表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/151

それぞれの誓い 前編

 部屋に戻ると、レイン様が深刻(しんこく)な顔をしていた。


「この先、どの様にお考えなのですか?」


 長い沈黙の後の質問。レイン様はこの先の私を心配して下さっているのかもしれない。

実は騎士団の一件でオースティン第二殿下から箝口令(かんこうれい)接見禁止令(せっけんきんしれい)が騎士団に下された。それにも関わらず、怪我をした騎士が“レイモンド卿に会いに行く”名目で私と会おうとし、ロナルドお兄様とレイモンドお兄様を怒らせ、パステル家への騎士団の出禁が決まった。


 レイモンドお兄様は、自分の軽率(けいそつ)な行動と無頓着(むとんちゃく)さがこの事態を引き起こしたのだと、ご自身を責めていらしたけれど、非は断らなかった私にもある。

 あの3人が言いふらすとは思えない。でも、何かあったら頼られる事もあるかもしれない。私は今まで考えていた事の顛末(てんまつ)を2人に話す事にした。


「おそらく、私もブリジット様も、2、3日中には、王太子殿下の前で測定することになってしまうでしょう。その前に、ブリジット様の魔力量を元に戻します」

「戻しても、消えた聖属性が元に戻るとは思えませんが」


 わざと(きび)しい口調で、レイン様が現状を確認させるように言ってきているけれど、その心配は無用だと確信している。

 なぜなら、ブリジット様の魔力回路を観察しながら治癒魔法をかけている時に、聖属性の魔力回路を見つけていたのよね。消え入りそうな主属性とは違って、他の属性も聖属性も()()()()()()()()()


「ブリジット様の聖属性は、消えたのではなく(ふる)える状態の魔力量が維持できていないだけだと思いますから。聖属性魔法は魔力値6000から目覚める方が多いと、魔法学の先生が仰っていました」


 一番初めの授業で習った“聖女の目覚め”の話。それが役に立つなんて。


「魔力値を本来の8000に戻す・・・まさか、()()()()()にするのですか?」


 現在の近衛騎士団団長は王弟のディオン・アーセリア・ブノワ殿下。そして、魔法士団団長で王立学院の統治者なのは、アルフレッド王太子殿下。この学院でのレイン様やアッシュ様、レニ様とリア様の直属の上司は、もしかしたら王太子殿下かもしれない。


「私としては、ブリジット様を糾弾(きゅうだん)するような(やから)がいるのであれば、次の測定までに治療を施して、魔力喪失(そうしつ)など無かったことにしておきたいのです」

「仮測定装置が壊れていたことにと?“報告をしないで”と仰るのですか?!」


 レニ様が驚くのも無理はない。


「ブリジット様にした治療も、今日集まった方が口に出さないでいてくれれば誰にも被害は及ばない。無理は承知の上です」


 この国の近衛騎士と魔法士として、報告をしないという選択肢は無いかもしれない。現に、レイン様が口を(つぐ)んでしまった。


「もし、私が治療をしたことを報告したら、その方法を公にしなさいと言われますか?」


 私はレイン様とレニ様を見つめた。これだけは知っておきたい部分だったから。


「報告書として、近衛騎士の上層部に報告した場合は聞かれます。国益(こくえき)になる事を秘密にすることは罪だと言われて、最悪尋問(じんもん)されることもあるかもしれません。ただ、一番上の方にだけ報告できれば、そうならないとは思いますが」

「リーナ様、魔法士団でも同じだと思います」


 やはり、組織は何処までも利益を考えてしまうものよね。


「私は怖いの。いいえ、恐れています。今回の治癒魔法は奇跡(きせき)にも厄災(やくさい)にもなるから。方法を秘匿(ひとく)できなければ、その原理を、悪意を持つ者に悪用されたら・・・この国は終わります」


 2人の息を呑むような、緊張した気配。事の重要性を分かってもらえた気がした。


「国益だけを考えられたら、どれだけ幸せなのでしょうと思うわ。でも、魔法を扱うのは人なの。人には善人も悪人もいるし、魔が差して国賊(こくぞく)となってしまう人もいるでしょう。一度でも悪意ある使い方が示されてしまったら、狙われるのは大切な国を(にな)っている方々かもしれない」


 全ての人を信じられたら、とても世界は満ち足りて平和なのでしょうと伝えた。


「報告せず秘匿(ひとく)(てっ)することが、害のない国益になるとリーナ嬢は考えて話されているのか・・・」

「レイン様、物事には公にして良いこと。悪いことがあります。秘密の共有者は少ない方が安全だと思いませんか」


 そこまで話し終えると、レイン様は剣を手に取り剣先を自分に向けてヒルト((つか))の部分を私の前に差し出した。彼の厳粛(げんしゅく)な雰囲気にのまれ、差し出されたヒルトの部分を握ると、剣先を自身の肩に誘うように乗せ片膝を折って(ひざまず)いた。


「自身よりも国や王族の安全をお考えになられるリーナ・パステル様に、近衛騎士として忠誠を誓わせて頂きたく思います。この時より、貴女を命に代えても守り、信頼を得られるよう努めて参ります」

「レイン様、私に忠誠を誓うなんて、主である王太子殿下に失礼になってしまいます」

「やはり、リーナ様は私が王弟殿下ではなく、王太子殿下の近衛騎士だとお判りでしたか。ご心配なく、王太子殿下からは、“忠誠に()るものであれば、そのまま仕えよ”とお言葉を頂いております。もし、お許し頂けるのでしたら、“許す”と」


 真剣な眼差しに撃たれたような衝撃(しょうげき)と共に、私は小さく“許します”と返していた。

 レニ様もレイン様がしたように(ひざまず)いて、杖の柄を私に差し出し、杖の先を自身に当てて片膝をついて跪いた。


「私も王太子殿下から兄と同じように許可を頂いております。魔法士として、リーナ・パステル様に忠誠を誓います。どうか、兄と共にリーナ様に仕える栄誉を頂きたく思います」


 厳粛な2人の“誓いの言葉”に、私はレニ様にも“許します”と返していた。


 私はどうしたらこの2人の忠誠に(むく)いることが出来るだろう。

 近衛騎士団・騎士団・魔法士団、それぞれに確固たる長がいる。そして、所属は違っても王を中心とした王族に仕えている。たとえ、王太子殿下に許されたとしても、他者に誓いを立てる覚悟を持つことはそうそう無い。

 私も覚悟を持って彼らの心に応えたいと思った。だから、今話せる所までを伝えよう。


「レイン様、レニ様、時期が来たら王太子殿下にだけ話します」

「分かりました。ただ王太子殿下は、ブリジット嬢の測定に2回立ち会う形なので魔力値に驚かれるでしょうが、そこで騒がれる方ではありません。なので、その後にお話をされる方が良いかと」


 レイン様の読みは本当に凄い。私は“時期”と言ったのに、測定の後に話すことを勧めてくれている。


「リーナ様、リアとアッシュは如何なさいますか?」

「え?レニ様?」


 “如何なさいますか?”と聞かれても、どう答えれば良いのかしら?まさか・・・ねぇ。


「レニ、リーナ様はおそらく、様子見をされる筈だよ」

「ああ!そうね。ブリジット様の治療を終えたら、2人に話したことをお願いしてみるわ」


 危なかったわ、今途方(とほう)もなく時代劇の“始末(しまつ)しちゃう?”みたいなノリで聞かれて変な思考回路になっていたわ。

 私の慌てる様子を見て、レイン様には何となく思考が伝わってしまったのか、肩を震わせている。


「レイン様、今深読みされたことは、内密にお願いしますね。でないと、自己嫌悪に(おちい)ってしまうわ」


 小さく頷いている彼の横でレニ様が、私の答えを反芻(はんすう)している。


「レニ様、何か?」

「いえ、何となくですが、ブリジット様が回復された時のアッシュとリアの反応が気になって。」


 物凄く驚いていたけれど、それだけ心配していたという事ではないのかしら?

レイン様は憶測で物事は判断できないから、その時に対処しようと提案してくれた。


「ありがとう。今日はレイン様、レニ様、ちゃんと休んで下さいね」


 一度解散し、その日の夕食を運んできてくれた2人から、“これからは敬称(けいしょう)無しでお願いします”と難題を出されてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ