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荒野の百姓  作者: じゅんくん
7/10

Chapter7 百姓大作戦

 もうとっくに7時を過ぎるのに村人は誰も朝食をとらない。爆発音、銃声、断末魔、こんなものを聞いていたら飯がまずくなるからだ。

 ダーティーパッチはリボルバーを二丁構えながら高笑いした。


「二丁拳銃! やってみたかったのさ! カッくいいだろ!」


 容赦なく連射に連射を重ねる。黒の米農家達は勢いよく倒れ、もがき苦しむ。

 ブレッドガイがダーティーパッチに手を振って叫ぶ。


「パッチマン! 弾をよこしてくれ!」


「ほらよ!」


 ダーティーパッチは弾を投げる。ブレッドガイが弾を受け取ろうとした瞬間、黒の米農家が背後まで詰めてきた。弾のない敵を狙うのは常識だ。


「死ねぇーー!」


 ブレッドガイは笑った。


「新米だな」


 ブレッドガイはそう言って、紳士服の胸から何かを取り出し、素早く投げた。


「うっ……うぐぐぐ」


 黒の米農家は血塗れの首を抑えながら倒れた。首に突き刺さっているのは投げナイフだ!


「おーおっかねぇ」


 ダーティーパッチは首をさすってそう言った。


「後ろだ!」


 ブレッドガイの声を聞いてダーティーパッチは振り返って引き金を引いた。間一髪助かったが、すぐそこまで敵が来ていた。奴らも当然屋根に上ってくる。油断はできない。

 

 その頃、名無しの残弾数も残りわずかになった。ダーティーパッチに頼めば弾をもらえるが、なぜか抵抗感があった。

 敵が迫って来た。当然早撃ちで蹴散らす。しかし、弾が尽きてしまった。名無しは焦りを感じた。

 その時、目前に弾の入った箱が落ちてきた。名無しは振り返る。

 そこには、親指を立ててグッドサインをとるダーティーパッチの姿があった。名無しは無言で弾を拾った。


「どうやら俺は、まだ子供のままだったらしい」


 一刻を争うというのに、名無しは助けを乞わなかった。貸しを作りたくないという子供じみた理由で。そんな自分を見つめ直したのか、名無しは小声でそう言った。





 激しい銃撃戦は続いた。肥料ばかりが増えていく。

 そんな銃撃戦に転機が訪れた。

 銃声や断末魔をかき消すほどのおぞましい轟音が聞こえてきた。名無しとブレッドガイは困惑した。


「なんの音だ?」

「怪獣でも来たのか?」


 一方、ダーティーパッチは震えていた。


「まさか……村だぞ……ここで……動かすのか……」


「パッチマン! なんの音だ?」


 ブレッドガイが問うも、ダーティーパッチは震えたままだ。


「おいパッチマン! しっかりしろ!」


「あっ! あぁ……」


 ダーティーパッチは正気を取り戻した。


「この音は……農業トラクターだ。対人用の……」


「にわかには信じがたい。農業トラクターなんていくらでもある」


 ダーティーパッチは首を横に振った。


「違う。違う。あれは別だ! もうじき姿を現すはずだ。よく見ていてくれ」


 気付けば、黒の米農家達の姿は見当たらなくなっていた。大勢いたのに、みんなどこへ行ってしまったのだろうか。

 轟音がどんどん近づいてくる。東から奴の姿が見えた。まるで太陽に引っ張られてきたかのようだ。


「あ、あれが……トラクターだって言いたいのか」


 ブレッドガイはトラクターのあまりの大きさに仰天する。


「高さ20メートル、長さ30メートル、幅は18メートル、ざっとこんなとこだ。重さは200トン以上あると聞いたぜ」


 ダーティーパッチの話を聞きながら、名無しは煙草を吸い始めた。話が終わると煙を吐き、呟いた。


「もっとでかい田んぼが必要だ」


 村には家々が並ぶ。もちろん人も住んでいる。それでも農業トラクターはお構いなしだ。家屋を潰してでも敵を耕すのが奴流の農業だ。

 もちろん村人は一斉に家を飛び出し、あれよあれよと逃げていく。ダーティーパッチとブレッドガイは動揺し、あちこちを見渡す。名無しは全く動じず手を上げた。2人の目が名無しの手に止まる。


「パッチ、ダイナマイトは後何本だ?」


 ダーティーパッチは屋根に残った武器を漁る。


「後3本だ。まさか、こいつであの怪物を倒そうって言い出すんじゃねえよな?」


「1人1本だな」


 どうやら名無しは本気のようだ。ダーティーパッチは大きなため息をついて、


「はぁーー」


「とんでもねえ馬鹿がいたもんだ。なあ、ブレッドガイさんよぉ」


 ブレッドガイは顎に手をあてて考え始めた。呑気に煙草を吸う名無しに問いかける。


「何か作戦はあるのか?」


 名無しは黙って頷いた。


 ダーティーパッチは呆れ果てる。


「お前ら正気か?」


 ブレッドガイは答える。


「臆病者は来なくてもいい! 足を引っ張るだけだ」


 ダーティーパッチはムキになった。


「臆病者? 臆病者だと? この俺に臆病者と言いやがったな! 見とけよパン屋。俺はやるぜ。あんなのすぐにスクラップにしてやる!」


 ブレッドガイは笑う。


「そうだ! それでこそ眼帯男(パッチマン)だ!」





 トラクターは進み続ける。

 電柱が倒れて火花を散らし、次々と家が巨大なタイヤに潰され、跡形もなく崩れていく。

 3人はトラクターの死角になるよう狭い路地を進む。


「気を付けろよ。トラクターには5台の機関銃、後ろには対空用ミサイルが2本設置されている。おまけに、正面のヘッドライトは偽物だ。正体は主砲。榴弾を撃ってくるぞ」


「完全武装だな」


「それにしても、よくこんな情報を集めたな」


「なあに、伊達に長くここの住民をやってるわけじゃない」


 3人は路地からゆっくりと顔を出した。巨大なトラクターがすぐそこにいた。名無しが2人に告げる。


「作戦開始だ。沼田に一泡吹かせてやろう」


 2人は頷いた。ブレッドガイはデザートイーグルを取り出した。


「行ってくる」


 そう言ってブレッドガイは飛び出した。

 走りながらデザートイーグルを構え、照準をトラクターのタイヤに合わせる。


「頼んだぞ。相棒!」


 ブレッドガイは引き金を引いた。デザートイーグルの弾がタイヤに命中する。しかし、タイヤには傷一つつかない。


「クソっ……」


 ブレッドガイは連射するが、全く効果がない。

 次は向こうの番だ。機関銃がブレッドガイを襲う。ブレッドガイは急いで八百屋に飛び込んだ。攻撃は止まず、野菜や果物が飛び散る。

 

 名無しとダーティーパッチはトラクターの後ろに回り込んだ。名無しは左、ダーティーパッチは右に走ってトラクターの側面を狙う。

 機関銃に気付かれる前に2人はダイナマイトを投げ込んだ。ダイナマイトは本体とミサイルの間に綺麗に挟まり、ドカァン! と爆発した。もちろんミサイルにも引火し、再び爆発した。衝撃波が2人を襲う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 辺り一面に砂が舞い上がる。2人はゴロゴロと転がった。うつ伏せになりながら、顔を見上げる。そこには黒煙を上げるトラクターがいた。後輪は破れ、もう動くことはできないだろう。


「やった! やったぞぉーー! ざまあまろ!」


 ダーティーパッチは起き上がると万歳して叫んだ。名無しは無言で顔についた砂を払い、八百屋の方を向く。囮になったブレッドガイがいるはずだ。彼が機関銃の弾を浴びていないか心配だ。

 と思ったのも束の間。


 バゴォン! と荒々しい発砲音。八百屋が木っ端微塵に吹き飛んだ。 榴弾だ! 崩れた八百屋から火の手が上がり、周辺の建物に燃え移っていく。


「ブレッドガイ!」


 名無しは思わず叫ぶ。しかし、他人の心配ばかりしてはいられない。機関銃はまだ動くのだ。


「ギャアアアア!」


 激しい銃声が響き、男が叫び声を上げる。ダーティーパッチが撃たれたのだ! 彼は血を噴き上げながら倒れた。


「パッチ!」


 名無しはトラクターを睨む。機関銃は名無しを狙っていた。絶体絶命とはまさにこのこと。

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