造血豆と魔法士団研究所 5
次の日、レインとレニが部屋まで迎えに来たので、私は朝食を食べる前にリリアンヌ様のハチ精霊様に会いに行くことにした。
守衛室前でリリアンヌ様が笑顔で立っている。
「昨日はありがとう、リーナ嬢」
聞けば、オースティン殿下とレイモンドお兄様が、ハチ精霊様に謝罪して帰ったと教えてくれた。
「ハチ精霊様にもう一度会いたくて」
その言葉で十分に意図が伝わったのか、リリアンヌ様は守衛室の結界の奥へ案内してくれた。もちろん、レインとレニも一緒に同行してくれた。
「これは酷いですね」
「レイン、これでもリーナ様がボロボロだった羽を治してくれたのだよ」
「お可哀想‥‥」
レニの言葉は、この状況を見た者なら誰もが思う言葉だ。
傷ついたハチ精霊達は、寝床から出てくると私の手に顔をすり寄せてくれた。リリアンヌ様曰く、信頼の挨拶なのだそう。
貴族は心の弱みを見せない。そう教育されて育ったから。それでも、親しくなったレインとレニは、リリアンヌ様が大きな深い悩みと苦しみを抱えている事を知って、辛そうな顔をしていた。
「3人はハチ精霊様の羽に付いた魔力の痕跡を見分けることはできる?」
「難しいですね、私にはリーナ様の治癒魔法に雑多な物が写り込んでくる感じがします」
「私も複数の魔法式が見えて、リーナ様はどうやって分かったのですか?」
確かにこの数年間、傷ついたハチ精霊を治そうと、色々な方がハチ精霊を診た。そして治癒魔法をかけてきた。感じる感覚も人それぞれ。
でも、私がそういった治癒士以外の傷つけた魔力をどう捉えたかというと、絶対的な違いがあった。
「治癒をした者には無くて、傷つけた者にはあったものを追いかけたの」
レインとリリアンヌ様が黙り込み、レニがハチ精霊様を見つめている。そして、その答えはほぼ同時に得られた。
「悪意か!」
「そう。明確な悪意が傷を悪化させていたの。今度は、その悪意に波長を合わせて追跡できる?」
「酷い‥‥これは風が雷を纏っているのか?」
「リーナ様、青白い稲光の後の黒い炎の様なものは、1回だけ見たことが、まさか、これは呪い?」
「なぜだ、未だに苦しめるのか?!」
レインは魔力をしっかり感知し、レニはその複合魔術が呪詛のようになった成れの果てを見た様だった。リリアンヌ様は愛情があるが故に、ハチ精霊様の背負っている痛みを共感してしまったようで、リリアンヌ様とレニは項垂れて座り込んでしまった。
「レイン、私ね、今回の犯人を許せない。ううん、許したくないの。罪と罰をしっかり受けて欲しい」
「私達が見た、悪意の魔力波形を保存したいと仰るのですか?」
それが出来れば、一番いい。でも、それにはハチ精霊様の協力が必要不可欠だ。そして、それには苦痛が伴ってしまう。
「リリアンヌ様、レニが言った通り、この傷は悪意という名の呪いに覆われて苦痛を伴います。犯人を探し出すには、この魔力波動を転写できるような物を開発する必要があります」
「犯人を探せるのか?!」
ハチ精霊様の記憶だけではなく、傷ついた羽に残っている痕跡を物質化できればそれは可能になるとリリアンヌ様に説明した。同時にその開発には時間がかかるため、治す時間が遅れることも話した。
「ハチ精霊様と良く話し合ってください。治すのは夜になりますが、それまでの間にどうしたいかを」
開発のための状態維持は治したい気持ちと相反するもの。
「辛いですね。直ぐに治せるかもしれないのに、犯人に状況証拠を突き付ける物的証拠を手に入れるために、その手立てを開発する時間がそのまま苦しむ時間になってしまうなんて」
レインの言う通りだと思った。ハチ精霊様は早く治りたいのかもしれない。リリアンヌ様がどう答えをだすか。
「でも、それは!」
リリアンヌ様とハチ精霊様が何か言い合っている。
ハチ精霊様がリリアンヌ様の提案に首を横に振っている。どうやら、リリアンヌ様の気持ちを汲んで犯人の物的証拠を保持するために開発する間、完全治癒を待つつもりらしい。
命を削ぎつつ今まで耐えていた事を知っているリリアンヌ様は、早く治ってもらいたいと懇願している様だった。
「リーナ様、切ないですね。リリアンヌとハチ精霊様がお互いに思うあまり、相手の欲しい答えを言っている気がしてならないです。でも、ハチ精霊様には命が‥‥」
レニのいう事も最もだけれど、相反する答えだから仕方ない。でも、仕方ないで括れない。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




