王太子の呼び出しと治癒魔法 中編1
「ブリジット嬢、私の化粧品で良ければメイクを直された方が‥‥」
涙腺崩壊していたブリジット様のお顔が、物凄い事になってリリアンヌ様もどうしようかと焦っている様だった。
彼女が用意した素敵な小瓶に入った化粧品を見つめつつ、ブリジット様の腫れた目を治癒魔法で治した。このままではアッシュ様やリア様と会った時に問題になりかねない。
「リーナ様、凄いです。腫れがみるみるうちに!」
腫れは引いたけれど、崩れたメイクまでは直せない。証拠隠滅とばかりに、リリアンヌ様が洗浄魔法でブリジット様の化粧を落とした。
さっぱりしたのか、笑顔になっている。やはり、便利に思える洗浄魔法、今度レニに教えてもらおう。
素敵な小瓶に入った化粧品は、薬学に精通しているロードライ公爵の知恵の集まりなのか効力まで凄かった。
「お肌がツルツルに!」
「気に入ったなら、新しく作った物をあげる」
喜ぶブリジット様に救われた気持ちになった。
「リリアンヌ嬢、ありがとう。お陰で近衛騎士の正装に着替える事ができたよ」
「すまない。やはり、正装は良いな。改めて礼をしたいのだが、何がお好みか?」
「リリアンヌ様、ありがとうございます。魔法士の正装を着る時間を作ってくれた事に感謝します」
「リリアンヌ様、感謝します。アッシュがいう様に何か好みの物はございますか?」
着替え終わったレイン達が出てきたので、私達も守衛室から出たら4人がリリアンヌ様にお礼を伝えていた。感謝の気持ちを伝えるのも人それぞれだと思える喜びようだった。
「あれ?ブリジット様は化粧直しされたのですか?似合っていて素敵ですね」
さすがレイン。いち早くブリジット様の変化に気付いて声をかけている。さりげなく褒めているのも、女性にとって嬉しい言葉がけ。
アッシュ様とリア様に至っては、リリアンヌ様直伝の化粧品を知っているのか、肌の質感も元の肌の色味に合って良くなったと褒めている。
「レイン様達も正装が素敵です」
近衛騎士や魔法士や騎士の装いは、任務によって色が分かれている。
通常時が藍色で、王族に会う時の正装は白。通常時の魔法士は深緑色が大半を占めていて、瑠璃色だと近衛扱いの魔法士。そしてどちらも王族に会う時の正装は白のローブ。
ちなみに騎士団は、各団長が黒で一般が青色。式典や王族に会う時の装束は白のマントを着けている。他にも自警団などは茶色やグレーの装いで、一目見れば何処の所属か分かるようになっている。
子供の頃、父に連れられて参加した式典は、白に彩られた壮観な彼らの佇まいに圧倒させられた。
私達6人が向かったのは王太子殿下の学院とは別の寮に作られた執務室。
ロの字型の寮の北側の棟に、王族の仮の居住区になっている館へ続く渡り廊下があり、入り口は選りすぐりの近衛騎士と魔法士が守護している。
もちろん、結界も建物全体を覆うように幾重にも張られて、建物も石作りの小さな宮殿のような堅固な作りだ。
本来は寮内の王太子殿下だけが使えるサロンを使うのが、呼び出しの封蝋の色が赤ではなく金だったため、王太子殿下の居住区の館内にある執務室へ呼び出されたということになる。
「金の封蝋ですね。本人確認も含めた此方のゲートへどうぞ」
ゲートを守る近衛騎士に誘導されてゲートの前まで進む。ゲートを間近で見ると、リリアンヌ様の結界をきめ細やかにしたものが、薄い膜の様に張られている。
その脇にゲートと呼ばれた入るための出入り口が設けられていた。ゲートの厚さは人が2人並んだくらいの厚さで、綺麗な蔦の様な装飾が施されている。
そのゲートに1人ずつ進むと中に入った人間が光って向こう側に進むようだった。
レインとレニは首から何かを出してゲートを通っていたようで、アッシュ様とリア様も同じようにしていた。
良く見ると、ゲート横のボードに名前が出ているようで、通るだけで本人確認が完了する仕組みの様だった。
「このゲートって不審者だけ避けられる魔法が組み込まれているのかしら」
そう言いながら、ゲートに足を踏み込んだ瞬間、眩しい光に包み込まれた。
「きゃっ!」
「リーナ様?!」
驚いたのはブリジット様とレイン達と私だった。
「さっきゲートに変な興味持ってしまったから、不審者認定されたのかしら?!」
慌てる私にゲートの近衛騎士は笑顔で私の手を取った。
「恐れ入りますが、王族から渡された物をお持ちでは?」
「え??」
レイン達が首と胸を指している。首・・・王の許可印?!
「今、お見せします」
慌てて襟元のリボンを引っ張ると、近衛騎士の方が大慌てで止めてきた。
「この場合は“持っている”と仰って下されば、ゲートがそれに呼応している反応なので確認の必要はありません。リーナ・パステル嬢、どうぞ正面からお入りください。」
「呼応・・・何か不敬をしてしまったのではと、焦ってしまいました。」
王の許可印を持っている効果でこんな反応になるなんて。
「今後は渡された物をお持ちであれば、このまま結界を素通り下さい。」
薄い膜の様に張られている結界を、言われた様にそのまま進んでいく。肌に当った結界は、レースを顏に当てたような感じですり抜けて行った。
「リーナ様!」
駆け寄ってくれたブリジット様が泣きそうな目で見ている。レイン達は何とも言えない表情で待っていてくれた。
「あれが呼応の反応なら不審者だとどうなっちゃうのかしらね」
「自動的に捕縛され、地下牢に強制転移させられるよ。久しぶりだね、三日間寝込んだと聞いて心配したよ」
何気ない疑問を発しただけなのに、まさか答えを聞けるとは思わなかった。しかも、それは良く知っているロナルドお兄様の声だった。
「お兄様、ご心配をおかけしました」
私を見つめるロナルドお兄様。騎士団の時も、物凄く心配させてしまった。そして怒りの矛先は次兄と騎士に向いた‥‥!
「ルーバン子爵令嬢。妹が無事でなければ‥‥」
「お兄様!それ以上は仰らないで!それにブリジット様は私の友達です」
魔王降臨のような冷たさを放ちながらブリジット様にプレッシャーをかける兄を止めた。
私もブリジット様も無傷で当事者同士が和解しているのなら、兄であっても怒り任せに脅すような文句を言うのはお門違いだ。
「アルフレッド王太子殿下との約束があります。この件のご判断は殿下がなさること。私刑を私は望みません」
「身内として心配することも出来ないとは、リーナは随分と達観したようだね」
「心配と言いながら文句を言おうとするなんて、ロナルドお兄様らしくありません。それに、もう直ぐお約束の10時になります」
「まったく、人の気も知らないで‥‥ついておいで」
力を抜いた様な小声で“困った妹だ”と言わんばかりに、兄は私の頭を撫でながら優しい笑顔になって付いて来るように言った。そして、そのまま踵を返して建物の中に入って行ってしまう。
「迫力・・・凄っ!あのロナルド様を止められるって、妹君凄くないか?!」
「ロナルド様が激昂するのは仕方ないにしても、それを止めるなんて初めてだな。ルーバン嬢にとっては幸いだったな」
「あれは、“ルーバン嬢は友達”だとルーナ様が止めに入って受け入れたってことか」
「まぁ、近衛である以上、他言無用だな」
ゲートの近衛騎士達数人から向けられる視線が痛く刺さったが、卒倒寸前のブリジット様を支えてアッシュ様達に助けてコールを送った。直ぐにアッシュ様とリア様が支えに入ってくれたけど、私の心の中は穏やかでは無かった。
お兄様、怖っ・・・威圧感半端ない!
「・・・・・やりすぎよ」
「大丈夫ですか、リーナ様」
レインとレニが私を覗き込んでいる。あまりのド迫力に石化しそうだったわ。演技であの迫力とは。
「大丈夫よ。あ、少しだけ待って?」
まだ精神的に身体がギクシャクした感じだけれど、ここはパステル家の者としてしっかりしないとね。私はターンをして、後ろで兄の話をしている近衛騎士にカテーシーで礼をとった。
「いつもは冷静なお兄様ですが、今回は心配させ過ぎてしまいました。皆様にはお騒がせ致しましたこと、心よりお詫び申し上げます」
兄の名誉のために礼をとっていると思われるかもしれない。私の耳に近衛騎士の方々の声が入って来た。欲しい答えを貰って、私は兄の後を追う様に建物の中に入った。
建物は外壁が石造りで、中は白を基調とした壁に赤い絨毯が敷かれていた。長い廊下が続く奥の方を見ると、兄が此方を見て待っていた。
「大丈夫だったかい?」
「お兄様、やり過ぎです」
「ふふ、これぐらいしないと、真実味が薄れてしまうからね。ブリジット嬢がまだショック状態の様に見えるな。仕方ない」
ロナルドお兄様がブリジット様を見て指を鳴らした。優しい治癒魔法がブリジット様を包み込んで意識を覚醒していく。お兄様の治癒魔法は精神干渉に特化した魔法。リラックス効果は絶大だったりする。
「‥‥‥え?私?」
驚いているブリジット様の後ろで、アッシュ様とリア様が慌てている。
「先ほどは失礼しました、ブリジット・ルーバン子爵令嬢。妹が貴女を助けたいと言ってきたから、一芝居打たせてもらったよ」
「さっきのが、芝居?!」
レニとリア様の引き攣った顔と声が上がった。
「私がブリジット様を悪く思っていない事と、大切な友達だと思っている事を周りに印象付けたかったの。情報をゲートの守る方が漏らすことは無いけれど、王太子殿下の近くを守護する方には、周知しておこうと思ったから」
「もしかして、リリアンヌですね」
レインが何かに気がついて、正解を言ってきた。
その瞬間、兄の横髪と私の横髪からハチ精霊様が飛び出した。
「上手くいったようね。ロナルド様なら上手く対応すると思っていたけれど流石ね」
「ハチが喋っていますわ、リーナ様!」
「まぁ、これでブラックな噂が流れてもロナルド様なら平然といなすことが出来るし、ブリジット嬢が責められないようにしたいと願ったリーナ嬢の思いもこれで大丈夫ね。殿下との謁見だから、ハチは一旦回収させてもらうわ」
二体のハチ精霊様が交互に喋る姿は中々シュールな感じに見えるけど、とても凄い能力に助けられたと心から感謝した。
「ハチ精霊様、リリアンヌ様、ありがとうございました」
実はブリジット様の件で、ロナルドお兄様に前もって話をしたいのだと、リリアンヌ様に相談したのだ。時間が無い状態だったけれど、連絡さえ付けることが出来れば、大切な友達のブリジット様に矛先を向けないで欲しい私の気持ちと意志を多くの方に伝えられると考えた。
「リーナ様、ロナルド・パステル様、ありがとうございます」
「君らが無事で良かった。さぁ、王太子殿下が待っている」
先ほどよりも歩調を緩めて歩き出した兄について行く。
真っすぐな廊下に数か所の結界があり、それを素通りしていく。突き当りにある両開きのドアにノックをしてから開け、ロナルドお兄様は私達に入るように促した。
全員が入り終わると、私は隣に立っているブリジット様に小さく合図して、王太子殿下を直接見ないように挨拶した。
「失礼致します。リーナ・パステル、招集により参上致しました」
「ブリジット・ルーバン、招集により参上致しました」
カテーシーをして、そのまま深く平伏する。
「ロナルド」
「王太子殿下の許可が下りましたので、前へ進むように」
穏やかな声が聞こえ、兄に許可を出している。そんなアルフレッド様の声は少し低く感じたけれど、懐かしい感覚になった。
ただ、面を上げて殿下の傍に進んでいく内に、目の前にいらっしゃる見事な銀髪の麗人は、3年前に王太子の許可印を下さったあどけない顔立ちではなく、成人した男性の端正な顔立ちに変貌していて驚いた。
「リーナ嬢、久しいね」
「はい。その節は大変お世話になりました」
「ロナルド、君の妹は素敵な令嬢になったね。心配だろうから、リーナ嬢から見ようか」
「お気遣い頂きありがとうございます。リーナ、此方へ」
王太子殿下の執務机から少し離れた所に、大きなテーブルに椅子が並んでいる。その一角に魔力測定装置が置かれていた。
「此方に魔力を」
言われた通りにその装置の前まで進むと、アルフレッド王太子殿下も傍に来た。手に魔力を集中させて装置に送る。
基本的に私の装置と変わらないのか表示位置がちがうだけで、雷・木・土・水の属性に光が灯って魔力値が18000値と表示された。
「リーナ、良かった」
「表示を見るかぎり、異変は出ていないと考える方が良いか」
兄は安堵した表情で私を見つめている。その横でアルフレッド王太子殿下の気になる一言があったけれど。
今は、次に測定するブリジット様が気になる。
「では、ロナルド」
通常、直系王族は人を介して話を進める。直接的なやり取りはしない。
先ほどの様に、同じ空間であってもご本人が話しかけない限り成立しないのが普通だったりする。
「ブリジット嬢、此方へ。リーナがしたのと同じように、此方に魔力を通してもらいたい」
「は、はい!」
慌てたように移動して装置の前に立ち、魔力を送っている。
「これは?!」
「数値が上がって戻っている。聖属性まで蘇っているとは」
火・風・土と聖属性に光が灯り、魔力値が8000値と出ていた。良かった、ちゃんと魔力も安定して本来のブリジット様の状態になっている。
一回、数値をたたき出していても魔力回路が維持できなければ、魔力量を保つための循環が出来なくなってしまう。一番の心配な部分だったけれど、クリアできたなら大丈夫ね。
「良かった‥‥」
安堵するブリジット様の傍で、アルフレッド王太子殿下とお兄様が数値に驚いている。でも、直ぐに何か思い当たったのか、殿下は私に尋ねられた。
「リーナ嬢、実は君が倒れている間に、ブリジット嬢の測定をしてね、聖属性は失われ数値はとても低くなっていた」
「はい」
殿下は私の後ろに控えているレインやレニ、アッシュ様とリア様を見ている。きっと、彼らの反応を見ているのね。
流石に鋭いと思った。殿下の横から兄がレイン達の方へ歩いていく。
「君らは殿下に報告を怠ったね」
怒っている感じでもなく、ただ事実を突きつけている辺りの威圧感が半端ない。でも、それに臆することなく片膝をついて平伏している彼らは、何も反応しなかった。そう、何も。
「ロナルド、良い。少なくとも、リーナ嬢に付けた兄妹は、君の妹に誓いを立てているようだ」
「こんな短期間の間に誓いを?」
私に真偽を聞きたいのか、ロナルドお兄様は驚いた顔で見てきた。視線が絡み合う中で、何か合点がいったのか兄は口を噤んでしまった。
「そう言う事だ、ロナルド。2人とも無事で無傷ならば、沙汰も何もない。不問とする。経過観察で様子を見るしかないだろう」
「畏まりました。では、引き続きこの者達に護衛をさせます。但し、護衛として異変を察知したら必ず報告を」
兄の言葉に恭順の意を表す4人。
「では、要件は済んだね。リーナ嬢、少し話がある」
殿下は兄に視線を向けただけだったのに、兄はブリジット様と護衛の4人を連れて出て行ってしまった。パタンとドアが閉まる音がやけに大きく聞こえ、これから話さなければならない内容に気持ちが重くなった。
「リーナ嬢、簡易的な物だが、何か淹れよう」
「殿下、私が!」
「こういった事は気分転換になるからね。君は座っていると良い」
自分が飲み物を淹れようと提案するつもりが遮られてしまった。
近くに備えられたポットとティーセット。茶葉を入れて蒸らしている時間が緊張で妙に長く感じたけれど、運ばれて目の前に出された紅茶の香りが私の意識を引き戻してくれた。
不意に、横に座ったアルフレッド王太子殿下と目が合い、こんなに間近に座っている事に今更ながらに緊張してしまった。
「このまま聞かないという手もあるけれど、それでは君が守られないからね」
椅子を少しずらして、殿下は私と少しだけ向き合う様に座りなおした。
「ブリジット嬢を治療したね?そして、王の許可印を行使せざる負えない状況が起きた。君はその報告に来たと思っている。ああ、勘違いしないで欲しい、私は怒ってはいないから」
何の報告も無しに、兄からの情報だけでこの答えを導きだしている殿下の推察の凄さ。私は頷くことしかできなかった。
「良くあの状況の彼女を治せたね」
「人には血の巡りと似たような、魔力の流れがあります。魔力回路と名付けていますが、ブリジット様は本来の主要となる属性の回路が半分以下に細くなっていたので、初めにその太さを治癒魔法で半分くらいまで太くしていきました」
「そこでの魔力量の変化は?」
「近衛騎士のアッシュ様がブリジット様と同じ風の主属性だったので参考にさせて頂き、3000値から5000値に増やしました」
「そこで区切ったのは、6000値の聖属性の顕現ラインを考えた?」
まるで見ていたかの様に考察し、ピンポイントで要点を見抜く殿下。
「はい。枯れて狭まった回路を開き過ぎては危険と判断し、2倍ではなく少し加減して治癒した後、半日ほど安定するまでの時間を空けて次の治療をしようと考えました」
殿下は一つ一つに考えを巡らせているようだ。
「幸いにも一晩置いたことで、ブリジット様の主属性の回路に隠れるように聖属性の回路が視えたので、日中に6000値まで上げて聖属性の回路が回復するかを様子見し、8000値に戻す時に聖属性の回路を意識しながら治癒魔法を使いました」
目を瞑って聞いていた殿下が、とんでもない質問をしてきた。
「私の魔力回路も視えるかい?」
「‥‥お許しください。私にはアルフレッド王太子殿下を視ることは‥‥」
恐れ多いことだ。殿下の体内にある魔力回路を視るなど。
「いや、視た方が話は早い。」
真剣な金色の瞳は、拒否を許してはいなかった。諦めた私はアルフレッド王太子殿下の魔力回路を視た。
「!!」
眩い光の魔力回路が身体の隅々にまで巡らされ、力強い魔力が行き渡っている。その光の後ろに雷・火・風・水の通常の属性回路が通っている。
「凄い‥‥」
「その反応は、私の魔力回路を視ることができたね」
どのように視えたか聞かれ、主属性が聖属性のため光の束のような魔力回路だと説明した。もちろん、先ほど視えた、通常の属性回路も主属性の後ろにあったとも。
でもここでの問題は、視えるかどうかではなく、この魔力回路と治癒魔法のやり方にある。殿下も一早く気が付いてくれたようだった。
「この件を知る者は?」
「私だけです」
「君は、本当に聡いね。この件が我々王族にとっても六公爵にとっても均衡を崩すかもしれない危険を孕んでいると気付いて行動した」
「他者に悟られないためにも、『魔力回路を視ての治癒魔法の行使』という説明は避けた方が良いかもしれません。私も手本とする方には、『属性の魔力を見ても』とか『魔力を参考にさせて欲しい』という言い方に変えました」
自分では『視る・診る・観る』を使い分けていても、『みる』という発音は同じだから、人と話す時に魔力回路という言葉を使用しなければ、他者は分からない。
そして、治癒魔法のやり方を問われても、スキルに依存した感覚的な方法だと言ってしまえば、追及は免れると殿下に説明した。
「王の許可印を行使した事態は、それ絡みだったか」
「なぜ、それを?」
深いため息を吐きながら、私が頂いた許可印には使用した瞬間に王と王太子に分かるような仕掛けが施してあるのだと説明された。
まさか、あの状況を知られてしまったのだろうか?!
「こちらの名誉の為に付け加えるなら、盗聴とかではないから安心すると良い。そして、使わなければならない時には、迷わず使うこと」
「分かりました」
「あまりロナルドを心配させてはダメだよ」
使う機会がなければ良いなぁと思っていたら言われてしまった。
金の眼差しに射貫かれて、ドキリとした。
「今回の件は国王にだけ報告をしておく。
また、いろいろな事があるかもしれないから、何かあったら護衛や兄を通すかリリアンヌを通して連絡して欲しい。君が直に来てくれても歓迎するよ」
穏やかな口調で言われて、私は殿下の顔をまじまじと見てしまった。王族特有の金色の瞳、そして直系にしか出ない銀髪。アルフレッド王太子殿下はそれを色濃く受け継ぎ、魔力値も国王に次いで高い数値だと聞く。
そんな方に微笑まれて、どう返したら良いのか戸惑ってしまった。
「学院には様子を見てリーナ嬢のタイミングで通い始めると良い。それと、私の居場所を知りたい時にはリリアンヌに聞くと良いだろう。彼女の可愛い精霊は私の手元にも居るからね」
殿下の視線の先に、机の上にプラチナで出来た小さなマッチ箱程度の衝立があった。その中のハニカム構造の小部屋のベッドでハチ精霊様が寝ている。今は極秘の話のため何かに遮断されているのか、殿下が許した時に外部との通信ができるらしい。
なるほど、これならポケットに入れてしまえば、周りから見える事も無く持ち運びも楽にできる。きっと、ハチ精霊様の所在だけがリリアンヌ様に分かるようになっているのだと、精霊の働きと多様性に感心した。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
ブックマークを付けて下さり、心から感謝します。
執筆活動の励みになります。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




