#3 覚醒
「はぁ、はぁ、はぁ、」
目の前の悪魔は俺に襲いかかってくる。
俺はかわしながら、横から悪魔の胴体に拳を叩き込む。
ドッ!
俺の渾身の一撃でも、悪魔には全く効いてない。
悪魔は脅威的な生命力を持っている。
それこそ、魔法という力を使わなければ倒せないほどに。一般人の高校生の拳なんて、びくともしないのだ。
「グワァァァァ!」
その悪魔は俺の腹に突進してくる。
俺は避けることができず、その攻撃に直撃してしまう。鈍い音が響き渡り、俺の体はゴム毬のように弾み、壁に叩きつけられた。
「ゴハッ!ガッ、アッ、」
(はぁ、はぁ、このままじゃ、死ぬな…)
「こんなところで、死んでたまるか…!」
俺は再び立ち上がり、悪魔に拳をふるおうとしたのだが、悪魔はそんなことさせてくれなかった。俺はまた攻撃を喰らってしまい、徐々に意識が薄れていく。
少し時間が経って、俺は意識を取り戻した。
もうダメかと思ったが、なんとか生き延びたらしい。
いや、違う。
俺が眠っている間に、何かがあった。
悪魔はまだそこにいるし、ミサキが助けてくれたわけじゃなさそうだ。でもさっきまでの俺とは、
少し違う。
体が軽い。そして力が湧いてくる!
今なら、勝てる気がする…!
そして俺はその悪魔に告げる。
「覚悟しとけよ?」
俺は再び拳を固め、悪魔の元へ駆け出す。
しかし俺が想定していたよりも、はるかに早く走ることができて、俺は勢いを殺しきれず悪魔にぶつかってしまった。
ズドーン!
(はは、すげえな。力が無限に湧いてくる!)
悪魔にもダメージはあるようだ。
そして悪魔は怒りだし、俺の元へ走ってきた。
俺は拳を構え狙いを定める。
悪魔が突進してくるのにタイミングを合わせて、
俺はカウンターでパンチを繰り出す。
ドゴォッ!グチャッ!
俺の拳は悪魔の体を貫いた。
周囲に悪魔の血が飛び散り、悪魔は力無く倒れた。
俺は初めて、悪魔に勝利した。
「はぁ、はぁ、ちょっと疲れたな。
ミサキは大丈夫かな…」
ーーーーーーーーー
私がその部屋に入ると、うじゃうじゃと悪魔が群がっていた。こんなの、本来ならばあり得ないことだ。
悪魔は脅威的な生命力を得た代わりに、知恵を持たない生き物だ。このように群れをなして行動できるほどの知性はないはず…
いや、そんなこと今はどうでもいい。
もしこの数の悪魔が外に放たれたら被害は甚大だ。
私がここで、絶対に狩り尽くす!
私はいつものように剣に炎を纏い、悪魔に斬りかかる。
「はぁぁぁぁ!」
ザシュッ!
私は悪魔を一体ずつ切り裂いていく。
一体一体の強さはそれほどでもない。
冷静に戦えば勝てる。
私にはそれほどの実力がある。
ズバッ! ザシュッ!
「ギィヤァァァァァ!」
悪魔どもが大人しくやられてくれるはずもなく、
私を見るやいなや一斉に襲いかかってくる。
私は手から火球を作り出して悪魔どもに放つ。
「"赫焔球"!」
私の火球は悪魔どもを燃やし尽くしていく。
ドーーーーン!
(よし、いける!勝てる!)
私は何度も何度も赫焔球を放ち、悪魔を蹴散らしていった。
私は魔力を使い果たしつつも、視界に入る悪魔は全て狩ることができた。
(よかった、あとは颯月と合流して…)
私がそんなことを考えていた時、
ドーーーーン!
私の背後の壁が壊され、一体の悪魔が入ってきた。
その悪魔は人間に似たような形をしていて、
さっきまで私が戦っていた悪魔とは格が違う、
異様な雰囲気を放っていた。
(まずい、まずいまずいまずいまずい…)
私の魔力はすでにすっからかんで、もう魔法は使えない。そんな状態でこんな強い悪魔に勝てるわけ…
ドゴオッ!
「ガハッ!あう…」
その悪魔は目にも止まらぬスピードで私の眼前にまで接近し、私の顔にパンチを繰り出してきた。
"身体強化魔法"を発動していない今の私は、その動きを見切ることはできず、耐久力も普通の女子高生並みだ。
私はなんとかきて逃げようと思ったのだが、悪魔が見逃すはずもなく、這いつくばる私を思い切り踏みつけた。
メキメキメキメキ
「うっ、あぁぁぁぁ…」
骨がひび割れていく音が聞こえる。
(痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…
このままだと私は…)
ドゴオッ! ズドーン!
人型悪魔は私のお腹を思い切り蹴飛ばして、私は壁に叩きつけられた。
「ガッハ!ゴホッ、おえ…」
人型悪魔はニタニタ不気味な笑みを浮かべながら、
私の方は近づいてくる。
「嫌だ嫌だ!まだ死にたくない!誰かぁ、助けてぇ…」
私は力無く助けを求めることしかできない。
痛い、怖い、苦しい。
何よりも自分が情けない。
颯月にはあんなことを言っておいて、自分はこの様。
もし、颯月が戻ってきてくれて、私を助けてくれたら…
そんなありもしない希望に縋ることしかできない。
「キシャアァァ!」
悪魔が私に思い切り拳を振るってくる。
もうダメだと思ったその時…
ドゴーン!
その悪魔は壁に叩きつけられた。
「はぇ…?」
私が目を開けると、颯月が私の前に立ち、私を守るようにして立っていた。颯月は魔法が使えなくて、悪魔と戦える力はないはずなのに…
「さ、颯月…なんでここに…?
逃げてって言ったじゃないですか!」
「まあまあそう言うなって。
俺が来なかったら危なかったくせに〜。」
「そ、そんなことないです!
今にも、炎魔法で…」
「強がんなよ。今はゆっくり休んだどけ。
俺がなんとかするからさ。」
「あなたの言う通り、私はもう限界です。
でもあなたは戦わないでください!
無駄死にです!」
「頑固な奴だなぁ。
頭固すぎて足頭どころか鋼鉄だぞ。」
「そ、そんなことないです!!」
「いいから任せろって。
大丈夫、今の俺なら負けないから。
安心して休んどきな。」
颯月は私が今一番欲しかった言葉をかけてくれた。
そんな颯月のことを、私は思わず頼ってしまう…
「…お願いします。助けてください…」
「任せんしゃい!」
そして颯月はその人型悪魔に接近し、戦いが始まる。
ーーーーーーーーーー
俺はさっきと同じように、全身に力を込める。
すると紫色の稲妻が全身を迸り、とてつもないほどのパワーが湧いてくる。力の使い方はわかった。
ドゴオッ!
俺の拳は悪魔に直撃し、再び壁に叩きつける。
見た感じ、まだまだ戦えそうな様子だ。
そんな悪魔に俺は告げる。
「おい、クソ悪魔、俺の相棒を傷つけた分、やられる覚悟はいいな?」
「キシャアァァァァァ!」
悪魔は怒りだし、俺の元へまっすぐ向かってくる。
今の俺には、その動きも簡単に見切ることができる。
俺は悪魔の腹に拳を叩き込み、吹っ飛んだところを上から押さえつけて地面に倒す。そして何度も、何度も何度も頭を殴りつけて頭を潰していく。
グチャア
一発殴るごとに生々しい感覚を感じる。
血と肉でグチャグチャの闇鍋みたいな見た目になったところで、俺は攻撃をやめた。
悪魔を倒したところで、俺はまたミサキの元へ駆け寄る。
「ミサキ、終わったぞ。歩けるか?」
「えっ、いや、はい。」
ミサキはなんか怯えた様子だった。
そりゃあ殺されかけたらそうなるか。
俺もさっきそうだったもん。
そんなことを考えていると、ミサキが言った。
「その力は、なんなんですか…?
魔力を感じなかったので、魔法じゃないですよね?」
「えっ、わかんない。さっきできるようになった。」
「純粋な身体能力で、はたまた無意識で身体強化魔法を…?」
ミサキがぶつぶつ言い出した。
そんなこと言われたって、俺だってなんなのかわからないし。
「ま、まあ二人とも無事だったんだし、もういいんじゃね?もうボロボロだし、早く帰って治してもらお。」
「それもそうですね。」
そして俺たちは学園への帰路につくのだった。
ーーーーーーーーー
私たちは二人の魔導士が出ていったのを確認して、その悪魔の死体に近寄る。
「は〜あぁぁ、今回は上手くいったと思ったんだけどなぁ。」
「まあ別にいいんじゃない?
ただの実験だし。上手くいった方でしょ。」
と、一緒に来た神城ミヨリは言った。
「そうだけどさ〜、生み出した私としては子供のような存在なわけで、目の前でぶっ殺されるのはちょっとねぇ。」
「その感覚はわからないけども笑」
「んもう、ミヨリのわからずや〜!」
「まあいいじゃん。早く帰ろうよ、お腹すいたし。」
「そうだね、もう帰ろっか。」
そして私、ゼツとミヨリはその廃墟を後にするのだった。
ーーーーーーーーー
途中でコンビニ寄ったり、アイス食べたりしたけど、
やっと学園に到着した。
「はぁぁぁぁぁ、つっかれたぁぁぁぁ。」
いやほんとに疲れた。
今までにこんなに疲労を感じたことはないってくらいに。
「ほんとですね〜。でもあとは報告して終わりですし、早く終わらせちゃいましょ。」
「そうだな〜。」
俺とミサキは下駄箱で靴を履き替えて職員室に向かう。その間にめちゃくちゃ見られた。まあ血だらけ傷だらけだったし、しょうがないんだけどさ。
「失礼します。山口と天王寺です。任務完了しました。」
ミサキが担任の先生に報告して、俺たちの初任務は幕を閉じた。先生はミサキが傷だらけだったことをめちゃくちゃ心配してた。俺のことは全然心配してくれなかったのに。やっぱりランクが高い方が優遇されるってのは、こういうところなんだな。
その後、俺たちは保健室に行って、回復魔法で傷を治してもらった。ミサキはしっかり治してもらったんだけど、俺はなんか気づいたら傷が治っていたため、先生は相手にしてくれなかった。なんか冷たくない?
俺今日死にかけたんだけど。
報告も治療も終わったということで、俺とミサキは学生寮に帰ることにした。
「じゃ、また明日なミサキ。」
俺が挨拶して帰ろうとすると、
「ちょ、ちょっと待ってください。」
ミサキが何やら顔を赤くして俺を引き留めた。
なんだ?すげえ可愛いんだけど。
「そ、その、今日はありがとうございました。
颯月がいなかったら、私は今頃…」
「ああ、いいっていいって、相棒だろ?
これからもよろしくな。」
「はい!」
そして今度こそ、俺はミサキと別れて部屋に帰る。
俺は血の匂いが染み付いた服を洗濯機にぶち込み、
スイッチを押してから風呂を沸かす。
普段は忙しくてなかなか湯船に浸かる時間はないのだが、今日くらいはいいだろう。疲れたし。
俺がテレビを見ながら風呂が沸くのを待っていると、
電話がかかってきた。
「はい、もしもし。」
「もしもし颯月?お姉ちゃんよ。」
また姉さんが電話をかけてきた。
「またか、姉さん暇かよ。」
「暇じゃないし!頑張ってやること終わらせたんだし〜!」
姉さんはそう言うけど、どうだろう。
結構なブラコンだからなぁ。
「そんで、どうしたよ。なんかあるのか?」
「そうそう、今日初めての任務だったんでしょ。
初任務達成祝いということで、今から部屋行くから。」
「ちょっと待て!そんないきなり。」
「何よ、なんか見られたらヤバいものとかあるの?
大丈夫よ、お姉ちゃん気にしないし。」
「別にねえわ!疲れてるから今日はちょっと…」
「そっか、ならお姉ちゃんがぎゅってして癒してあげるね!すぐ行くから!」
姉さんはそう言って電話を切った。
(ほんと、勘弁してくれよ…)
俺は姉さんが嫌いってわけじゃない。
なんなら好きな方だ。
シスコンってほどじゃないけど、
大変な時期を一緒に乗り越えた中だから、
絆は他と比べたら強いと思う。
そのこともあって、姉さんはすごい過保護だ。
去年は姉さんだけが学園に入学してたから
俺は一人だったけど、毎日4時間くらい電話かけてきた。いやまあいいんだけどさぁ。
ガチャ
そうして俺の部屋のドアが開く音がした。
はやいなおい。
「颯月〜、来たよ〜」
姉さんが部屋にやってきた。
風呂入りたかったのになぁ。
「はいよ〜、お祝いっつってもなんかやることあんの?」
「鍋でも囲もうや、我が弟よ。」
「その口調なんだよ…」
「ん?もしかしてまだ体洗ってない?」
「そうだよ。風呂入ろうと思ってたのに姉さんが来るから…」
「一緒に入ろうか?」
「ふざけんな。」
「冗談冗談、2割くらい。私がいろいろやっとくから、
お風呂入っちゃいなよ。のぞいたりしないからさ。」
「本当かよ…」
俺は怪しがりつつも風呂に入る。
そして風呂から上がると、姉さんが鍋を用意してくれていた。
「ありがとな、こんなにたくさん。」
「いいのいいの、颯月に会いたかっただけだし。」
そして俺たちは鍋を食べながらいろいろ雑談した。
その間はずっと姉さんはくっついてきていた。
距離感がおかしいんだよなぁ。
夕飯が終わって少し駄弁ったところで姉さんは帰る準備を始めた。
「じゃあ私帰るけど、一人で寂しくない?
一緒に寝てあげよっか?」
「ふざけんな、帰れ。」
「なんだよぉ、冷たいなぁ。じゃ、また来るからね。」
そして姉さんは帰っていった。
俺は寝る準備をするのだった。
ーーーーーーーーー
今日の任務で、颯月は悪魔に殺されかけたと聞いた。
やっぱり颯月が傷つくのなんて嫌だ。
今日みたいなに、ずっと一緒にいたいから。
私はあなたの夢を阻止しなくちゃ…
ーーーーーーーーーー
俺はベッドに入って考え事をしていた。
今日身につけた俺の力は、一体なんだったんだろう。
ミサキ曰く魔法じゃないっぽいし、
俺はもともと非力な方だしな。
(ま、ミサキを助けられたし、いっか!)
そう結論づけて俺は眠りにつくのだった。
読んでいただきありがとうございます!
毎週月曜日と木曜日に登校したいと思ってます。
次回もお楽しみください!