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コードネーム

 DAは出現と同時に足を伸ばして装甲重力車を引っかけ、強引に蹴り上げて手でキャッチする。直後、ふわりと光を放って消えた。



 コックピットの中では、ペダルが元の位置に戻った所だった。

 美しいがどこか冷淡な女性の声が響く。


[扱い]


「そこらに刺さるよかマシだ」


[そこは同意。画面はこのままで?]


 現在は頭部の「目」から見た景色が大きく空間投影され、搭乗者の目と首の動きに同調している。


「これでいい。電探でんたんはどの程度使える?」


 海堂は半球状のマルチコントローラーを操作してハンドガードの付いたステイックを立ち上げ、感触を確かめる様に前後にスライドさせてから握り締めた。トトトンとハンドガードをタッチしてモニターの手前に小窓を出して左右に配置する。

 そのひとつ、同心円に十字の模様を入れた画面は、派手にノイズが走っていた。


[ほぼ無効。上方から高出力のECM。飛行型がいます]


 新たな小窓が表示され、マンタの様な機体を拡大して映した。腹がドーム状に膨れている。


「高度が低いな。単純強化と戦力分散が狙いか」


[初動の捨て駒も込みかと]


「かもな。効いているのは確かだ」


 海堂はペダルを踏んで巨大建造物を回り込む。電源が復活したのだろう、パパッと灯りが点くのが見えた。

 下方ではあちこち穴が開いている。車が刺さったままの場所もあった。

 これで死傷者ゼロなど有り得ないだろう。救助に向かいたい所だが、今は。


 自分にしか出来ない事がある。


 同情も感傷も振り切って無理矢理視線を外すと、遠くを見る。90度ほど回り込んだ時、画面右端に赤いマーカーが現れた。


[2時に機影確認。強襲10、ロボット2、各2手に展開]


 海堂は報告の途中でステイックを押して機体を前傾にすると、ペダルを強く踏み込んで急行した。


 ハンドガードを操作してアサルトライフルを選択。ステイックに振動がきて装備完了を知る。


「奴らは上からに弱い。ECMの共食いが効いてるうちに指揮機を潰すぞ。データを3機歩に送信。鑽孔さんこうで吐き出せば誰かが気付く」


[了解。3機歩へRTTY送信開始。D回線で10機歩オープン1番が使用中ですが傍受しますか?]


「状況は?」


[中部海岸線及び洋上にて11(ヒトヒト)から18(ヒトハチ)の全機がロボット型6体と交戦中。現在までの撃破数9。指揮00(マルマル)は11浦田大尉。また、強襲型5体の上陸が確認され3中隊20(ニーマル)を除く3機が急行。指揮01(マルヒト)19(ヒトキュー)野村大尉。後方予備に端大尉を配置、番外30(サンマル)を付与]


「なら問題無い。佐々木にも伝わる手筈になっている」


 海堂は照準リストから2体の獅子型を選択すると、スティックのトリガーガードを起こして、長めに2回、引いた。


 撃ち出された弾丸は2発ずつ2回。DAによる照準補正を受けて、高速移動する獅子型の頭部を正確に破壊した。

 残りの全てが散開。ロボット型は地を蹴って飛び上がってきた。

 こちらは強襲型と違って空中戦が出来る。装備はライフルだ。


 海堂は建造物を射線に入れさせないよう回り込み、ロボット型に急接近する。

 ステイックとペダルを細かく操作して高度を上げ、フェイントを入れながら左、右とずれ、高度を下げる。

 更に右。斜めに上昇、真下、上、左と目まぐるしくズレて接近。

 同時にアサルトライフルを格納し、ハンドガードの付いた、鉈を模した高周波ブレードを右手に出した。


 ドンドンドンと絶え間無く撃ち出される弾丸が、海堂の機動に翻弄されて通り過ぎる。


[危険です]


「そういう職場だ」


 右腕を真横に伸ばしてロボット型の間に割り込む。


 スライディングの様に倒れての急制動は、見えない壁に着地したと錯覚する程だ。


 鉈がカチ上げられて右側のロボットを襲い右腕を切断。海堂は宙に倒れたまま右上に踏み込み(・・・・・・・)、再び腕を伸ばす勢いで頭部を粉砕、下に向かって(・・・・・・)飛び跳ねる。

 直後、ドンドンドンと連射された弾丸が、海堂のいた空間から上へと流れた。


 海堂を追って下を警戒したロボットが見たのは、左手のみで照準を合わせた、アサルトライフルの発砲炎だった。


 落下するロボットに目もくれず、逆さのまま豹型の頭部を狙って素早く8発、撃つ撃つ撃つ。


 8体のうち仕留めたのは1体のみ。頭部に被弾しつつも浅かったのは左右に避けた2体。5体は後ろに飛んで完全に回避された。

 警戒されていれば、対強襲型の戦果はこんなものだ。奴らは発砲炎を感知して避ける。


[あの反応は卑怯ですよ]


 射撃補正をしている立場だからなのか、杏樹が不満を漏らした。


「俺らは常に3対1だがな」


[それは、ええ。ですね]


 海堂の言葉は、DAの機体、中身、自分という意味である。だから強くて当然なのだと。戦争で兵器の性能差を卑怯と言っていいのなら、それは自分達の方だと。


 杏樹は否定できず、不満を引っ込めるしかなかった。


 地表が近付き、海堂は機体の上下を戻して飛翔状態のまま着地すると、地を蹴って超低空飛行で豹型を追った。





――00と05を喪失。対DA機は共に大破。09は撤退する――


――08はドローン射出すザザッ


――08大破。02はドローンの使用を推奨しない。敵は射出の隙を狙っていると予測――


――01会敵。前方にDA8機――


――03会敵。左方にDA3機――


――退路は無い。04は迎撃する――


――06ザザッ


――ザザッ





 海堂は豹型の足下を撃ちながら追い続けて、単調な直進を続ける1体がドローン射出口を開けた瞬間に、その頭部を撃ち抜いた。


 複雑な挙動で振り切ろうとする豹型を、たとえ弾が当たらなくとも、方向はきっちり誘導していた。


 早々に1体が突然右に方向転換したため、あれは逃げたなと判断。逃亡を選択した豹型は驚異ではない。どこまでも食らいついて、ただぶん殴ればいい。だから放置した。3機歩の経験値になって貰うのだ。


 1体が振り向きざまに立ち止まった。


 追い付いた海堂も地に足を着けて止まる。


「ほう。個体差は有るようだな」


 豹型が四肢を広げて立ち、身構える。


 海堂は鉈を出して真上に放り上げ


ドン!


 た瞬間に豹型を撃ち抜いた。


 豹型は僅かに上を向いたまま機能を停止して、ゆっくりと横に倒れる。


[この至近距離なら避けられない筈では?]


「偶然は確信をあざむいて側に居るんだよ。あいつらは油断が好物だ」


 ズズン、と地響きがしたのと、海堂が鉈をキャッチして上昇したのは同時であった。

 建造物下の空洞で戦闘が起きていた。DAは味方が有効射程の射線上に居ると撃てない。


「飛行型はどうなった?」


[逃げられました。最初の襲撃が専用出入口だった様です]


 やはりか。


 もっとも、それがあったから海堂の頭が戦闘モードに切り替わるのも早かった。

 もし赤灯の明滅を見ていなかったら車の故障だけを疑ってしまい、杏樹を呼び出す選択は思い浮かばなかったかもしれない。

 海堂は、つくづく運が良かったなと内心でホッとする。


「そういう事なら仕方無い。問題になったら証言くらいしてやるとしよう。ところで、うちの連中は?」


 こっちは3機歩が出てきたから、もう心配は要らない。となると気になるのは10機歩だ。彼らは今も戦闘中だろう。


[1、2中隊はロボット型15体を撃破。輸送中隊による素材回収率は90%以上。2中が輸送の護衛に付き、1中が下の応援に急行。なお観測の重装甲指揮重力車1両が中破。最前線でECCMを敢行して狙われた模様。強襲型対応中の観測と3中は指揮個体の発見に至らず。抜かれる公算大]


 妙だな。戦果を聞いて海堂は思った。


 AI群の攻勢には1ヶ月から2ヶ月攻撃して半年休む、という周期がある。様々な機関が理由を暴こうと試みたのだが明確な正解に辿り着いた者は居ない。


 可能性の1つとして必ず挙げられるのは、生産能力の低さである。技術は問題なくとも、複雑過ぎて短期間での量産が出来ず、出した機体のほとんどが帰らない。となれば在庫切れが周期の区切りとなるのは必然であり、元々継戦能力が極端に低いのではないかと言われている。


 それが、今回は在庫を使いきるかの様に、惜し気もなく出している。

 周期が来る前兆と言えなくもないが、別の意図が隠れている気がしてならない。例えば、特定のDAを狙うための罠とか。


「……佐々木は繋がるか?」


[パーソナル信号確認。繋ぎます]


――海堂か。こちらも呼ぼうと思っていた。ロボット6体、強襲5体、F地区への接近が予想されるが何かね?――


 いきなりか。海堂は状況を忘れて苦笑した。この男は、佐々木は人目の無い所ではいつもこうだ。そして、海堂はそれに救われている。


 だが、今回は。


「2点聞きたい。まず1点。野村の隊は抜かれそうか?」


――抜かれる。野村クラスがもう1機居れば話は変わるが、端では役不足だ。時間の問題もある。1中は間に合わない。あの辺りには民間の協力者もいない――


 民間の協力者とは、軍に所属しないDA乗りの事だ。中部地区では5人が確認されている。


 やはり、狙われたか。


 どうにもならない事態に、海堂は胸を締め付けられる。


「了解だ。もう1点。囮になって貰う事になるが残弾数は?」


 建前だ。わかっている。海堂が言いたいのはそんな言葉ではない。お前が狙われている可能性があるのだと伝えたい。


――愚かな。我々は軍人だ――


 だが、それを察したのか、佐々木が突っぱねた。


――今貴様が言うべきは、国民を頼む、ただそれだけだ。それが我々の任務なのだ。私情で逃亡を促すなど論外と、今一度胸に刻みたまえ――


「ちっ、バレるか。だがな、お前は優秀なDA乗りの前に、俺の友人だ。死んで欲しくないと思う事も許さんなどナンセンスだ」


 と、そこで杏樹が割り込む。


[佐々木さん。うちの海堂がお子ちゃまなのは申し訳無い限りですが、あなたも大概意地悪ですよ? これ以上は海堂が可哀想なので切ります。そちらでハルカの説教でも喰らいやがれです]


 ぷつ。


「杏樹、勝手な真似を――」


[言ったでしょう? 佐々木さんも大概意地悪だと。あの人、負ける気なんてサラサラ無いですよ。ハルカの近くにいる機体のパーソナル信号を拾ったので投影します]


 ポン、という効果音と共に3行だけのテキストが表示された。


「ん? なんだよ、イーアと合流でき………………おい。このマリアってのは」


 海堂の目が見開かれた。


 驚きと、期待で。


 これが本当なら、負けは無い。


 そして、杏樹がもたらした情報は、海堂の期待を裏切らなかった。


[ええ、間違いありません。その強さ故にAI群が唯一全力で潰しに来た、敵側のコードネーム【鉄塊】ことマリア。これは、宮代機ですよ]


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