造血豆と魔法士団研究所 10
「最近みないくらいの、完璧な作法ですね。お楽にどうぞ」
ソファーを指さしているので、座れということなのだろうか?そう思っていたら、殿下がさっさと座って隣を手でポンポンと叩いている。
「失礼します」
少し緊張気味に殿下の隣に座ると、ハニエル様も真向いに座った。長い乳白色の髪は良く見ると、薄い水色の髪が疎らにあって、キラキラと輝いている。
六公爵の中の風属性のウェスティ公爵家。風属性の色が乳白色のため、髪が他の色に染まり切ることなく、パステル調に属性色が反映されるという。
「君達に用事があって来たんだ」
「という事はグレンにも用があるとすると、今研究中の魔力転写の件ですか?」
「そうなんだ」
エドワード殿下が頷くと、ハニエル様は羽ペンで宙に何かを書き始めた。そしてそれに息を吹きかけると文字は鳥になって消えてしまった。
「話しが早くて助かるよ」
いつの間にか出されていたティーカップを手に、殿下は私にも寛ぐ様に目の前のカップへ視線を向けて微笑んだ。
「執事が入れた紅茶を魔法で出した物です。保存を付与した収納魔法で温度も新鮮さも上品質です」
そう説明されて、『お気遣いありがとうございます。』とお礼を述べて口を付けた。
「魔法って不思議」
収納魔法には何種類か種類があるけれど、収納した物の鮮度や温度などを維持して劣化を防ぐようなものは、かなり高度な設定が必要だと読んだことがある。最上級は人や生き物を収納できる魔法だと位置付けられていて、その次に鮮度を保ち劣化を防ぐこの魔法が難易度高めな位置にある。
そう考えると、ハニエル様が何気なく使っている魔法は、日常で使うには技術力の必要な上級魔法だと言える。
「面白い事を考えるご令嬢をお連れになられましたね、殿下」
「兄上からのお願いなんだ。なんせ、あの豆ゼリーを食べたご令嬢らしいから」
殿下の一言で、ハニエル様の切れ長の目が大きく開かれて、ジッと見つめられてしまった。紅茶のカップ越しに目が合って、ドキッと心臓が脈打った。綺麗な男性の刺すような視線に耐えられるほど、強い心臓ではなかったみたい。
「あれを、食べたのですか?!」
「あれって?」
「リーナ様、たぶん造血豆ゼリーのことです」
後ろに控えていたレニがそっと耳打ちして教えてくれる。そんなゲテモノみたいな言い方、ちょっと奇妙奇天烈な食べ物だけど味は普通だと思う。
「1口だけです。豆が口の中で叫んだので、煩くてそれ以上食べる気が起きませんでしたが」
「あの造血豆を食用に提案したのは君達で、推奨したのは兄上だよね。ダンジョン攻略者の造血剤に」
あら?ハニエル様が視線を殿下から逸らしている。
「熱い内に食べれば、とても、理にかなっていると思いますけど?」
「栄養価は良くても、食事は五感で楽しむものです。最初は私も栄養さえ補えればと良いと思っていました。ですが、ダンジョンの中で出される食事がアレでは気持ちも荒んでしまうのでしょう」
確かに、最初の1回や2回なら笑って許せるかもしれない。でも、毎回罰ゲームのような感じでは、悲しくなってしまうかも。
「食事の見た目は味に匹敵するくらいの影響があるのですね」
視覚的にも聴覚的にもダメージが大きい食べ物は心の癒しにならない。栄養豊富なだけに、造血豆に少し同情してしまいそうだわ。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




