全ての始まりは魔力被弾から
王立学院の授業で伯爵令嬢のリーナが魔力被弾した。
偶然か必然か、全属性が覚醒し、全ての属性が聖属性を帯てしまった結果、従来の魔法とは違った魔法力を得てしまった。
チートな能力を少しずつ開放して、学院で起こった過去の悪辣な事件と向き合い、護衛と共に友達を助けながらハチ精霊に起こった悪意の真相に迫っていく。
天啓というものがあるのならば、この瞬間を言うのかもしれない。
ここはアーセリナ王国の名門である全寮制の王立魔法学院の演習場。
私、リーナ・パステルはグループに分かれて魔法制御という、集中力のいる課題に取り組んでいた。
そんな折、聖女候補となっていたブリジット・ルーバン子爵令嬢の魔力が暴走し、制御と防御に入った教師の魔力すら吸って巨大化した魔力塊が、第2王子の婚約者アンジェリーナ・チェスター公爵令嬢に向って飛んだ。
大きな魔力塊に怯むことなく、深紅の髪を靡かせ軽い身のこなしで優雅に回避されたアンジェリーナ様は流石だと思いつつ、その見事な所作に見惚れていたのがいけなかった。
「リーナ!お避けなさいっ!」
「えっ?!」
チェスター公爵家からパステル伯爵家へ嫁いだ母の恩恵で、公爵家の庇護下にある私の家。
当然、従妹でもある私は、アンジェリーナ様の学友の1人として同じグループ内で課題をこなしていた。そのアンジェリーナ様の悲痛なお声が、自分に対して発せられたものだと気づいた時には、大きな爆音や光と共に私の意識は途切れてしまった。
「お医者様、リーナは無事なのでしょうか。魔力塊に被弾した時の衝撃波や爆音は凄まじいものでした。なのに、外傷が見当たらないのが心配ですの」
「すみません。私が集中できなかったから・・・」
「ルーバン子爵令嬢、謝るのは後になさって。お医者様の見立てをお聞きしているのですから」
アンジェリーナ様の声と数人の声がしている。でも、私の頭はグルングルンと回る視界と、ゴワンゴワンと何かが頭に響いて考える事ができない。
その後、何回か薄っすらと目覚めては朦朧とする意識の中で、お医者様と誰かが話してこちらを覗き込んでいる光景が見えた。でも、私は起きることも出来ずに、また直ぐに眠りについてしまった。そんな状況が続いている中で、現実のような不思議な夢を見た。
私の住む世界とは全く違う景色。
行き交う人々の女性の服装があまりにも違う。驚きはしたけれど、何故か違和感が徐々に薄れて、この世界を知っている感覚が芽生え、懐かしさが心に広がった。
次第に、箱のような建造物が“ビル”と呼ばれていることや、天に聳え立つ奇怪な塔のようなものが“電波塔”であること。その電波によって映像化された物を映している“テレビ”があったこと。そして、そのテレビで様々な日々の番組をこよなく楽しみにしては、仕事を頑張っていたことを思い出した。
ああ、懐かしい!この時代劇、お爺ちゃんと一緒に見ていたし、時代劇を見た時はいつもこの部屋だったっけ。
これは、就職した後の番組だったかな。この医療系の話も懐かしいし、やたら雑学が貯まっていくクイズ番組も好きだったなぁ。ミステリーもサスペンスの推理ものもあった!あった!
まるで走馬灯のように移り変わっていく景色に、衝動的に感じた思いを頭の中で呟いている。現実でああって現実でないような、本当に変な感じね。
そこには、体の弱かった母に代わって、私を育ててくれた祖父母との記憶。
葉煙草をパイプに詰めて火をつけている祖父の小部屋は、工具や半田鏝の鈍い匂いの他に煙草の匂いがした。部屋全体がヤニっぽい茶色のイメージが強かったけれど、女の子なのに嫌がりもしなかったのは、部屋の香がパイプ煙草独特の甘い香りを残していたからかもしれない。
幼少期の思い出と共に、時代劇をほぼ全てを網羅していた記憶が蘇ってきた。
社会人になってからは、刑事や推理もののドラマやクイズ系のバラエティ番組を見ていた事も思い出しつつ、感化されて100までとはいかずとも資格を取ることに興味が湧いてチャレンジしたことも思い出した。
「これ・・・前世の私!」
核心めいた答えを引き出し、今見ている光景が前世だったのだと納得してみたものの、魔法まで存在する世界の伯爵令嬢として生きてきた今を考えてみた。
そこで思い当たる事象が浮かんだ。今がゲームやアニメや小説で良くある異世界転生のような状態なのだろうかと。確かに“魔法”や“聖女”というキーワードには、心当たりがある。
電子書籍で多くの異世界ものや転生ものを見てきたけれど、自国の貴族名と全く同じような名前がある物語は思い出せない。
子供の頃から書籍もかなり読み込んでいた私は、電子媒体になった辺りから消化する冊数が飛躍的に多くなった。漫画も小説も、購入した金額合計は車が1台買えるほどで、貯蓄出来ない自分を嘆いた時もあった。
自分が公爵家や侯爵家といった地位の人物ではなく伯爵令嬢だからこそ、私がモブと呼ばれる脇役令嬢だと仮定して、国名や周辺諸国、この国の公爵家や聖女候補の名前が一致するような前世の記憶は、全く以って無かった。
異世界転生でもイレギュラーが起こっているのか、読破していない書籍があったのかと、半ば状況を把握できないことにパニック気味になった。
まぁ、寝ているから、周りからは今のパニック状態を気取られないので助かってはいるけれどね。
先ずは今を把握しないと!私が伯爵令嬢として教育された知識を一回整理してみよう!
アーセリナ王国には、聖属性と無属性を持つ王族。そして、他の魔法属性と同じ数だけの雷・木・火・土・風・水の公爵家がある。
公爵家は、その属性に最も特化した魔力を有しているのが特徴なのよ。他の辺境伯家・侯爵家・伯爵家・子爵家・男爵家はいろいろな属性持ちが生まれて、魔力量や属性量が多い者が跡継ぎに選ばれる。
他国と違う特徴的な部分は、王族と公爵家や公爵家の主要分家筋の跡取りは、下位の他家から複数の属性持ちで魔力量の多い者を娶り、直系の魔力保持を行っている。属性が混ざり合うと魔力が増幅し、思わぬギフトのようなスキル持ちが現れるという理由らしい。
そこに愛はあるのだろうか?と何処かのCMの様にツッコミたい習わしだわ。
前世の記憶が蘇ってしまった私は納得できないけれど、貴族間の婚姻は義務というガッチガチな魔力増強を考えた理論で結ばれるみたいね。
逆に、跡継ぎになれなかった者で他属性を多く保有して魔力量が多いと、王族や上位貴族に嫁ぐことになるし、下位貴族の跡取りに婿入りしたり嫁ぐことになる。
そうでない者は、好きな人へ嫁ぐ自由選択肢を与えられるらしい。ウチはその典型的な両方の婚姻例だと思う。
フェリシアお母様が父のグラン・パステル伯爵に恋心を抱いて、前宰相の主催するパーティーで縁を取持ってもらい結婚出来たらしい。
ただ、禁忌もあるのよね。王族以外で、お同じ属性の強い者同士の婚姻は忌避される。王族は少し特殊で、同じ聖属性を持っていても他の属性を複数持っていれば結婚でき、むしろ、望まれる。
それ以外は、悲恋としか言いようのないものだけど、こればかりは子供に負を背負わせることになるからと、貴族でも平民でも王立教会が認めてくれない。どんな負を背負うのかは、授業の時に教えられるので私はまだ知らない。
平民も、王立教会で8歳と16歳の時に属性診断を受け、腕に聖印を付与される。
アーセリナ王国内では、平民にも2属性持ちが多く冒険者になる者も多い。稀に3属性を持つ者が生まれると、貴族の養子になったり、国家機関へ勤められるように王立魔法学院への入学が勧められる。
ゆえに学院には3属性持ちの平民と貴族が通っている。ただ、貴族は魔力量が多いため、後天的な属性顕現が起こる可能性があるので、聖印ではなくブローチとなっているらしい。
貴族が持つブローチとは、10歳から初等教育で算術・語学・歴史など数種類の基本的な教育を受けた貴族は、15歳で王立魔法学院に入学して直ぐに属性診断を受ける。
大抵の貴族は幼少時に家の判断で属性診断を受けている方もいるけど、この王立魔法学院での診断は全生徒が受けて、生徒同士や先生方に周知するために、属性を意味する色の魔石が反応するブローチを身につける。
生徒には、同じ属性の者同士の恋愛を避けるため。そしてもう一つの理由に、途中で属性が増えた生徒に、先生方がいち早く気付くためらしい。ブリジット・ルーバン子爵令嬢は学院に入ってから聖属性が顕現したので、このブローチの有用性は高かったのだと思う。
まぁ、ブローチに頼らなくても髪と瞳の色を見れば、大体の予測はつく。
例えば、アンジェリーナ様は深紅の髪に黄緑色の瞳で、チェスター公爵家の火属性の赤と魔力が雷・火・風・木を備えていらっしゃるので、次に強い属性が雷と木の色味が瞳に出ているの。
その婚約者でオースティン第2王子は王族特有の銀髪に一部深緑色の髪が混ざっていて琥珀色で金色の縁取りの瞳をしていらっしゃる。典型的な美男美女で絵になる方々ね。
そして、ブリジット・ルーバン子爵令嬢は、土属性の色味が強く出ているようで、栗色の髪に赤茶色の瞳をしていた。可愛い小動物系のような女性だ。聖属性に目覚めてから、髪に薄い白い束の髪が出ていたのが印象的だったわ。
とは言え、属性顕現して間もないと魔力暴走をひき起こす事故も多いため、授業を行う教師の他にサポート役の教師が付いている。
あの時、サポートの教師が放った魔法を吸収して、魔力塊が大きく膨らんだ気がした。私の見間違いかもしれないけれど、1つ言えるのは、大きな魔力塊の衝撃だったからこそ、防ぎきれなかった私は医務室で寝込む羽目になったのだから。
私がしっかりと覚醒できたのは、3日目の夕方だった。
高い天井と広い聖堂のような広間の一室は医務室の1つで、魔力被弾した生徒が治療と魔力調整のために入院する場所。もちろん、被弾してしまった私は、その医務室の衝立で仕切られた一角に運ばれたようね。
起きれるか、試しにベッド脇に置かれた机近くの壁掛け鏡の前に立った。
そこに写っていたのは、薄紫の銀髪に瑠璃色の瞳の自分。同じ属性同士を忌避するこの国は、髪と瞳に属性の特徴が出やすいので、親と違う色を持つ子が望まれる。
私の父、グラン・パステル伯爵は水属性と数代前に養子入りした王子の血が強く出ているため、青みがかった銀髪に藍色の瞳の持ち主で、母は実家のチェスター公爵家特有の火属性の色、赤みがかった金髪で紫色の瞳だ。
私の容姿は父よりなのかもしれない。そんな事を思いつつ、ふと、鏡の中の自身の瞳を見て固まった。鏡に夕日が差し込んでいたからとか、そういう類の問題ではないことが見て取れる現象が出ていた。
「何これ?」
自分の瑠璃色の瞳の輝きが、光彩によってトパーズの様にいろいろな色に見えるのである。よく見なければ分かりにくいが、被弾によって何らかの変化が起こったことは確かだと分かる。
ベッドに座り、気のせいだと自分に言い聞かせてみた。かなりの時間を要してしまったけれど、叫ばなかっただけ良かったと思った。
日が沈み、すっかり暗くなった医務室を見渡し、人が居なかった事に胸を撫で下ろす。
冷静に、瞳の色は変化したとしても後遺症でそうなったと、どうにか説明はつくだろうと考えた。ただ、貴族にとって重要な魔法は大丈夫なのかと心配になった。不安な気持ちを落ち着かせるために、生活魔法を行使して水を飲もうとコップに魔法をかけた時だ。
「何これ?!」
水魔法でコップに注がれた水が、窓から差し込む月明かりに照らされて光っているのである。素っ頓狂な声を上げてしまったけど、この状況を見たら誰でもそうなるかもしれない。
水魔法で作られる水は普通の水なのだから、こんな聖水みたいに光ったりはしない。断じて。
「これって、聖水?」
この光には見覚えがあった。
学院入学と共に、王立教会で受ける属性診断の前に、洗礼として聖水を飲むからだ。美しい硝子のタンブラーに注がれたものを頂き、自分の持つ属性への器が反応するかを見てもらう。
要は、顕現への可能性を、聖水を取り込むことで試すのである。
前に見たから、光り輝く水には見覚えはあるの。あるけど、変なのよ。
「いや、ちょっと・・・これ変よね?聖水は聖女だけが作る魔法なのだから」
聖女はただの水を聖水に変える。そう、変化させるだけ。水魔法で出した水が聖水なんてありえない。
以前、水魔法を持っていた生徒が聖属性を顕現した時だって、水魔法で水を出してから聖属性魔法で聖水に変えていた。だから、属性が混合した魔法なんて、今まで見たことも無い。
恐る恐る、傍にかけられた制服の襟に付いている自分のブローチを見た。
私は雷・木・土・水の4属性持ちだ。このブローチは持ち主の血が一滴使われているので、どんなに離れていても分かるもの。だから異変があれば、ブローチが即座に反応するようになっている。
「本来、反応しない魔石は見えない様に消えてしまう。今は台座部分に属性と同じ色の魔石が現れているだけでなく、強く光っているなんて・・・」
これは普通の顕現ではないと焦った。通常の顕現は、魔石の無い台座部分に光の色で仄かに再現されているだけなので、少し薄い色になる。
私のブローチには魔石が現れ、しかも光彩を放っている。断じて、私に聖・火・風・無は無かった。
「魔力塊に被弾して、顕現なんて今まで聞いたこともないけど」
ブリジット・ルーバン子爵令嬢は、火・風・土の3属性持ちで聖属性が顕現して4属性になった方だ。それでも無属性は無かった。
考え込んで、事故の状況を頭の中で再現して分かったのは、サポートの教師が放った魔法を吸収して、魔力塊が大きくなったと仮定したのは正しかったのだと納得した。
なぜなら、防御魔法の1つとして、他の属性の魔力を相殺させることが出来る属性は無属性だけだからだ。ただ、この無属性は王族であることを意味する。確か、現国王の従弟にあたる王族が王立魔法学院に属していた筈。
そこまで考えてから、教師の無属性の魔力を吸収した魔力塊に被弾して、何らかの作用が起こった結果が、ブローチに出ていることを理解した。
「ブローチに出ているということは、私は全属性持ちになってしまったと?」
いやいやいや、全属性持ちなんて今まで存在していないでしょう!しかも、水魔法を使って聖属性がオプションで付与ってありえない!
半ばパニックになりつつも、ゴブレットの中の水を窓から捨てた。こうなったら、証拠隠滅だわ。
そこまでやって、私はふと考え、ブローチを見た。水属性の部分が淡い水色の光を放っている。他の属性も聖(金色)・雷(黄色)・木(緑色)・火(赤色)・土(琥珀色)・風(乳白色)・水(水色)・無(透明)の光を放っている。
「他の属性も?・・・まさか?」
頭を抱えこんだ。自分の仮設が正しいなら、自分の持っている4属性とブリジット・ルーバン子爵令嬢の聖属性と3属性、そして教師の属性が合わさって全属性をコンプリートした上に、全ての属性が聖属性を帯びてしまっていることになる。
こんな魔力干渉はありえない状態よね?
「今直ぐにでも、現実逃避して旅に出たい」
口をついて出た本音が空しい。
通常なら、こんなチートな能力が顕現されたら嬉しいだろうし、能力を極めて国の為に!なんて考えちゃうのだろうけど。私が逃避したい気持ちになっているのには、ちゃんとした理由がある。
さっきの貴族同士の婚姻の話に戻ってしまうけれど、稀有な力を持った者は王族に嫁ぐことが多い。
両者の合意の上での婚姻とは言われても、王族からの申し出を蹴る貴族はいない。実質上、独断決定事項なのよね。
前世を思い出してしまった以上、私に愛の無い結婚は考えられない。そして何よりも、一番の問題は王族である相手が近しい年代だということ。
理由としては、王様が王太子だった時に、王太子妃として王妃様が嫁がれた年から社交界における、貴族達の情報合戦が始まった。王太子妃の懐妊の兆しに合わせて、同年代になる子を作るのである。
この国には、18歳のアルフレッド王太子殿下。17歳のオースティン第二王子。15歳で双子のレオナード第三王子とエドワード第四王子は私達と同学年の4人の王子がいる。
前世風に言うなら、15歳の私達から数えて前後3年の6年間ほど、貴族のベビーブームの爆誕と言える。そしてかなりの確率で魔力の強い子が貴族間に生まれる。王家の魔力に引き寄せられるかのように。
王子の中で、アルフレッド王太子殿下は婚約者が秘匿されているため、婚約者が公表されているのは、オースティン第二王子の婚約者、アンジェリーナ・チェスター公爵令嬢だけだ。
同学年の双子の王子には、婚約者は決まっていない。お2人はとてもよく似ていて、悪戯好きなレオナード第三王子がエドワード第四王子として振舞って、護衛騎士を混乱させている時があるらしく、実に子供っぽい。それ故の未定なのだろうと、前にお父様が話されていた。
そして、私が王家に関わりたくないと思っている理由は、前世の記憶に要因がある。倒れ込んで寝ている間に前世の内容を思い出していた。その中に、“異世界転生”や“聖女”や“魔法”などといった覚えのある物語やゲームの類が起因している。
ただの脇役が王子様などの婚約者となった場合、多々ある話として“嫉妬に狂ってヒロインを虐める婚約者の悪役令嬢”や“陰謀に巻き込まれてさっさと暗殺される令嬢A”なんて役になりかねないと予測している。この記憶は最早、トラウマのような感覚に近いかもしれない。
でも、王子様方を見るご令嬢方の眼差しや、アンジェリーナ様に向けられる羨望と嫉妬などを見ていると、あながち思い込みやトラウマだけの問題とは到底思えない。
故に王族には近づかない。無難に脇役を全うして学院生活を終える目的のためにも、今の状況は非常によろしくない。
ブローチを手に取って考えてみたけれど、魔法はイメージが大切なので、元々持っていた属性だけしか深く学んでいない。他は浅く広く教本を読んだだけで、属性の概要しか知らない。
ベッドの脇に置かれたカバンの中から魔法学の属性のページを見ても、今の状況に対する対処法が見当たらない。このままだと珍獣扱いで王家に嫁入りなんてことになりかねない焦りが込み上げてくる。
「せめて、このブローチに隠ぺい工作できたら・・・。そうよ、隠ぺいだわ!」
そう叫んだ瞬間、ブローチの無属性の魔石が点滅した。
「何これ?!」
驚いて叫んでしまったけれど、医務室の先生は近くに居ないようで助かった。
落ち着くためにも私は深くため息をついた。そして、恐る恐る点滅している魔石をまじまじと見つめた。すると、吸い寄せられるように手が勝手にブローチに伸びていく。
「!!」
どっと、脳裏に流れ込んでくる魔法陣と唱えた魔法名に、私の身体が震える。
尋常じゃない!
今起きている事は、普通の魔法学で学ぶ方法とかけ離れている!通常は長い詠唱によって魔法は行使されるからだ。魔法陣と魔法名だけで発動なんてありえない。
「これは・・・ブローチを取り囲むような魔法陣が1つ展開しているの?」
魔法陣の中央は何も無く、綺麗な円に縁どるように古代文字が絵の様に描かれて光っている。
困惑しながらも、ブローチの聖属性の魔石を触ってみると、魔石が透明になって光らなくなった。もう一度触ってみると、光った魔石が出現する。
「こんなチート過ぎる・・・いや、助かるけど・・・」
嘘でしょう!と叫びたくなる衝動を抑えたけど、絞り出した声がヤケに大きく聞こえた気がする。心音が耳元で鳴り響いている上、これ以上はキャパオーバーだと思いつつも、自分の元の雷・木・土・水の魔石以外の魔石を見えなくした。
そして、聖属性を隠ぺいしたからか、ブローチの魔石からの光は無くなった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
更新はep.11まで文字数多めで週1更新でした。
ep.12から現在は1000文字数くらいで
毎日朝6時に更新しています。