もう一つの転写方法 10
「今回の学院の事件を念頭に、王太子殿下、エドワード殿下へ名乗りを上げた方がいます。そして、その方は我々が次に作る魔力波形転写装置に無くてはならない重力魔法を扱われる方です」
重力魔法は無属性だった筈。それを扱えるという事は、王族に籍を置く方かもしれない。
「まさか、セガール・ラリー殿では?」
今まで黙っていたアッシュが出した名前は、とても馴染み深い先生の名前だった。何故、『まさか』という言い方になるのか不思議に思ったけれど、アッシュの問いかけに無言で眉を顰めているハニエル様も気になる。
「‥‥」
何か気まずい空気感がある中、リアが俯いている。この雰囲気、何故か見逃してはいけない気がする。だから私は不用意に声に出してしまった。
「レイン、ラリー先生は貴方達護衛にとって何か関係が?」
「リーナ嬢、今更、ラリー先生が護衛達との関係があろうと、貴方には関係無いでしょう」
ハニエル様の言葉がきつく聞こえるのもおかしい。棘があるような言い方になっている。
「このお話はとても大切な事ではないでしょうか?少なくとも、自分の護衛が何か感じているのに、それを無視してしまうことはできません」
自分の言いたい事が真っすぐ伝わらず、もどかしい感覚が心に広がった。
「レイン、先生は貴方たちの信頼に足る方なの?」
とても小さい声で聞いたのに、ハニエル様が驚いて見ている。
「リーナ様、ラリー先生は‥‥」
「ブリジット、魔力被弾の時に助けてくださったのは知っています。後から私に謝罪してくださいました。とても誠実な先生だと思います。でも、名前が出た瞬間空気が一変したのは何故?気にしすぎなら、私も気にしないようにするわ」
先生は善意で申し出てくれたのだと分かっている。そして、今のハニエル様達の研究には無属性の重力魔法を扱える人間が必要なのだとも。
この違和感の正体を把握しなければ、後々に大変な事へと発展しかねないのではないかと思うからハッキリさせとかなくてはならない。
「不遜ですね。リーナ様は学生で、単位の危ない学生に手を差し伸べる教員に対し、信頼に足るかなどと。指輪を手にして気が大きくなられているのでは?」
確かに言い過ぎたかもしれない。けれど、こんなにも過剰反応されると、こちらの護衛との間で何かわだかまりがあっても困ってしまう。
今の怒りの焦点は、私の失言へと向いている。だとしたら‥‥
「リーナ様はただ我々に質問されただけ。何も気になさる必要もありません」
「レイン‥‥」
「名前が出た瞬間空気が一変したのは、我々の未熟さ故の反応です。ただ、全てを説明することが出来ず、不遜などと言われる要因を作ってしまったこと、申し訳なく思います」
急転直下のような場の変わりように、レインがやんわりと場を修めようとしてくれている。真っ向から不快感を露わにしているハニエル様は、嫌悪感を隠していない。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




