表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒野の百姓  作者: じゅんくん
9/10

THE RICE THE BREAD AND THE UGLY

 大理石のテーブルにろうそくの灯火。この洋室から華やかさは消えていた。

 沼田は拳を握って机を叩きつけた。大理石にひびが入る。


「おい! 外はどうなってる!」


 隣にいる部下がうつむきながら答える。


「今、3人と交戦中です……」


「まだ倒せんのか?」


 部下はぶるぶると震える。


「お待ちください。ファーマー」


「まだ倒せんのか?」


「…………」


「まだ倒せんのか!」


 沼田は鬼の形相で怒鳴った。怒鳴り声でろうそくの火が消える。この部屋は日光のみでかろうじて明るさを保っている。

 部下は恐怖で言葉も出ない。


「ひっ……ひぃ……」


「奴らは手負いだろ?」


「はっはい……」


「いつ倒せる?」


「し、しばしお待ちを……」


「はぁ…………」


 沼田は大きく溜息をついた。


「御託はいい」


「とにかく…………」


「殺せ! 殺せ! 殺せええぇぇぇぇ!」


「ひぃーーーーー!」


 部下は声を上げながら外に飛び出した。沼田は足をばたつかせる。イライラするのも当然だ。彼は自分が従える最強の米農家達を失い、挙げ句の果てにはトラクターまで破壊された。


 ドガ! ドガ! ドガァーーン!


 荒々しい銃声がはっきりと聞こえた。


「銃声がこんなに近く……」


 沼田の怒りは最高頂に達した。テーブルの上に散らかった皿やグラスをなぎはらって床に落とす。すぐに怒鳴り声を上げた。




 3人は沼田家のすぐ近くにいた。今までにない銃撃戦だ。豪邸から米農家達が溢れ出てくる。3人は、時には散らばり、時には連携することで米農家達を撹乱(かくらん)し、倒していった。


「こいつらどんどん増えてくるぞ!」


 米俵を遮蔽物にして撃ち合いながら、ダーティーパッチは叫んだ。

 街角からブレッドガイが飛び出した。デザートイーグルの破壊力を前に、米農家達は情け無く転がり回るしかない。ブレッドガイは連射を続ける。パン屋の彼にとって、デザートイーグルの反動など大したことではない。

 ダーティーパッチも必死に援護する。リボルバーにも関わらず、彼は遠くの敵も確実に撃ち抜いた。窓からライフルを構える米農家までも倒した。かつて彼に右目があった頃、地球の裏側まで狙えたという話は、ひょっとすると本当かもしれない。

 米農家達を一掃し、ブレッドガイは呟いた。


「こんなものを戦いとは呼ばない。単なる農作業だ」


「どこかで聞いた台詞だな」


 後ろからゆったりと歩きながらやって来たのは名無しだ。彼は呑気に煙草を吸う。ブレッドガイが問う。


「後ろの様子はどうだった?」


「あんたらと同じさ。単なる農作業だ」


 相変わらず名無しは淡々と答える。ダーティパッチは首をかしげる。


「かなりの数に囲まれてたはずだ。後ろの奴ら、みんな倒しちまったのか?」


 名無しは煙を吐く。


「言ったろ? ただの農作業だ」


 名無しの左手には包帯がぐるぐると巻かれている。それにも関わらず、彼の早撃ちは健在だ。2人が背後から撃たれなかったのは、その早撃ちのおかげだ。


「さぁて。沼田家当主、沼田隼輔様に挨拶といくか」


 名無しは2、3歩進んで立ち止まる。ゆっくりとリボルバーを構える。狙いを合わせて引き金を引く。


 バギャイーーーン!


 カーンと鐘が鳴り響く。鐘の音は沼田の脳内に、嫌と言う程3人の来訪を叩きつける。

 部下が部屋に入ってきて、沼田に耳打ちする。


「ファーマー。裏口からお逃げください」


 沼田は首を横に振る。


「いや、ここで決着(ケリ)を着ける」


「最後の切り札、俺のライフルがまだ残っている」


 沼田はまだ自信ありげだった。部下が使えないのなら、自分で殺ればいい。簡単なことだ。


 名無しはゲート前で沼田を呼ぶ。


「沼田! 姿を見せろ! 決着を着けよう!」


 辺りは異様に静かだ。沼田から反応はない。

 名無しは煙草を捨てる。真剣な表情で大きく息を吸った。


「いいかよく聞け……俺の名を教えてやる」


 ブレッドガイとダーティーパッチは名無しを注視する。沼田も注意深く耳を立てた。名無しはその名を名乗り始める。


「俺の名は神米誠(かみごめまこと)!」


 その名を聞いてブレッドガイとダーティパッチはビクッとする。沼田は震え始めた。名無しは続けた。


「この名に聞き覚えがあるだろ? お前ら沼田家が皆殺しにした神米家の三男だ。姉の仇を取りに、この地に来た! 沼田隼輔! 決着をつけよう!」


 沼田の震えは激しくなる。神米家……トラウマが蘇る。全部殺したはずなのに。嫌な思い出が蘇る。思い出したくない奴が脳裏に迫ってくる。


 次にブレッドガイが話し出した。


「俺の名はブレッドガイでも、ましてやライスキラーでもない……俺の名は神米清龍(かみごめせいりゅう)! 妹の仇を取りにやって来た!」


 その名を聞いて名無しはブレッドガイの方を向く。彼は名無しの顔を見つめる。


「パン屋の養子になって、米農家であることを隠してきた。まさかお前が……弟だったとはな」


 名無しは言葉が出なかった。一方、沼田は頭を抱える。思い出したくない記憶が、脳内を駆け巡る。


 最後に、ダーティーパッチが豪邸に向かって沼田を呼ぶ。名無しとブレッドガイはお前もかと驚く。


「沼田! 聞こえてんだろ! 

俺は神米家の長男、神米飯勝(かみごめめしかつ)! この時のために俺はこの村で待っていた。お前に復讐する時を待っていた……」


「長かったぜ」


 名無しは思わずため息をつく。


「まさか、あんたら2人が俺の兄さんだとはな」


 ブレッドガイは頷く。


「幼い頃だから忘れていたが、確かに面影はある。よく生きていたな。兄弟」


 ダーティーパッチは大笑いする。


「ハーハッハ! なにはともあれ、俺達3兄弟は揃って復讐しに来たってわけだ」


 ブレッドガイは2人の顔を見て、


「最初から……俺達は共に闘う運命だったんだな」


 名無しは沼田家のゲートを蹴破る。


「そうみたいだな」


 3人は揃って沼田家の敷地に入った。

 沼田隼輔は部下に告げた。


「最後の命令だ……時間を稼げ」


 そう言ってドアを開け、


「俺には行く所がある」


 そのまま裏口に向かって行った。先程とは異なる言動に部下達は困惑しつつも、3人を迎え撃つため武器を持つ。


 3人はドアを蹴破って豪邸の中に入る。ショットガンを持った米農家が待ち構えていたが、話にならない。一瞬で片付ける。

 3人は散らばって豪邸を探索する。米農家を撃ち殺し、華やかな部屋を血に染める。


「沼田! どこだ? 俺達を殺したいんだろ?」


 ブレッドガイは舌打ちする。


「チッ……奴め。逃げたのかもしれん」


 名無しは否定した。


「奴は逃げない」


「なぜ分かる?」


「奴には行く所がある」


 名無しは外に出た。2人も後に続く。


「どこに行くつもりだ!」


 名無しはゆっくりと空を見上げて答える。


「姉さんのとこさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ