勇者発狂、魔王は一驚
魔王城に乗り込んで(落とされて)からそこそこ時間が経ち、勇者はようやく魔王がいそうな部屋の前にたどり着いた。扉は禍々しい、というよりもなんだか上品でセンスの良い仕上がりだ。勇者はそれになんとなくイラッとして扉を蹴って開けた。もちろんヤクザキックだ。その様子は街のゴロツキと大差無いように見える。勇者としてどうかと思うかもしれないが魔王に対する怒りを少しでも発散するためである。仕方ないこと、そう仕方ないのだ。
ともかく、扉を開けるとそこには無駄に広い空間が存在していて、奥には玉座に座った魔王がいた。
勇者は魔王の目の前に歩いていく。
「フハハハハ!良くここまでこれたな勇者!」
怒りが溜まっていた勇者は機嫌よさそうにしていて本当に油断している魔王に、怒りの力で砲弾もかくやという勢いで斬りかかった。
「ウガアァァァァッ!」
魔王は避けようとしたが浅く斬られた。
「これは残像だ!と言いたいところだったが普通に痛いのだが…(マジギレしてるんだが…やり過ぎたか?)」
邪神もちびりそうな勇者というにはあまりにも恐ろしい顔で勇者は斬りかかっていく。
「うぉっ⁉︎おい勇者、その顔は勇者がしてはいけない顔だぞ⁉︎」
返事がない。ただのバーサーカーのようだ。
バーサーカーと化した勇者は今までダメな感じは無くなり、歴代最弱であったのが嘘かのような動きとパワーで攻撃していた。
魔王も流石に軽くあしらえなくなったので、
本気を出して少しずつ勇者にダメージを与えていった。
勇者が気絶したのはそれから五分後だった。
気絶した勇者を見ながら魔王は思った。煽るのもほどほどが一番だな、と。
・・・・・・・・・
勇者が目を覚ますとそこは教会だった。
もう夕方で日が沈みそうだ
勇者は思った。あれ?なんで俺はここにいるんだ?、と。
勇者は強烈なストレスとバーサーカー化によってこの日の記憶が綺麗さっぱり消えていた。それがいいことなのかはわからないが
黒歴史&トラウマは消えたので良かったかもしれない。あえていうならば、同じような手にまた引っかかるかもしれないということだ。
今日の事を何もかも忘れた勇者はのうてんk
もとい元気に教会を出ていった。
勇者の家は結構な豪邸である。勇者にはもったいないほどだが、メイドはおらずたくさんの執事がいるだけである。勇者もメイドが欲しいが、実は勇者の視線がちょっとキモいので誰もメイドにならないというのが実情だった。つまり自分が悪いのだが、勇者は今日もメイドがいないことを嘆いていた。
なんだか魔王をボコボコにしたい気分の勇者は魔王を倒すべく、なんか勿体無いと思って出すのを渋っていた装備を出した。それはオリハルコンでできている、いわゆる聖剣や聖鎧と呼ばれる装備だ。魔王特攻で、絶対に魔王56すという怨念が滲み出ていそうだ。
勇者は今日のことを覚えていなくとも恨みは溜まっているようだ。
勇者はそれらを装備した状態でダンジョンで自分を鍛えることにした。
次の日、勇者が訪れたのは近場で最も大きく有名なダンジョンで、誰も最奥には辿り着いていないらしい。しかし最初はとても簡単で、罠も魔物も少なく、どちらも片手で簡単にあしらえる程らしい。勇者は意を決してダンジョンに入っていった。
少し歩くといきなり魔物が襲いかかってきた!
魔物Aの不意打ち!
勇者はモロにくらった。
勇者は慣れない重い鎧でバランスを崩し、コケた。
そこにはわかりやすいというか全く色彩的に周りに同化できていない落とし穴があった。
「また落とし穴かよぉぉぉぉぉぉ!(ん?また?)」
『また』と自分で言ったことに釈然としない気分で勇者は落とし穴に落ちていった。
勇者はとても長い間落ちているように感じたのち、何か柔らかいものの上に落ちた。
勇者が落ちた先はスライムの上だった。
スライムは勇者が落ちた衝撃で半分ほどの大きさになってしまった。解せぬ。というように震えている。
勇者はとりあえず周りを見回す。
「ヒィッ⁉︎」
そこには人骨がいくつか落ちていた。それらはドジな冒険者が落とし穴に落ちた末路だった。勇者が鎧を着ていたのに助かったのはスライムのおかげで勇者の悪運が強かっただけである。もしスライムがいなかったら勇者に受け継がれるオリハルコン装備は永遠にここに放置されたままだっただろう。
勇者は人骨と怒って高速でへんな動きをするスライムにビビり、そそくさとその部屋から退散した。
そこは長い通路のようなところだった。勇者は慎重に進む。
(ガンッッ)「ぶへっ(ガシャッ)」
いきなり兜をつけた後頭部に衝撃!
顔面から床に突っ込んだ後、後ろを振り返った。そこには重そうな斧がぶら下がっていた。
顔を青くしながら勇者は進んでいく。否、進むしかないのでカタツムリのように進んでいった。
(カチリ)
(ジュワー)
「のわっ!」
(カチッ)
(ブンッ)
(ゴスッ)
「へひゃぁぁぁぁ(ゴロゴロガンッ)」
(カチリ)
(ガガガガガガ「イテエnガンッ)
このダンジョンは悪意に満ち溢れていた。
数歩ごとに罠が作動しては勇者を狩らんと酸や鉄球や大きな矢が飛び出してきた。
省略されているが他にも槍が大量に出てきたり、天井が落ちてきたりしていた。装備のおかげで体に届くことはなかったようだ。
しかし鎧を着ていても鉄球などは衝撃が体に伝わってくるだろうが、丈夫なことだけが取り柄の勇者はさほどダメージを負っていなかった。
これだけ罠にかかっているのは勇者の運の悪さもあるだろう。なにせ設置されている罠全部にかかっているのだから。本来なら全部にはかからず三割ほどの罠にかかるよう設置されているのに逆になぜこうもかかるのか?もはやコレクションしてるかのようだ。
通路の奥にはドアがあった。親切にもドアノブがつけられている。勇者は重そうなドアのひねるタイプのドアノブをひねりながら力強く押した。
しかしドアは開かなかった。
もっと力を入れて押す。
びくともしない。
勇者はドアを蹴っ飛ばした。
指が痛くなっただけだった。
しかしここで勇者は思いついた。押してダメなら引いてみればいいと。
勇者はドアを引こうとした。
しかし開かない。
ヤケになってめちゃくちゃにドアノブを引っ張っているとノブが外れた衝撃でドアは横にスライドした。ドアの下には横にスライドするためのレールがあった。
(………)
「やっぱりそうだったか。」と言わんばかりの顔(若干ヒクついている)をして勇者はドアの向こうへ歩き出した。
が、何か見えない糸のようなものに引っかかったと思うと矢じりから何かを滴らせた矢が多方向から大量に飛んできて、さらに正面から酸が飛び出てきた。酸は避けたが矢はほとんど命中した勇者は鎧や兜を全体的に揺すられてフラフラしながら歩いて行った。
ドアの向こうの広めの通路を少し歩くと、
おそらく最奥の部屋であろう大きな空間が広がっていた。中央には大きな石碑があり、宝玉的なものが埋め込まれていた。
高く売れそうだと瞬時に脳内で計算した勇者はそれを引っこ抜こうとそれに触れた。
するとなんと、宝玉的な何かから立体映像が飛び出てきた。立体映像の男はあろうことか魔王になんとなく似ていた。ちょっとイラッとした。そして音声まで流れ出してきた。何か言っているが、勇者は立体映像と音声を出せるからには思ったよりかなり高値で売れそうだしどこで売ろうかと考えていて全く聞いていない。
「〜〜我は〜代目〜魔王である!」
勇者は耳に入ってきた言葉に本能的に反応した。マオウ?まおう、マ王、魔王…魔王⁉︎
やっと先代魔王であることに気づいた勇者。
先代の方が罠の殺傷力的に苛烈なようだ。
音声はまだ続いている。
「ここまでたどり着いたのは評価しよう。しかしだな、ここにいるということは上のわかりやすい落とし穴にひっかっかったということだw間抜けにも程があるぞwハハハハハハハハ!」
どうやらウザさは遺伝するものらしい、と勇者は一つ賢くなった。
魔王はロクでもない一族だと呆れてもいるようだ。
「ちなみにこの魔道水晶が高く売れると思っているだろう。確かに売れれば高値がつくだろう。しかぁし!この映像が映された時点で映像が終わった瞬間に灰になる魔法も発動させたのだ!残念だったなぁ!」
勇者は剣で水晶をかち割った。しかし再生した。
立体映像を無視して部屋の奥の出口と書かれた扉を開け、小部屋に入った途端、ゴミを掃除機で吸うように地上に飛ばされた。
勇者は帰ったが、もう外は日が傾いていて、無駄に疲れただけで1日を終えることとなった。
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