002 落ちこぼれの魔術師は得意の幻惑魔法で無双します!(男?主人公、異世界、戦闘?)
◆あらすじ
主人公、ルレット・ナンドンは魔術師として冒険組合に籍を置くが、腕は三流以下。
仮加入でいろんなパーティを行き来していたが、どこに行っても弱いと切り捨てられていた。
現在は、彼の能力を見出してくれた最強の二人と一緒に、冒険者ライフをしている。
◆キャラクター
*ルレット・ナンドン
一人称:僕 性別不詳、中性的で可愛い。
月のように黄色く輝く瞳、肩につきかけている黄緑の癖っ毛。
幻惑魔法は一級品、ほかはダメダメ。
基本敬語。
普通の魔法はフルで詠唱+杖の補助がないと全く使えない。
杖はレオナが選んだ一級品。金はもちろんリリアが出した。
*リリア・フォーファイア
一人称:私 別名・破壊の女神
燃える炎のような赤く強い瞳、一本に束ねられた綺麗な金髪。
元王国騎士団員。女性にして初めての騎士団幹部入りを果たしたのだが、余りの暴君さに追放された。
現在は冒険者としてやりくりしている。本人曰くそれが性に合うとのこと。
ルレットのことは「るれたん」「るれ姫」「るーちゃん」などとよぶ。
元々追放されてからはレオナと二人でパーティを組んでいたのだが、とある事件をきっかけに、ルレットと出会う。
あまりの可愛さに惚れてパーティに入れることに。
武器は光の加減で黄色く月のように輝く「ムーンブレイド」。
大剣だが彼女はナイフを扱うかのように簡単に扱う。いつもは背中に背負っている。
*レオナ・ホワイト
一人称:私 別名・紫炎の魔女(揺らめく紫の長髪がまるで炎のようなので)
水晶の如く煌く水色の瞳、腰まである艶やかなウェーブのかかった長い紫の髪。
攻撃魔法からバフ、回復までなんでもお任せな最強魔術師。
ルレットに関しては、自分で作った魔法を使っている点を大いに評価している。
常識人。超有名人。無詠唱で何でもかんでも打ち込める。杖は持たない主義。
◆一話
「お嬢ちゃん、何してんの……」
「えぇ、隠れているんです」
端正な顔立ちをした少女。月の如く煌く黄色の瞳に、肩につきかけている癖っ毛が愛らしい。
その杖をギュッと握りしめた少女(?)は、村人の問いに対してそう言った。かくいう村人も、この家の裏庭で隠れていた。
表通りでは絶賛戦闘真っ最中で、襲ってきた盗賊と、前々から依頼していた冒険者達がその対処にあたっていた。
この村は昔から盗賊に襲われやすく、度々被害にあっては泣き寝入りをしていた。ある日それなりの収入が確保された時だった。みなで余剰分の金を持ち寄り、冒険者に頼ろう。そんな話になった。
そして今日。冒険者が助けにやってきてくれたのだが――
「お嬢ちゃんもあの人の仲間だろ!? 行かなくていいのかよ!」
驚いて叫ぶ村人に対して、少女?は笑うだけだった。
そう、彼女?も今表通りで戦う二人と一緒にこの村にきた。パーティの一員として。ただ彼女?は戦闘要員ではなかった。
あの場に居れば足で纏いにもなりかねない。魔法なんてそこらへんの少年少女よりも、使えないのだから。
大事に持っている杖の補正がなければ魔法なんて打てないし、もっといえばどんな簡単な魔法でも詠唱を全て唱えなければ発動できない。
発動したところで威力もままならない。せめていうのであれば、タバコに火を灯す程度の火力しか出ないような魔法しか扱えない。
落ちこぼれ中の落ちこぼれ。ポンコツ。冒険者をなぜやってるのか不安になるほど。魔術師を名乗るには酷すぎる。
ではなぜ彼女?はここにいるのか。
「おい、おっさん……」
「ヒッ!」
先程、村人が大声を出したせいで、表にいた盗賊の一人が気付いてしまった。村人の胸ぐらを掴んで、自分の前へと引き摺り出した。
村人は震えながら助けを乞い始める。
「金目のもん出せや。ったく、冒険者なんてだるいもん雇いやがって」
苛立ちを隠さない男が、拳に力を込めた。これから彼のやることは目にみえている。脳のない人間の、うさ晴らしなぞ暴力しかない。
今の今まで眺めていただけの少女?が、そこで立ち上がった。にっこりと笑顔を保ったまま、盗賊の方を見ている。
「いやだなあ、弱いものいじめはよくないですよう。お兄さん、⦅その方を・離して・くれますか⦆」
少女?がそう言うと、男はまるで夢の中にでもいるのかと言うような、ふわふわとした気分に襲われた。この子の言うことは聞かねばならない。そんな感じが。
男は村人から手を離すと、その場でフラフラとし始めた。そんな様子を見て、少女?はうーん、と悩み始める。
「そうだな……⦅表通りへ・戻って・ください⦆」
「わか、った……」
「ご協力ありがとうございます」
ひらひらと手を振り、千鳥足で表通りの激化していく戦いの地へ戻っていった。
村人が胸ぐらを掴まれたせいで苦しそうにしていたので、少女?は急いで駆け寄った。幸い男が何かをする前に“止めれた”のでおおごとにはならなかった。
「そうですねえ、そろそろ僕も行きますか」
*
「終わりか! 雑魚ども!」
「もう、リリアったら口が悪いわよ」
大量の屍(とはいえ、最終的には役所に突き出すので生きてはいる)の中心に君臨していたのは、リリア・フォーファイアとレオナ・ホワイトだった。
彼女達の名前を知らぬものはいないだろう、と言うほどの有名な冒険者、そしてパーティだ。
リリア・フォーファイアとは、別名「破壊の女神」。
燃えるような赤い瞳と、一本に纏められたポニーテールの金髪が彼女の特徴。
元々は王国の騎士団員だった。女性としては異例で、その幹部にまで昇り詰めた。しかしながら、彼女はあまりの暴君さに追放され、今こうして冒険者としての人生を送っている。
背中に背負う愛刀「ムーンブレイド」を自在に操る戦闘は、豪快で強さそのものだ。
そしてこちらの美女はレオナ・ホワイト。別名「紫炎の魔女」とは彼女のことだ。その名の所以は、彼女の持つウェーブのかかった腰まである長い紫の髪だ。
戦闘中に揺れるその髪の毛は、まるで炎。
そして瞳は水晶のように輝く水色。魔女だと言われて納得の美貌。一度見たら忘れぬ容姿だろう。
彼女は破壊神と比べて常識的ではあるが、魔法の腕は非常識だ。彼女の右に出るものはいないとも言えるほどで、どんな魔法でも無詠唱で発動できる。
「何匹か逃したようだな」
「ルレットがいるから問題じゃないわよ」
「ハッ! そうだ、るれたんはどこだ!?」
「貴女が隠れてろって言ったの、覚えてないの?」
るれたんことルレットとはもちろん、ルレット・ナンドンのことである。
中性的な容姿で性別不詳。魔術師としては最低級の落ちこぼれ。戦闘に役に立たず、荷物持ちにすらなれない。
「お二人とも。終わったみたいですね」
「ええ、でも数人逃しちゃったみたいなの。頼めるかしら?」
「意識のある方がいればの話ですが……、ってリリア、離れてもらってもいいですか……」
ルレットが物陰から出るなり、気味の悪い速度でまとわりついて頬擦りをしているのは紛れもなく破壊の女神・リリアである。
男も惚れる男勝りの剣豪だとしても、この不思議なルレットの前では、ただの気色が悪い女にしかならない。
「ん〜〜〜、るれたん、るれ姫〜〜! 今日も可愛い、いつも可愛い! は〜〜、怖かったねぇ、リリアお姉さんが守るからねえぇ〜〜♡♡♡」
「レオナ〜……」
「はいはい、ほら離れなさい!!」
「うぎゃぁあぁぁっっ!!」
レオナがフィンガースナップをすると、リリアだけが電撃を浴びせられたのだった。