消えた犯人とその後 1
新しく「一角獣編」が始まりました。
この章では、少しずついろいろな人間関係が変化していきます。
ハチ精霊のナイトたちが赤茶の不気味な甲冑を纏い、赤黒い槍を手にして空間走り抜け、空を飛ぶ姿は多くの目撃者を恐怖のどん底に落とした。
中でも彼らと視線が合ったと思い込んだ者は、数週間、挙動不審な行動をとっていた。
それもこれも、ナイトたちが被っていた、肉食バチの兜のせいなのだけど。
聞けば、ナイトたちにとっては、アレが戦闘時の正式武装だそうで、闘い慣れしている六公爵でさえも、引き攣った顔で彼らが出陣するのを見送っていた。
「彼らがあの武装状態でケリー・サンディスタを猛毒の槍で突き刺し、瀕死状態の彼を城門に吊るし上げたお陰で、聖女リーナが嫌がる事は口にしないと、皆が心に決めたから聖女認定が先送りにされたのだからな」
アルフレッド殿下に誘われて、学院執務室でブリジットと一緒にお茶を頂いていたけど、報告された内容にお茶を吹き出しそうになってしまった。
私が嫌がったら、武装したナイトが文句を言いに来るとでも思っているのだろうか。ちょっと侵害だけど、殿下の言う様に認定が先送りされたのは嬉しい。
「黙認はされていますけどね。認定を先延ばしに出来たので、あの事件に関与した者だけのv周知となって授業も普通に受けられますよ」
そう!聖女認定を受けてしまうと、授業が個別化されてしまう。
テスト免除という特典があるらしいけど、皆で学院生活を送る事の方が大切だと思う。
「そう言えば、宰相様も動かれているのですよね?」
「あの腹黒宰相は、リーナの後ろ盾になると王に宣言していた。事件の時は只々私を翻弄してくれたが、忌々しくも、あの腹黒が宣言したお陰で六公爵を後ろ盾に持ったリーナに大臣たちが敵う筈もない」
大臣たちは、私の聖女認定をさっさと終わらして、ダンジョン討伐に同行させたり政治的な婚姻を考えているらしく、エリク王に進言していたらしい。
ただ、その提案や進言もカミーユ宰相やライリール公爵のパトリック様、ロードライ公爵のエマニュエル様とグラン様と、錚々たる公爵家現当主の方々が私の後ろ盾になったので、大臣と言えども公爵家より序列の低い侯爵では太刀打ちできない状態になった。
そして、カミーユ宰相とアルフレッド殿下が今進めてくれている計画が、聖女の授業の個別化の廃止で、私が孤立しない様に配慮してくれている。
「まぁ、腹黒でも仕事は早い男だ、気にせずリーナはブリジット嬢と授業に復帰すると良い」
「最近の王太子殿下の口調が、少しワイルドで直接的な表現になられて、女生徒の間で噂になっておりましたわ」
「あはは、ブリジット嬢は表現が柔らかいですね、“毒舌”って言ってあげないと殿下は気付かないですよ」
「ほう、レインは“そのままの豆料理”がそんなに食べたいか」
目を細めてチクリと反撃する殿下は、少し張り詰めた緊張感が消えた気がする。引き攣るレインの顔を見て、紅茶を啜りながら笑いを堪えている。
こんな長閑な一時が過ごせるのも、サンディスタ公爵家の一件が落ち着いたからかもしれない。
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