011 腕無しの剣聖(男女主人公?、異世界ファンタジー) 本編
キャラ設定を紛失したのか、データがなかったので本編のみ貼ります。
「師匠、あれが目標の都市ですか」
「剣と宝石の都市ですね」
海に面した都市。透明な青い海に映える白い建築物の多い都市は、観光客も多い。海に面していることから、剣と宝石のみではなく海産物も豊富だ。
年中暖かく寒くなれば避寒地としてやってくる貴族も少なくない。
そんな都市にやって来た二人組は、腕がない。男――フィリップ・ヴァンは左腕はあるのだが、利き腕であった右腕は存在しない。
そして師匠と言われた女性――アリーシャ・ウッドに至っては、両腕がない。
だが彼らには特別な魔法があった。腰や背中のあたりを浮遊している剣がそうだ。――フィリップはまだ未熟な為、普段から浮かせることは出来ないが。
アリーシャが両腕を失った時に開発したオリジナル魔法。剣を自在に操る魔法だ。
本気で戦う時はもっと多い本数を用いるのだが、普段こうしているぶんには5本が浮いているのがせいぜいだ。
それだというのに、全てがアリーシャの精神と直結しているのかのような繊細な動きを成してみせる。
「新しい剣ですか?」
「はい。私と、貴方に」
「俺は大丈夫ですけど……」
フィリップがそう言うと、ひとりでに剣がおさめられていた鞘から抜き取られる。当然だが抜き取ったのはアリーシャだ。
そしてその剣――剣身をフィリップの眼前に突き出せば、少し怒鳴るように言う。
「これのどこが大丈夫なのですか? 刃こぼれも甚だしい。騎士なのであれば気を遣うべきです」
アリーシャは魔法使いでありながら、その異質な魔法から剣士でもある。唯一の武器でもあるから、当然剣には注意を払うのだ。
フィリップの今までの騎士像とは全く違う環境だったため忘れていた。魔法使いだろうが剣を振るうのだから、魔法の杖に気を遣うと同じで剣を手入れするのは当然だ。
だが――
「……これは、父から頂いた剣でして」
フィリップの家は代々騎士をしてきた。騎士団に行く初めての日貰った大切なもの。
出来れば新たな剣ではなくて――
「であればそれは手入れしてもらいましょう。ですが、貴方はそろそろ二本目を扱えるようになるべきですので、新品の購入は変えませんよ」
「にっ……、普段から浮かせるのも出来ないのに二本は……!」
「出来ないなら練習する!」
「そんな~」
フィリップはアリーシャに連れられるまま、ある店へついた。通ってきた道の脇には多数の店があって、呼び込みをしていたり自分の店に入ってもらおうと必死だ。
どの店もきらびやかで、剣と宝石と言われるだけあった。
数々の呼び込みをスルーして直行したのは、路地裏に差し掛かる前の素朴でシンプルな――言い換えれば暗い店。
中に入ると店によく合うシンプルな刀剣が並んでいる。だが剣の道を行っていたフィリップならばひと目で分かった。
今までに見てきた店とは全く違う。立ち並ぶのは素晴らしい品々ばかりだと。
「凄いですね……」
「触る前に値札を見てくださいね。下手に汚したら払えませんから」
「はーい、え!? 何この値段!?」
「だから気をつけてくださいね」
騎士団の給料もそこそこ悪いものではなかったが、それを何十年と積み重ねようが到底買えない値段の剣が当たり前のように並んでいる。
だがその値段を聞いても違和感を感じさせないクオリティ。ただの騎士であれば一生触れない高級品だ。
*
「お前に騎士団除名を言い渡す」
ここは騎士団の団長室。険しい顔で告げるのは、告げられたもの――フィリップ・ヴァンにとっては余命宣告に似たものだった。
フィリップは幼少期から剣士になるように鍛え上げられていた。父も祖父も、親戚もみな剣の道を歩んでいた。
自分もそれに背くことなく剣の道を行き、それが正しいと思っていた――いや、今も思っている。
先日大きな戦いがあった。戦争までという大層なものではなかったが、死傷者が大量に出て都市の一部は崩壊した。
何とか辛勝という形で勝利を収めたものの、失ったものは大きい。
フィリップもその戦いで利き手である右腕を失った。剣士にとって大切な、剣を持つ手を失ったのだ。
彼にとって相当なショックだろう。だが今こうして受ける宣告の方が厳しかった。
他人から、「お前には完全に剣の道は無い」と真っ向から否定された。今まで培ってきた人生は。経験は。生きる意味は。
「ま、待ってください、俺はまだ――」
「まだ? お前が騎士団に執着して何になる? 片腕の騎士が何を守り戦えるというのだ」
団長の言うことは正しい。頭では理解していても、心が追いつかない。
震える手で騎士団の証を提出し、ふらついた足取りで帰路に着いた。
今朝騎士団に向かう時には考えられない絶望。
もう二度と剣が握れない虚無。
失われた人生。
「どこ見てんだァ、クソアマァ!!」
通りかかった飲食店の方から声がする。いつもならば即座に向かい仲裁に入るが、今の彼には腕もなければ剣も――正義の心もない。
ぼんやりと眺めていると、男三人に囲まれた女性がいるではないか。
女性は腕がなく、代わりに腰周りに何本か剣が浮いている。遠目だが良い剣だ。どれもが形の違うものだったが、まるでそれは主人を守るが如くふわふわと浮かんでいるだ。
「ぶつかってきたのは貴方がたでしょう。そうやって他人に治療費でも請求するおつもりですか」
女性がそう言うと図星なのか黙り込む。正論で返されるのを想定してないのか、それとも単純に脅し経験が浅いのか。
「と、とにかく許さねぇ!! やっちまえ!」
「お、おぉ!」
その掛け声を聞いてフィリップはハッとする。いくら騎士団を追い出された片腕の男だからといって、女性が暴行される様をそのまま見ておくのは男としておかしい。
咄嗟に走るが気付くのが遅すぎた。――距離が詰められない。
男の拳が振り上げられ、容赦なく女性の顔を目掛けて下ろされた時。その場にいた誰もが目を疑った。
――剣の一本が、その腹で拳を止めたのだ。
「こちらは剣、そちらは拳。ハンデとして切らないとお約束しましょう」
ニコリと笑えば、腰回りに浮いていた剣達が彼女を守るよう取り囲むように浮遊する。暴漢達は距離を取り、各々の武器を取り出した。
手持ちを見る限り飛び道具はない。
「おや、武器持ちでしたか」
女性が言うとハンマーを持った男が突っ込んでいく。おおかた何も考えていないのだろう。「うおおお」なんて叫びながら突進しているだけだ。
宙を舞う剣が二本男の元へ飛んでいく。目にも留まらぬ速さで通り抜けたと思えば、男の持っていたハンマーはバラバラになった。
そのことに更に怒り、ハンマー男は持ち手部分を投げ捨てて再び突進する。拳を強く握りしめている。単純に殴るだけだろう。
「殴るならもっと速くしないと」
ハンマーを切り裂いた一本が、まるでブーメランのように戻ってきて男の後頭部を強打する。刃の部分ではないから大きな傷とは言えずとも、金属の板で思い切り殴られてしまえば痛いに決まっている。
男は千鳥足で何歩かふらついたあと、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
「ば、化け物か……!?」
「失礼な……」
ハンマーを使うだけあってこの三人では一番力に自身があったのだろう。そんな男を一撃で倒したのだから、他の仲間も震え始める。
倒れた仲間と女性を何度も交互に見て、「覚えてろよ!」なんて捨て台詞を吐きながら逃げていった。
フィリップは一部始終を見ておきながら、結局手を出せなかった自分に対して深く反省した。それと同時に腕がないというのに剣を振るうあの女性に興味が湧いた。
穴が開くほど見つめていたせいか、女性の視線は逃げていく暴漢からフィリップへと変わっていた。
「! あ、も、申し訳ない。助けられず」
「いいのですよ。腕のない方に助けられるほど落ちぶれておりませんので――って私も腕がないか」
女性の名をアリーシャ・ウッドと言う。剣を用いているものの要領は魔法と同じだそうだ。
アリーシャもフィリップと同じく過去に腕を失くした者だという。だがフィリップと違いところは、彼女は元々魔法使い志望だったということだろう。
「そうですか、先日の戦いで……」
「はい……。先程騎士団に約立たずだと切り捨てられましたよ」
笑ってみせたが涙がこぼれそうだった。強気に振る舞うのも辛いのだ。だって騎士道は剣は、人生そのものだった。今後自分は、どう生きていけばいいのか。
アリーシャは奢ってもらった食事を見ながら嘆息する。
こういう人間を探し求めて旅をして回っていたのだが、こうもぴったりな人材が見つかるとは。不謹慎ながらも笑ってしまいそうだった。
先程も言ったとおり、アリーシャは魔法使いだ。
剣を使う魔法使いという異質ではあるが、それでもオリジナルの防衛兼攻撃魔法だ。となれば死ぬ前に弟子を受け入れて、後世に残せるようにしないといけない。
腕のある人間ではだめなのだ。腕を失っている人間でないとこの魔法は扱えない。
だからフィリップの存在は偶然だが丁度いいものだった。――問題は彼が受け入れてくれるかどうかだった。
「フィリップさん――」
*




