造血豆と魔法士団研究所 9
魔法士団の研究所の入口は小高い丘が口を開けたような感じで、その奥に宮殿の様な建物と高い塔が建っていた。小高い丘の様な入口には白い柱が何本もあり、その奥に受付があった。
「リーナ嬢、こちらへ来て。彼女の登録を特級来賓扱いで」
受付嬢に話を通して下さったエドワード殿下のお陰で、登録はスムーズに行われて胸ポケットに金の羽ペンが自動的にくっついた。
「この金の羽ペンは、この建物から出ると消えますが、胸ポケットにカードとなって仕舞われます。次にお越しの際は、必ず、カードになった物をお持ちください」
「これが身分証変わりになっているから気を付けて。護衛がいるから大丈夫だと思うけど、部屋の外に出たら意識をしっかり持って行動して欲しいんだ」
「分かりました」
「実はここの研究所はとても特殊で機密扱いが多くて、先週も不届きものが職員のカードを奪って入ろうとして撃退されたと聞いた。特別カードを持っているだけでも、リーナ嬢は狙われる危険もあるってことだから」
「殿下の仰る通りです。ただ、カードを奪われても此方のカードとご本人の魔力が無いと、羽ペンには変化しませんので大体は受付で発見されます」
殿下の指摘に受付嬢の言葉も相まって、気を付けていないとカードを狙う者からの目もあると緊張した。
「リーナ様は緊張せずにいつも通りで大丈夫ですよ」
「そうです。私達が全力で守りますから」
2人の言葉が有難かった。ありがとうと小さな声で伝えると、2人が微笑み返してくれる。
こちらの会話が終わるのを待っていてくれたのか、受付嬢が手元で何かを操作した。
「では、こちらのドアからお進みください」
受付の後ろにドアが現れ、殿下の侍従が開けている。ドアが開いたのが合図なのか、ドアを通った先の廊下に明かりが点いた。重厚な感じがする廊下には、離れた間隔でドアが存在している。
「リーナ嬢、羽ペンの使い方を教えるね」
「羽ペンの使い方・・・はい。よろしくお願いいたします」
「ハニエル・ウェスティの研究室への案内を頼む」
エドワード殿下は声に出しながら、胸に現れた羽ペンを手でなぞった。すると、羽ペンから光の分身が現れて宙に浮いている。
「さぁ、リーナ嬢もやってみて」
「ハニエル・ウェスティ様の研究室に案内をお願いします」
語尾は違うけれど、教えて頂いた通りに羽を手でなぞった。私の羽からも金色の光の分身が現れて宙に浮いている。しかも、“これからよろしく”と宙に文字を書いている。ついつい、『よろしくお願いします。』と返してしまい、殿下に笑われてしまった。
「この宙に浮いた羽ペンに着いて行ってみて」
「はい」
3mほど先を進む羽ペンが廊下を進み続け、突き当りのドアの前で止まった。
コンコンと羽がドアを撫ぜているだけなのにノック音になっている。
「どうぞ」
柔らかいテノールの声が入室を許可してくれた。同時にドアが開いて、羽ペンが本体に戻った。
「ハニエル、いる?」
「失礼します」
殿下がスタスタと部屋の中に入って、主を探し始めた。私達も一礼してから入室した。
「凄い‥‥」
目の前に広がる空間は、歩いてきた廊下の数倍の広さと奥行きがあるように思えた。日光が入ってくるように天井も壁も、半分がガラス張りのテラスの様な感じに作られ、半分が日陰の濃度が徐々に深くなっている部屋の構造。その天井からは蔦や植物が吊るされて、植物が多く感じられる。
「殿下、お久しぶりでございます」
「久しぶりだね、ハニエル。今日はお願いがあって来たんだ」
少し高くなった窓際から何段か階段を降りて来た、長い乳白色の髪の麗人が薄水色の瞳で此方を見下ろしていた。水色のローブを纏った長身の彼は、とても迫力がある。
「私は、ハニエル・ウェスティと申します。ハニエルと名前で呼んでもらっても良いですか」
「グラン・パステルの娘、リーナ・パステルと申します。ハニエル様」
カテーシーをして目線を下にしていると、その視界に水色のローブが入って来た。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




