造血豆と魔法士団研究所 2
「キエェ~!」
「今の叫び声は何ですか?!」
「兄様、早く食べないから!」
レニがレインを叱っている?
何が起きたのか気になり2人を見たけれど、別段、普通の食卓風景だった。席を立つなんて無作法は出来ないから仕方なくホロホロ鶏のスープとサラダを食べ始めた。
「キエェ~!ケッケ~!」
「お兄様、変です!何か叫び声が聞こえますけど?」
私が訴えると、王太子殿下はお腹を抱えながら肩を揺らしていて、ロナルドお兄様は口を押えて真っ青になっている。
どうして、こんな状況になっているの?
「このままでは笑って食べられない。彼のシチューを温めなおしてくれないか」
笑いを堪えながら、王太子殿下が近くに控えていた執事に告げると、彼はレインのシチューが入った騒がしいお皿を片手に乗せて、火属性の魔法を行使して温めた。
叫び声が聞こえていたのに、静かになっている。
「あのお皿にはシチューが入っていたのでは?」
近くのメイドが王太子殿下の合図で、小さな皿に乗った豆を私の眼の前に運んでくる。
「赤紫の豆?」
「その豆は造血作用のある凄い豆でね、一つ難点があるんだ。殻を割って調理したら、温かいうちに食べないと悲鳴を上げだす奇妙な習性がある」
メイドが少し皿によそったシチューの豆を私の前に置いてくれた。少量なのか、冷めた豆が青っぽく変化して顔の様な模様が浮き出て叫びだした。
「キェ~!」
気持ちが悪い!
「凄いよね、遠征中はそこら中で阿鼻叫喚って感じの食事だったからね。ロナルドも冷めた豆に叫ばれてトラウマになっているくらいだ」
ダンジョン遠征中のあちこちの鍋で、この悲鳴が起こっては正に阿鼻叫喚という表現が相応しいくらいのシュールさがある。レイモンドお兄様なら平気で食べたかもしれないけれど。
「私が食べたシチューにも入って?」
「造血させたかったからね。熱いうちに食べたから叫ばれなかったね」
こんな不気味な習性って‥‥不憫ね。
手が届きそうな位置だったので、叫んでいる豆をフォークで一突きした。
「リーナ!何をやっているんだ?!」
「えっ?食べられないの?味は同じなのかなと思って‥‥つい」
お兄様、そんなに怒るところなの?
「ふふっ、本当に肝が据わっているというか‥‥味に変わりは無いよ。私もやってみたから」
あっ、本当だわ。普通に美味しい。王太子殿下も試したのね。
「レイン、フォークで一突きすれば普通の豆に戻るし、味も美味しいわよ」
私の一言でレインが物凄く嫌そうな顔になっている。もしかして、造血豆嫌いなのかしら?
「それを美味しそうに食べたご令嬢はリーナ嬢だけだね、ロナルド。もしかしたら、ゼリーもいけるのではないかな」
至極楽しそうな王太子殿下に、頭を抱える兄。おそらく、兄は文官気質なのだろうと思った。自分の前に造血豆ゼリーが運ばれて来るまでは。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




