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野澤ナオ

長くなったので2話に分けました。

[ナオ。後方左に不審者が]


「は? この辺は避難済みだけど火事場泥棒って奴か?」


 野澤が首を巡らせる。

 連動してDAも後ろを見る。

 アパートの窓に山吹愛が見えた。


[拡大します]


「やめろメリー。やめろ」


『ああっ、こっちを見ました! 淺井さんっ! こっちを見てますよ!?』


 拡大だけでなく外部集音マイクで音声まで拾っていた。山吹愛が部屋の左奥に向かって笑顔で叫んでいる。

 野澤機のDA、メリーは気を利かせるのが大好きだ。興味の無い事にはトコトン無頓着な野澤とはいいバランスだと言える。


「……淺井准尉、迷惑してるんだろうな」


 これから最も迷惑を被る事など知らず、野澤は同情を滲ませて言った。


[AIでも恋するんですねー]


「感情の起伏を処理しそこねてバグっただけだろ。――電探に反応あり。12時、強襲型のドローン2機で確定、距離5000。まっすぐこっちに向かって……って何で俺が報告してるんだよ。仕事しろよ」


[してますよ。不審者を発見したじゃないですか」


「白々しい。分かっててやってるよな」


「てへぺろ」


 その台詞と共に、ポン、と可愛らしいキャラクターが表示される。


「ったく。で? 中佐からの追加情報は?」


[強襲型の情報以外は特に。まだ接敵していないのかも]


「了解。1機は可動状態で回収したい。フックワイヤーで絡めとれないかな」


 フックワイヤーとは鉤の付いたワイヤーである。高所に引っ掛けて登り降りに使うような物だがDAは飛べるためフックワイヤーの使い途など無い。では何故そんな装備があるのか。


 野澤とメリーの趣味である。


 そもそもDAの軍制式装備とされているのは、小銃と佐々木のオリジナルが制式化されたリボルバーだけで、それ以外は全てDAごとのオリジナルである。野澤とメリーの場合、他にも電気ショックワイヤーだのシールドワイヤーだの射出ネットだのと、有効性を実験しながら増やしている。


[問題無いですよ。堕ちる前に引き寄せれば民間への影響を防げますし、いいんじゃないですか?]


「もう1機は、後方や横からの攻撃に対する挙動を見たい」


[見てどうするんですか]


「今回の優先順位が分かる」


[『オマエ、撃った。オマエ、敵』設定だったら無意味な試みですよ]


「俺が撃った直後にメリーが撃て。『誰? ジャナクテオマエ敵ィィ!』となればその設定だし、メリーに構わず俺を狙ってくる様ならDA戦を想定していない」


[なるほど。って、それ。いやいやいや、まさか。また私に自律行動をしろと?]


dollドールが優秀って設定で宜しく」


 野澤はポケットから自作の小型端末機を取り出すと、マジックテープでステイックの根元に括りつけた。短いケーブルも繋ぐ。


[そのポンコツと一緒にされるのは多大な不満と甚大な苦痛を感じるのでメッチャ嫌。遠隔操作って事にして下さい]


「メリー。小銃と拳銃を」


[その前に遠隔操作の言質を]


「そんな機能無ぇよ。dollの指示に従ったって事にしとけば俺の身の振り方1つでどうとでもなる」


[はあ~~~……もう、わかりました。誰にも言わないで下さいよ?]


「面倒だから言わねぇって。それに気付いてる人は気付いてるさ。中佐とか問題児とかな。宮代さん発見の経緯は不自然過ぎるんだよ」


[私からは何とも。距離2000。小銃と拳銃どぞ]


「さんきゅ」


 メリーの対応はあからさまな誤魔化しだが、野澤は追及しない。する時間が無いのもあるが、これが彼特有の距離感なのだ。


「念のため路地から南へ移動する。フックワイヤーは向かって右側の奴に。俺はその後に左を撃つ。回避と迎撃のバランスはメリーの自己判断でいい」


[了解です]


 野澤はホルスターごと現れた04式自動拳銃を掴み21式自動小銃を肩に引っ掻けると、ハッチを開けて外に飛び出した。DAの重力制御が働き、落下速度が半分に調節される。地面に足が着いた。ふわりとした着地だ。ホルスターを素早く右腿に装備し、5m程進んで右の路地に入る。モニタリングを警戒して、メリーは山吹愛の視界から野澤を隠すように移動した。


 野澤は小銃の負い紐を延ばして背中に回し、手近なフェンスを乗り越えて最短で南へと進む。そのまま他所様の土地を幾つも横切って200m程南下すると、小銃を手に持ち、路地南側の壁に張り付いて道路を覗いた。

 黒点が2つ、見えた。

 みるみる大きくなるそれは、強襲型搭載のドローン、直径3m程の円盤だ。下に格納式のレーザー銃をぶら下げている。


「やっべ、ギリギリだったな」


 ドローンは既にメリーを捉えているはずだ。メリーは右手でフックワイヤーをぶんまわし左手にリボルバーをぶら下げて不穏な空気を醸し出している。なのに、ドローンは撃たない。


「だと思ったよ」


 呟いて身を隠すと背負っていた小銃を降ろし、切替え軸を「ア」から「レ」に回した。銃口を下に向けて構え、タイミングを待つ。


 10秒と少し数えたところで、ドローンが野澤の近くを通り過ぎた。重力制御で飛んでいるため無音である。


 野澤は路地対面の建物に駆け寄り、左肩を壁の角に押し付けて小銃を構えた。


 メリーが道路上を飛んでいるドローンに、無挙動でフックワイヤーを叩き付ける。先端が音速を超え、街に衝撃音が鳴り響いた。それに合わせて引き金を落とす。


 タンタン! タンタン! タンタン! と2発ずつ3回。


 全てヒットし、ドローンが揺れた。その場で向きを変える。


 ドン! とメリーのリボルバーが火を噴いた。が、外れた。


 その時にはドローンの高度が下がっていたのだ。


 ドローンは最初の攻撃があった路地へと急行する。


 メリーが走りながら2発、3発と射撃するが、ドローンの機動が複雑で当たらない。


 ドローンはメリーの射線を避けるように路地へと入り込んだ。


 そこには誰も居ない。


 だが、少し奥の建物と建物の隙間に熱源を感知し、レーザー銃を向けて移動、隙間の正面に辿り着くなりレーザーを浴びせた。


 ズシッ、と鈍い衝撃と共にドローンが数m沈む。


「お前らは真下を撃てないもんな」


 野澤が上に乗って、04式自動拳銃を構えていた。


 ドローンのセンサーを騙した熱源は、小銃だった。


 野澤は素早く登れる足場を探しながら南下し、条件の合うこの場所を迎撃ポイントとし、射撃後はすぐに奥へと引っ込みんで目を付けていた隙間に銃を放り込むと、雨樋と壁を頼りに2階の屋根まで昇っていた。


 ドローンの射角は上下が狭い。人間を撃つ場合、近付けば近付くほど、高度を下げざるを得ない。この路地を選んだのは、ドローンの性能限界を突いた攻略のためであった。


ドン! ドン! ドン!


 ゼロ距離で浴びせられる9mm弾がドローンの薄い装甲を抉り、飛行維持に重要な部分を撃ち抜くまで、然程の時間を要しなかった。


 ガクン、と高度を落としたドローンから飛び離れた野澤は、下敷きになっているレーザー銃にも9mm弾を浴びせて無力化し、小銃を回収。そこへ、メリーが来てハッチを開けた。

 軽くジャンプした野澤をメリーの重力制御が拾い、ハッチの中に収める。


[いつぞやの再現になるかと焦りました]


 メリーの声に翳りがあった。撃っても当たらなかった事を気にしているのだ。


「俺の判断だから。メリーのせいじゃない」


 野澤はかつて、DAから離れた際に重症を負っている。


 それは中部圏と関東圏の境目にAI群が侵攻してきた時、戦闘が終わった後の索敵中に起きた。

 範囲が広いため通信の野澤も駆り出されたのだが、バディが居なかったため後方寄りの安全な地域を割り振られたら、そこに敵が居た。

 民間人がいるためDAの武器は使用禁止とされ、野澤は生身で人型戦闘AI集団と戦う事態となったのだが、メリーが情報操作だと主張して譲らなかったため、野澤は自分が囮となって引き付けるから、効果範囲に入ったら収容してくれと頼んで、メリーのリリースはせず待機させていた。

 戦闘は野澤の思惑通りに進み、あと50mで収容の効果範囲という所で跳弾が腿を掠め、動きが鈍った所を撃ち抜かれた。メリーが自律行動を見せたのはその時が初めてであり、野澤を守ってAI集団の駆逐までしている。これを知っているのは野澤だけだ。

 誰にも話さないのには理由がある。

 メリーは野澤が気を失っていると思っていた様だが、実は起きていた。

 そして、メリーが何処かに通信を繋げていて、怒りも露に叫ぶのを聞いた。


[これはサードパーティーの失態です!]


 と。


 それが何を意味するのか独自に調べ、善意の第3者機関という組織が世界をコントロールしている、というヨタ話が世界中に存在する事を知った。

 これを、野澤は笑い飛ばす事が出来なかった。


 海底ケーブルが切断されていないのは何故だ?


 そんな疑問を抱いたからである。

 有線であればネットを介して世界中と繋がっている。だが、情報戦は戦争の基本だ。利用しない筈がない。俺たちは都合の良い嘘を見させられているのではないか。


 以来野澤は、AIの研究をする体で情報を漁っている。


「俺の、判断だから」


 野澤はもう一度、自分に言い聞かせるように呟いた。


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