もう一つの転写方法 13
「‥‥こ‥‥これは‥‥」
「悪意という負の感情は感染します。ちょっとしたことでも、トラウマや心に眠る辛い思い出、それを増幅して諍いを誘い出します。扱う時には、感染しないように気を付けなくてはならなかった」
「リーナ様‥‥兄を助けて下さり、ありがとうございます」
「レニ、ごめんなさい。私が気付くのが遅く、不用意な言葉で悪意に隙を与えてしまいました」
人の感情ほど、うつろうものは無い。
「私の方こそ隙を作る言葉を、申し訳ない。先ほどの嫌な感情は、過去の記憶にある出来事の何かを増幅された感じでした」
「アッシュ‥‥そうね、私も全ては終わっているのに。何故、あんな後ろめたい気持ちに‥‥」
「私もリーナ様を許せない気持ちになって、あの様な責める口調になってしまい、申し訳ありません」
聖属性の魔法効果なのか、違和感は消えて想い合える意識になったようだ。全員が客観的に先ほどのやり取りを反省している。
「私もきつい言葉を投げてしまったから‥‥レインが無事で良かった。ブリジットも同じ魔法を間近で見て怖かったでしょう、ごめんなさい」
フルフルと顔を横に振って、泣きながら抱きついて来たブリジットを抱きしめる。彼女の温もりが、現実を実感させてくれたけど、今回の件で私は自分の弱さに気付いてしまった。
「大切な人たちが悪意に晒される事が、こんなに怖いなんて‥‥」
人の悪意というものは、自覚があっても無くても常に他愛もないことで生まれてしまう。
「リーナ様、兄が気づきました!」
「良かった‥‥レインを失っていたら私、死ぬほど後悔していたわ」
「リーナ様、ありがとうございます。そして、回復したばかりの私に恐ろしい事を言わないでください」
ふらつくレインの身体を支えたレニが震えている。家族を失うかも知れない恐怖が、今になって出ているのかもしれない。
「レイン、レニ、ごめんなさい。ちゃんと気付かなければいけなかったのに‥‥」
「いえ、私も変だと思いつつ場を改めようとしなかった。これは今後の課題ですね」
「兄様、王太子殿下が騎士団に出す造血豆の料理を沢山食べて下さいね!」
「うぇ!それは勘弁して欲しいけど」
レインとレニのやり取りに、ブリジットもハニエル様も皆が笑顔になっている。
「良かった‥‥」
先ほどの事が嘘のように、場が穏やかな空気で包まれている。
ホッとした瞬間、私は意識を失って緑の深淵に囚われてしまった‥‥。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




