造血豆と魔法士団研究所 3
「これは‥‥造血豆がそのままゼリーに入って叫んでいるの?」
赤いゼリーの中なので、青くなった顔が濃い紫に見え、声がくぐもった叫びになって微かに聞こえる様は、ある一種のホラーでしかない。
「やはり、不気味さの方が勝るか。いろいろアレンジしているのだけれどね」
スプーンで掬った時に、造血豆が露わになると途端に騒がしい叫びのエンドレス。
「こ‥‥これは。」
意を決して口の中に入れれば、口の中で叫ぶので頭にダイレクトに聞こえてしまう。
「食べている不快感が増幅された気が‥‥します」
どんな食レポだ!と思っても、興味と怖いもの見たさも相まって、食べた後に後悔した。私の反応を見ていた王太子殿下は、一口でも食べた事に驚いているようだったけど。
「いろいろ手は尽くしているけど、造血豆は近衛騎士にも騎士団にも必需品だからね。この奇妙な習性が無ければ美味しいと思える気がしないかい?」
必需品だとしても、なぜこのまま使うのだろう。粉にするなりペーストにするなりして原型を無くしてしまえば良いと思った。
そこまで考えて、ふと、知らないのでは?と結論が出た。
「王太子殿下、造血豆は調理前に乾燥させて粉にすることは?ペーストにすることは可能なのでしょうか?効能は落ちてしまうか知りたいです」
「乾燥させて粉に?ペースト?」
これは前世の記憶にある豆の加工方法だけど、この世界には小麦もパンも米もあるのだから、同じように加工できる気がする。効能も加工前と同じ感じだった気がするけど。
「そうか!粉やペースト状にすれば別物になる。造血作用が同じか検証しよう。変わらなければ、これは大発見だ」
今のままでも、罰ゲームっぽくて面白そうだけれど、ダンジョン遠征でのご飯がこれでは士気も落ちるし気の毒でしょうがない。洞窟に木霊する造血豆の叫びは本当に嫌ね。
「効能を分析できる方法があるのですか?」
ふと、“分析“という言葉が気になった。魔法と化学や科学は相反するものの世界だから。
「作用のある物は魔力が帯びている。だから、魔力抽出で抽出した物質の個々の波動を検証する方法で同じかどうかが分かる。そういった方法だね」
やっぱり、化学的な構造式とか、科学的な分析とかの観点ではなく、魔力の波動なのね。そこまで考えて、何かが少し引っかかった。
もしも、指紋の様な個々に違う物があれば‥‥。
「では、人の持つ魔力波動や波形は個々に違うと考えても?」
「難しい質問だね。魔法士団でも研究が進んでいるけれど、魔力波動が個々によって違う事までは立証済みで、後はリーナ嬢が指摘した『波形をどう留めるか』その技術が未だ開発中だ」
動いている波動を写真の様に映写して留める技術が無いのね。
「その技術があれば、ハチ精霊様の羽に残った魔力の痕跡を映写できるのに」
「リーナ、映写って何だい?」
ああ、いけない。前世の技術をそのまま言葉にしたから、ロナルドお兄様が反応してしまったわ。
「写し取るという意味で言いました。波動は動いていますから、特徴的な部分を切り取って保存出来たら後で検証できますし、波形の形に個人差が出ると考えれば有用ではないかと」
それにしても、今の自分では知識が足りない。全属性に目覚めたといっても、今まで使っていない属性に対しても基本的な部分にすら理解が乏しい。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




