人までは許容する。ただし、最終的な乗艦の決定権は私が持つ」と返し、大夫も安堵の表情で深く頭を下げた
* M子様の電撃提案
交渉の結果、一つの大きなスケジュール案が事前合意に達した
『p.adminとK子様のポルカラ本星への出発は概ね二ヶ月後。そして約一ヶ月間の旅程を経て地球へ帰還した後、p.adminとK子様の正式な「婚姻の儀」を執り行う』というものだ
その決定を聞いた途端、N君の傍らに立っていたM子様が、ピンと背筋を伸ばして両親と宮内庁大夫の前に進み出た
M子様:
「お父様、お母様、そして大夫さん……朱雀様たちが出発される二ヶ月後までの間に、早急に、わたくしとAlex様の『婚姻の儀』を行いたいと思います!」
突然の宣言に、その場の空気が一瞬止まった
M子様:
「理由は明白ですわ! 世界中から注目される世紀の婚儀の主役は、間違いなく朱雀様と妹のK子です。お二人が遠く異星から凱旋されて結婚した後にわたくしたちの結婚式をやったって、影が薄くなって誰も注目してくれないじゃないですか!
だったら、一番手としてわたくしとAlex様が先に式を挙げて、一ヶ月後の凱旋と共に『本番の主役』の座をK子に綺麗にお譲りする方が、物語としても一番美しいではありませんか!」
妹の晴れ舞台を立てるという皇族らしい気遣いを、あくまで「自分のため」という形に変換してのけるM子様らしい、痛快な提案だった
隣にいるN君も、少し苦笑いしながら頷いた
N君:
「……M子様の仰る通りです。政治的な順序や、世間の関心のピークコントロールを論理的に計算しても、M子様の提案は極めて妥当なスケジュール戦略であると、私も同意いたします」
とはいえ、M子様とN君の結婚日程は、本来皇室と日本側とN君の調整で決める事柄だ
p.adminが口を出すべきではない
しかし、現場の空気は「N君の主君である朱雀は、この順序の変更をどう思われるか?」と、まるで彼の裁可を求めるようなムードになっていた
空気を読んだp.adminは、静かに微笑んで口を開いた
p.admin:
「M子様とN君の結婚日程は、お二人の意向と日本側との調整で決めるべき大切なものです……私は、お二人が決めたその日程を、全面的に支持いたします。素敵な式になることを楽しみにしていますよ」
M子様はパッと花が咲いたような笑顔で「ありがとうございます、朱雀様、Alex様!」と感謝を述べ、N君も主君のスマートなフォローに深く頭を下げた
* 「ドアは開ける」
本日の目的が概ね達成され、p.adminたちがそろそろ帰路につこうとした時、H親王妃が「少し待ってほしい」と引き留めてきた
H親王妃:
「朱雀陛下。実は午後5時に、皇后さまがこちらへ私的訪問でお見えになる予定なのです。例の『お土産』の件で、リコさんがご一緒して、直接お渡ししつつ使用法などをご説明いただいた方が宜しいかと思いまして……」
R子は、責任ある内務総括官として、そして皇后というVIPへの対応として、すぐさま「喜んで同席させていただきます」と同意した
p.adminも、客としてのマナーや、R子を一人親王邸に残して自分だけ帰るわけにもいかないと考え、ここで皇后の到着を待つことにした
これにより、1時間強の空き時間ができた
H親王妃:
「あら、時間があるならリコちゃん、今日も晩ご飯の準備、少しキッチンで手伝ってくれないかしら? あなたの和食の手際、とても素晴らしいから」
R子:
「はいっ、お義母さま! お手伝いさせていただきます!」
すっかりH親王妃に気に入られているR子は、エプロンを借りて二人で嬉しそうにキッチンへと消えていった
一方、M子様とN君は宮内庁大夫を捕まえて「婚姻の儀」の前倒しに向けた詳細な実務の打ち合わせに突入し、T先生とS子も、日本政府側との根回しのために別の部屋へ移動して連絡を取り始めた
取り残され、手持ち無沙汰になったp.adminとK子様
K子様:
「朱雀様……おばさま(皇后)がいらっしゃるまで、よろしければ、わたくしの私室でお話ししませんか? 少し、休まれてくださいませ」
婚約者の自室へのお誘い
それを聞いたH親王は、ピクッと眉をひそめ、父親としての厳格な顔を覗かせた
H親王:
「……朱雀殿。娘の部屋に入るのは構わんが……『ドアは必ず開けたまま』にしておくこと。いいな?」
その念押しの鋭さに、p.adminは少し冷や汗をかきながら「も、もちろんです、お義父さま。お気遣いなく」と即答した
こうして、p.adminとK子様は、ドアを少し開けたままの静かな私室で、皇后の到着までの穏やかな時間を過ごすことになった
#### 姫様のパソコンを修理する理系男
初めて足を踏み入れたK子様の私室。
そこは綺麗に整理整頓されており、一般的な個室よりもやや広く、上質だが華美すぎない家具やクローゼット、ドレッサーが備えられていた。壁には品の良い現代アートが飾られ、皇族の部屋らしい気品がある
しかし、p.adminの目を引いたのは、ベッドの枕元にちょこんと置かれた「アルパカのぬいぐるみ」だった
p.admin:
(かおり(W子)の寝室にはたくさんぬいぐるみが飾られているし、リコ(R子)の部屋もネズミのキャラクターグッズがいっぱいで可愛らしい少女風だった。さや(S子)の部屋はぬいぐるみがなくてスタイリッシュで洗練されていたけど……。K子の部屋はさやの雰囲気に近いかと思いきや、こういう可愛い一面もあるんだな)
p.adminはベッドを直視しすぎないよう視線をそらし、読書用のテーブルに置かれた一台のノートPCへと目を向けた
p.admin:
「なんだか、ここに入れたのはゲームで言えば、すごく大きなトロフィーですね。困難なクエストをこなして、やっと見られた隠れシナリオ的な……」
K子様:
「ふふっ。朱雀様は……時々、そうやって浮世離れしたお話をされるのがお好きなんですね。私の部屋だって、別に普通の女性と全然変わりませんよ?」
p.admin:
「俺が初期のファ〇コンやメ〇ドライブ世代で、『インターネット老人会』とも呼ばれる黎明期のネット文化で育ったのもあるかもしれないね。昔の2ch(2ちゃんねる)なら『俺、今リアル姫様の部屋に潜入中。指示を乞う』みたいなスレを立てたら、一瞬でスレが埋まったかもしれない」
K子様は少し困ったように眉を下げた
K子様:
「2chは……昔、いつも朱雀様の悪口がたくさん書かれていたところですよね。あの……プライベートなことを掲示板に書くのは、いくら朱雀様でもやめてくださいね?」
p.admin:
「あはは、今はもうやらないよ。昔は俺も立派な2ちゃんねらーだったけどね。もちろんK子を守るから、変な情報は一切SNSや掲示板には書かないよ……ごめん、『電車男』世代だから、変な妄想癖がついちゃってて」
K子様:
「電車男……ですか? お名前だけは見覚えがございますが、具体的なお話までは存じ上げません……」
無理もない。現在30代前半のK子様にとって、2004年に2chから生まれた純愛物語『電車男』
オタク青年(電車男)が電車の中で酔っ払いから女性を救い、掲示板の住人のアドバイスを受けながら、女性を食事や映画に誘い、恋を実らせるストーリーが大ブームになった時、彼女はまだ10歳の子供だったのだ
他愛のない世代間ギャップを埋めるように、p.adminはテーブルのノートPCに話題を振った
p.admin:
「ところで、K子もパソコンを結構使うんですね。俺、学生時代にクラスメイトの女性と接点を持てた唯一の理由が『パソコンの修理』だったんだ。修理しすぎて、おまけに国家資格(台湾)まで取れちゃったくらいで」
それを聞いたK子様の瞳が、わずかに期待に輝いた
K子様:
「朱雀様……実は。私のこのパソコン、ここ数ヶ月動作がとても重くて……ネットもまともに見られない状態でして」
p.admin:
「今時、パソコンもそんなに高くないですからね。20万円台くらいの新しいのを買えば、快適に使えますよ。データも移行すればいいですし」
K子様:
「しかし……このパソコンの中には、簡単に他の人に見せられない『昔書いたもの』や写真がございまして。サポートセンターなどに出すのも少し躊躇われて……」
p.admin:
「そうか。じゃあ、俺がそのパソコンの問題を見てみましょうか? 俺なら大丈夫?」
K子様:
「はい。朱雀様なら、心から信頼できます。……ただ、昔書いたポエムのようなものは、絶対に見ないでくださいませ」
p.admin:
「俺だってプロのエンジニアですから。プライバシーポリシーは厳守しますよ」
* PC修理クエスト開始
p.adminはテーブルの前に座り、ブラウン色のOIVAのノートPCを開いた。キーボード下のシールを見て、第8世代のCore i5 CPUであることを確認する
p.admin:
(第8世代か……。ギリギリWindows11のシステム要件を満たせるPCだな)
電源を入れると、案の定OSはWindows11だった
p.admin:
(大方、よく分からないままWindows11に無理矢理アップグレードされて、古いデータの蓄積と相まって重くなる典型的なパターンだな)
3分ほどかかってようやくログイン画面が立ち上がり、K子様が指紋センサーでロックを解除した
p.admin:
「では、中身を見させていただきますね。俺が変なファイルを開かないように、K子が隣でしっかり監視していてください」
p.adminはまず「タスクマネージャー」を起動し、スペックと負荷状況を確認した
『CPU:i5-8350u / メモリ:8GB / ストレージ:256GB SSD』
p.admin:
(あの時代のスリムノートPCの標準的な構成だな。しかし、いくらなんでもここまで遅くなるのは異常だ……。そうだ、SSDの空き容量か)
「エクスプローラー」を開くと、SSDの空き容量を示すインジケーターが真っ赤になっており、残り100MBほどしかなかった
システムドライブがいっぱいになれば、PCは致命的に遅くなる
p.adminは「Winキー + R」でファイル名を指定して実行を開き、『cleanmgr』と入力。システムのクリーンアップツールを立ち上げ、不要なWindows Updateの残骸や一時ファイルを一掃した。これだけで約35GBのスペースが解放された
さらにタスクマネージャーを見ると、メモリが常時7GBも消費されていた
p.admin:
「K子、このパソコン、同時に二つのウイルス対策ソフト(古い期限切れのプリインストールされたソフトと、Windows Defender)が走っている状態だよ。CPUとメモリのリソースを奪い合って、これも遅くなる大きな原因の一つだ……Windows内蔵のDefenderだけで十分だから、古い方は削除してもいい?」
K子様:
「はい。難しいことは分かりませんので、朱雀様にすべてお任せいたします」
p.adminは手際よくプリインストールされていた不要なウイルス対策ソフトをアンインストールし、さらにバックグラウンドで無駄に動いているアプリをK子様に説明しつつ、同意を得て次々と削除・停止していった。ブラウザのキャッシュもクリアする
約30分の作業の結果、SSDの空きスペースは60GBほどに回復し、パソコンの動作は最初とは比べ物にならないほどスムーズになっていた
p.admin:
「大体終わったよ。K子、少し使ってみて? 個人データが入ってるフォルダには一切触ってないから安心して」
p.adminが席を譲り、K子様がブラウザなどを操作してみる。その間、p.adminはあえて視線を外し、彼女に背中を向けていた
K子様:
「……! はい、操作がとても楽になりました。まるで買ったばかりの頃のようです。朱雀様、本当にありがとうございました」
p.admin:
「ははは、K子は気にしなくていいよ。姫様のパソコンを直せるなんて、エンジニアの冥利に尽きるからね」
K子様はそれを聞いて、くすりと上品に笑った
K子様:
「ふふっ。朱雀様ご自身も『王様』ではありませんか。私だって、王様ご直々にパソコンの修理をしていただけたのですから、一生の自慢になりますわ」
p.admin:
「他には気になるところはある? できることは一気にやった方がいいよ。……あとはこれ、K子にあげます。パソコン自体が古いから、大事な写真やデータはこっちにバックアップしておいた方がいい」
p.adminはリュックから、未開封の256GBのUSBメモリ(Type-A)を取り出してK子様に渡した
p.admin:
「ほら、ネイビーゲーザーに乗ってポルカラ本星に行く時は、このPCをそのまま持っていくより、データを移して新しいPCを新調した方が絶対に快適だしね」
* ガラケーの記憶
K子様はUSBメモリを受け取り、感謝しつつも、少し言い淀むように質問してきた
K子様:
「あの……朱雀様。もし、よろしければ……。昔使っていた携帯電話の中の写真も取り出したいのですが、それは可能でしょうか?」
p.admin:
「機種や年代によりますね。古い携帯だと、専用の通信ケーブルや吸い出しアプリを使わないとダメなものもあるので。現物を見ないと何とも言えないかな」
K子様は机の引き出しを探り、傷の少ないピンク色の折り畳み式携帯電話を取り出してp.adminに渡した
p.admin:
「FOMAの3Gガラケーか……。これだったら、おそらく可能ですね。どれどれ」
p.adminは手慣れた手つきで携帯のバッテリーカバーを外し、SIMカードは刺さったままだが、microSDカードスロットが空であることを確認した。電源ボタンを長押ししてみるが、完全に放電しており反応はない
彼はリュックの中から、様々な接続ケーブルや変換コネクタが詰まった「ガジェットポーチ」を取り出した
中には、古いiPhone用のケーブル、USB mini-B、Walkman用のWM-PORT、そしてガラケー用の『Docomo/SoftBank共通通信・充電ケーブル』が入っている。さらに、昔のガラケーは最大2GBまでの規格のメモリカードしか認識しないため、彼は秘蔵の「512MB microSDカード」も常に2枚持ち歩いていた
p.adminは512MBのmicroSDをガラケーに差し込み、カバーを閉めてから、モバイルバッテリーと専用ケーブルを繋いで充電を開始した
p.admin:
「ケーブルもカードもあったよ。とりあえず少し充電してから電源を入れますね」
約10分後、懐かしい起動音と共に携帯が立ち上がった。しかし、ここでも端末パスワードの入力が求められる
K子様が携帯を受け取って暗証番号を入力し、ロックを解除した
p.adminは受け取り、操作して「データフォルダ(アルバム)」の画面に入った
その瞬間、画面に高校生か大学生の頃の若いK子様と、ご学友たちの初々しい写真がずらりとサムネイルで表示された。今よりも少し幼く、無邪気な笑顔の女子高生のような姿だった
p.admin:
「あ……! ごめん、これは不可抗力だよ。アルバム機能に入らないとmicroSDへのバックアップ操作ができないから」
K子様は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに両手で頬を覆った
K子様:
「み、見ないでくださいませ……っ! 昔の、お恥ずかしい写真ばかりなのですから……!」
p.admin:
「見ないよ! 今、俺は完全に画面の文字しか見てないから!」
p.adminは本当に写真を見ないように視線のピントをぼかしながら、メニューから「microSDへ全件コピー」の機能を選び、実行した
約10分強で、全ての写真がmicroSDにバックアップされた
電源を切り、microSDを取り出したp.adminは、リュックからUSBカードリーダーを取り出し、ノートPCのUSBポートに接続した
p.adminは再びK子様に背を向け、画面を見ないようにして手順を教えた
p.admin:
「もう写真は、パソコンのエクスプローラーのUSBドライブに出ているはずだから、Cドライブの好きなフォルダにコピーしてくださいね。
……ただ、これは写真のデータだけです。当時のメールやメッセージの履歴は、キャリア専用の読み出しアプリが必要で、今すぐにはバックアップできないんだ。ごめんね」
K子様:
「いいえ……! ここまでしていただけただけで、十分すぎます。ずっと取り出したかった大切な思い出でしたので……本当にありがとうございます」
K子様はホッとしたように微笑み、パソコンの前に座って写真をCドライブの秘密のフォルダへと移動させた
p.admin:
(なんだか、部屋デートというより、ガチの「出張パソコン修理」になっちゃったな……。まあ、これはこれで楽しいからいいか。俺のエンジニアとしての腕が鈍ってなくてよかった。半分は『ケーブルとmicroSD』という装備の勝利だけどね)
気がつけば、1時間以上の時間が経過していた
パソコンとガラケーの修理という思いがけない「共同作業」を終え、p.adminは用意された椅子に、K子様はベッドの縁に腰を下ろした
K子様:
「……朱雀様。先ほどの『電車男』というお話。もしよろしければ、もう少し詳しく教えていただけませんか? なんだか、とても興味深く思えてきまして……」
修理の緊張が解けたK子様の声は、先ほどよりもずっと柔らかく、親密なものに変わっていた
皇后さまが到着するまでの残りの時間、二人は少し古い、けれどロマンチックなインターネットの純愛物語について、静かに、そして楽しげに語り合うのだった
#### PM 5:00 赤坂御用地・H親王邸:皇后さまの私的訪問と、美の霊薬
時刻は午後5時前
静かなリビングルームに、侍従長が静かなノックと共に足を踏み入れた
侍従長:
「殿下。間もなく、皇后陛下がお着きになられます」
ソファで新聞を広げていたH親王は「わかった」と短く応じて立ち上がった
K子様の私室で「パソコン修理と電車男の談義」を終えてリビングに戻ってきていたp.adminとK子様も居住まいを正す
さらに、キッチンからエプロン姿のままひょっこりと顔を出したH親王妃と、別室で日本政府と電話連絡をしていたT先生とS子も、慌ててリビングへと集まってきた
H親王妃:
「あら大変! リコちゃん、火を止めてちょうだい! 皇后さまがいらっしゃるわ」
ほどなくして、侍従長に先導され、上品なスーツに身を包んだ皇后さまが柔らかな笑みを浮かべてリビングへと入室された
p.adminは、王としての威厳を一旦引込め、一人の礼儀正しい青年として深く、畏まった挨拶をした
p.admin:
「皇后陛下。本日はお目にかかれて大変光栄でございます」
皇后陛下:
「ふふっ。朱雀さま、そこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ。……我々はもう、親戚のようなものですからね」
気さくで温かいお言葉に、p.adminもほっと肩の力を抜いた
皇后さまが来客用の上質なチェアに掛けられると、キッチンから慌てて手を拭きながらR子が出てきて、深くお辞儀をした
それに合わせるように、H親王妃が自室から大きな手提げ袋を抱えて戻り、中から多角形にカットされた美しいクリスタルの容器を、リビングのテーブルの上にずらりと並べた。計10缶
R子:
「皇后さま、そしてお義母さま。こちらは今回ご用意できた『ハチミツクリーム』のです。実は、抽出するハチミツの原料をすでに使い切ってしまいまして……ここにある10缶と、楽園島に保管している5缶ほどで、当面の在庫は終了となります」
皇后陛下は、テーブルに並んだクリスタルの容器を見るなり、両手を合わせてパッと表情を明るくされた
皇后陛下:
「まぁ……! リコ妃、本当に何から何までありがとうございます。この素敵なクリームの追加を、心からお待ちしておりましたのよ」
話を聞けば、皇后さまは五日前(納采の儀の直後)から、提供されたクリームを朝晩のスキンケアとして顔や手に塗るようになったという
たった数日間の使用にも関わらず、その効果は抜群だと絶賛された
隣で相槌を打つH親王妃も同様だ。彼女の肌の状態が日々向上していることは、p.adminの目から見ても明らかだった
目尻の小じわは消え、手の甲もとても60歳近いとは思えないほどのハリと艶を取り戻している
異星の本格的な『医療ベイ』による細胞レベルの全身若返りとは異なり、このハチミツクリームは「皮膚と表層血管」にのみ作用する
そのため、不自然に年齢を誤魔化すのではなく、「現在の年齢の外見のまま、極限まで美しく健康的になる」という、女性にとってある意味で最も理想的な効果をもたらしていた
しかし、R子は内政総括官としての冷静な視点で、少し慎重に釘を刺した。
R子:
「ですが……次回ご提供できるのは、おそらく数ヶ月後になると思います。用量の目安からして、一缶で一ヶ月から二ヶ月はお使いいただけるので足りるとは存じますが……その、あまりに多くのご友人に分け与えられたりしますと、こちらの生産が追いつかなくなる可能性もございまして……」
H親王妃は、R子の言いたいこと(美容に執着するセレブネットワークに広まるとパンクする)を瞬時に察し、優しく微笑んで答えた
H親王妃:
「ええ、分かっているわ。このクリームは、もう一人、よりご高齢の女性皇族の方に少しお分けしただけで、あちらから追加のご要望はございませんから。今回は、私と皇后さまで大切に使わせていただきますね」
なお、楽園島と日本農林水産省の取り決め上、金銭の授受はご法度であるため、今回もお金の話は一切出なかった
ここから、10缶のハチミツクリームの「山分け会議」が始まった。皇后さまは平等に「5缶ずつ」で分けるおつもりだったが、H親王妃が気を使い、「私は前回いただいた分がまだ少し残っておりますから」と固辞。結局、皇后さまが6缶、H親王妃が4缶という配分で平和裏に合意した
テーブルの上で高級そうな缶を分け合う高貴な女性たちの姿を見て、p.adminは心の中で密かにツッコミを入れた。
p.admin:
(……なんだか、アンダーグラウンドな薬の違法売買の現場みたいだな。まあ、独占市場の密輸品って意味では、あながち間違ってないけれど)
その視線に気づいたK子様は、口元を袖で隠しながら小さく吹き出した
K子様:
「女性にとって『美』の追求は、国境も星も越えるほど真剣なものなのです。朱雀様には少し恐ろしく見えるかもしれませんけれど」
と、小さい声で補足した
* PM 5:30 手料理の食卓
すでに夕食前の時間だったが、皇后さまはここでは食事をとらず、6缶のハチミツクリームが入った手提げ袋を大切そうに抱え、侍従長の案内で皇居へと戻られていった
その嬉しそうな後ろ姿を見送った後、H親王は内心で少しだけ苦笑していた
H親王(内心):
(やれやれ。皇后陛下も妻も、すっかりあのクリームの虜だな。……しかし、妻が日に日に美しく若返っていくのを見るのは、夫としては悪い気はしないものだ)
H親王妃:
「では、そろそろご飯にしますね。リコちゃん、最後の仕上げよ。一緒にやりましょう!」
R子:
「はいっ、お義母さま!」
すっかり意気投合している二人は、足取り軽くキッチンへと消えていった
p.admin:
(完全に『仲の良い嫁姑』の構図だな。……関係ルート的に言うと、義理の娘というより『娘の夫の別の妻』という複雑すぎる立ち位置なんだけど。とにかく、二人が仲良くなってくれて本当に良かったよ)
すると隣で、K子様が少しだけ悔しそうに唇を噛んだ
K子様:
「リコお姉さまとお母様は、まるで本当の母娘のように見えますね……私も、あのように手際よく、きちんとしたお料理ができれば……」
p.admin:
「ははは。ちなみに、さや(S子)も料理は全然できないよ。我が家の料理スキル順は、おそらく『リコ > 俺 = かおり > さや』だから、K子もそこまで気にしないでくれ。得意なことをやればいいんだよ」
それを少し離れたところで聞いていたS子が、すかさず鋭いツッコミを入れた
S子:
「ちょっと! 私の存在価値は料理の腕じゃないからね! 兆円単位の契約を取ってくる妻なんだから、料理くらい他の人にでもやらせなさいよ!」
* PM 6:00 温かな晩餐
前回訪問時の経験を活かし、この日、H親王妃とR子は、皇族の食卓としては気取らない、しかし上質で温かみのある和食をたくさん作ってくれた
食卓には、ふっくらと炊き上がった『とうもろこしと枝豆の炊き込みご飯』、メインの『金目鯛の煮付け』、彩り鮮やかな『夏野菜の揚げ浸し』、そして出汁の香りが胃袋を刺激する『鶏肉と根菜の筑前煮』と『茗荷と豆腐のすまし汁』が並んだ
大柄なp.adminがよく食べることを想定して、量も多めに用意されている。p.adminは遠慮せずに大盛りに取り分け、美味い美味いとご飯を進めた
なお、この日はH親王妃の「健康のため」という絶対的な意向により、アルコールはNGとされた
H親王は少し悔しそうに冷たい麦茶のグラスを傾け、p.adminも空気を読んで「俺も冷たい麦茶で」と合わせた
和やかな雰囲気の中、p.adminは初めてこの邸宅を訪れた時の針のむしろのような緊張感とは打って変わり、心から素直にH親王妃とR子の手料理を楽しむことができた
……ただし、この場で一人だけ、極度に緊張している男がいた。T先生である
国際政治の泥沼を生き抜き、どんな大物政治家を前にしても飄々としている老練な外交官だが、「目上の方の皇族のプライベートな手料理をご馳走になる」というあまりにも恐れ多いシチュエーションに、彼は背筋をピンと伸ばしたまま、金目鯛の身を少しずつ慎重に崩していた
* PM 7:30 起工式への同行
食後、H親王妃が淹れてくれた香りの良い紅茶をいただきながら、p.adminは(長居しすぎたな、そろそろ戻らないと)と考え始めていた
その時、三日後に迫った「イギリスでのノーズ海峡橋の起工式」を念頭に、K子様が凛とした声で発言した
K子様:
「……朱雀様。三日後のノーズ海峡橋の起工式についてですが。私も、ぜひ同行させてはいただけないでしょうか?」
p.adminは躊躇することなく答えた
p.admin:
「全然いいですよ。今回は長居せずに、式典が終わったら日帰りしたい気持ちなんだけど……時差の都合で、日本時間だと翌日の朝に戻る強行軍になるかもしれない。それでも大丈夫?」
K子様:
「はい、大丈夫でございます。念のため、滞在が延長になることも考えて準備してまいります」
そのやり取りを横で聞いていたM子様は、即座に隣のN君の袖を引いた
M子様:
「Alex様。朱雀様が仰っていたイギリスの起工式には、Alex様も出席なさるのでしょうか?」
N君:
「……はい。自分は外務総括官として、式典で朱雀様を補佐する責務がございますので、同行いたします」
M子様:
「だったら、わたくしも一緒に行きます! 良いですね、Alex様? 朱雀様? お父様?」
押しかけ女房のような宣言。N君は彼女の行動力に少しだけ心配そうな顔を見せたが、すぐに諦めたように優しく頷き、同行に同意した
p.admin:
「もちろん、M子様の同行も歓迎しますよ。イギリスのJ首相も喜ぶでしょうしね」
H親王は、娘たちの自由すぎる振る舞いに「やれやれ」といった表情で額を押さえたが、もはや止める気はなかった
H親王:
「……こういうことは、今後はもうお前たちで話し合って決めなさい。ただし、政府の外交プロトコルに迷惑はかけるなよ」
めずらしく父親から完全な「お墨付き」をもらい、姉妹は顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ
* PM 8:00 帰還
時差が4時間ある楽園島は、すでに日付が変わって深夜の12時を回っている
p.adminと妻たち、N君、T先生がH親王邸を退出する時が来た。玄関口での別れ際
K子様は、周囲の目(特に父親の目)を少しだけ気にしつつも、勇気を出してp.adminの腰にそっと手を回し、優しく抱きしめた
K子様:
「おやすみなさいませ、朱雀様……。今日は、本当にありがとうございました」
p.admin:
「おやすみ、K子。また近いうちに迎えに来るよ」
妹の大胆な行動を見たM子様も負けじと、さらに情熱的にN君の首に腕を回して強くハグをした
H親王はすっかり耐性がついたのか、明後日の方を向いて見ないふりを貫いていた
その後、p.admin一行は赤坂御用地を後にし、楽園島大使館の2台の公用車に乗り込んでつくばへと急いだ
大使館屋上のワープゲートを通り抜け、静まり返った楽園島中央広場に戻ってきたのは、すでにAM 1:20頃だった
この日は、ローテーション通り「W子」の番だ
p.adminは、N君、そしてR子とS子に「お疲れ様」と労いの言葉をかけ別れると、家で待つ第一夫人の元へと、足早に家庭用マンションへの一直線の帰路についた
長い長いD-DAY+201が、ようやく静かな眠りへと就こうとしていた
お待たせしました
今回は通常運転の文字数です(笑)
元々は電車男の映画シーンのディスカッションも書きたかったですが、文字数を見て自粛した
今後、ネイビーケーサーに乗ってポルカラ本星まで到着の途中で、p.adminとK子が一緒に映画をみて話し合うシーンを書く…かもしれない




