残りのピースと令嬢たちをとり巻く悪意 63
救われない魂とは彼のような者を言うのかもしれない。
本来なら、タンジー様のように良心の呵責と自責の念で、狼狽えて自身のしでかした罪の大きさに恐怖する筈なのに、ケリー・サンディスタは言い逃れをしてパニックになっているタンジー様を嗤っている。
身内に対しても外道な心根なのね。
「この模型を見よ。これはペンから採取した魔力波動の模型。これには複数の魔力が詰まっていた。魔力を誘導する者としてダリア・ピアセ伯爵令嬢、雷魔法の保有者としてアデラ・ライリール公爵令嬢」
1つずつ、模型を見せていく殿下。
「そして、ペンを学院に運んだ者として、タンジー・サンディスタ嬢。この大元のペンを魔道具化した時の根幹に残されていた波動がケリー・サンディスタ、君の物だ」
ケリー・サンディスタの魔力波動の模型を見せ、今まで関わってきた魔力波動に寄生するようにあった黒い魔力波動の模型と全てが一致している。
「ケリー!これは、どういう事なのか!
魔力が衰退を始めているサンディスタ公爵家にとって、今こそが心を正しく持つことが解決策となると言ったのに、ヴィンセント、お前はケリーにどんな教育をしたのだ!」
まさしく正しい答えを言っているのは、マルス様だった。
エルヴィス様も握った拳を震わせて怒りを抑えている。
「タンジー、お前も悪いと分かっていてやったのか‥‥」
「違うわ、お兄様!私は少し困らせてやろうと‥‥」
「それがいけない事だと何故分からないっ!お前が卑しい気持ちを持たなければ、事故となる種は生まれなかった!」
「だって‥‥だって!」
「お前は心を正しく持つことの大切さを分かっていない。そして、どれだけ恐ろしい事をしたのかも」
エルヴィス様は近衛騎士だ。
ブリジットの治療を魔法士がする際に立ち会っていたのか、その悲惨な現状を包み隠さず話して聞かせた。
「お前の言う、つまらないプライドが人を傷つけた。公爵令嬢の矜持とは何なのだ?他者を貶めてまですることか?弱者や身分の下の者を虐げることなのか?お前は分かっていない。
本当の矜持は、他者から見ても美しく清らかなものだ」
崩れ落ちるように床に座ったタンジー様を見下ろして、マルス様を見てからウォノン様、ヴィンセント様、シビル様を見て溜息を吐くエルヴィス様。
「父上、我が公爵家はここまで腐り果てていたのですね」
「ブリジット・ルーバン子爵令嬢、タンジーとケリーがした行いは許しがたい事だ。親として謝罪させて欲しい」
「マルス殿、貴方が謝っても、タンジー嬢はまだ自分のした愚行を分かっていない。ケリーは論外ですね。だから、私から提案です」
「宰相?」
「不安ですか?正義を説きながら甘いのです、貴方はね。どれだけの痛みだったか、味わってみては?」
「何を言っているの、カミーユ宰相?!いけない、そんなやり方!」
カミーユ宰相は妖艶な笑みで、懐から小瓶を取り出して給仕係に7つのコップを持って来るように言った。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




