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名前を忘れられた女神  作者: いなり寿司
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仮面をつけた不審者

現状僕は、何が起こっているのか理解しかねていた。

黒板の前で眉を寄せる先生と各椅子で笑うクラスメイト。なぜみんなが笑っているのか、また困っているのかは理由ははっきりしている。

なら何に対して理解しかねているのか。

それは、僕以上に目立っている存在を誰も注目していないことにあった。

「寝てて笑われてる〜ププっ。この男、間抜けだな。」

目の前には白が5、赤が5の割合の巫女装束を着て仮面をつけている年下くらいの子がバカにするような笑い方で腕一本分の距離に立っていた。

…こいう誰だ?…


      ★☆★☆★☆★☆★☆★


事の始まりの15分前。

場所は学校の教室。季節は春。時刻は13:30分。

弁当によって胃の中は苦しくない程度に満たされ、春の心地よい風に吹かれていた。これだけの条件が揃えば、寝ないで授業を受けるなんてことは出来るわけがなく、僕は授業開始10分足らずで眠りについていた。


授業中に居眠りなんて、いつぶりだろうか。

ある出来事から医者になるという夢を持ち、授業には真面目に取り組んで、家でも遊ぶ時間を割いて勉強に打ち込んでいる。

だが、今回は生理現象に負けて眠りについてしまった。授業中に寝てしまうなんて失態を侵してしまうことに加えて、あろうことか熟睡しなければ見れない夢まで見てしまっていた。

その夢は、過去一番に楽しかった一時の映像を映し出し、同時にある人物の姿を僕に見せる。

夢の中でその人物の腕を掴もうと手を伸ばしてみるが、あと一歩のところで届かなかった。僕は一歩踏み出して、もう一度手を伸ばすがやっぱり届くことはなかった。もう会えない愛しい人との距離はどんどん離れていき、僕は声に出して叫ぶ。


「待ってよ。待ってくれ……ユリっ!……って!


「なーにが、ユリっ!っだ。いつも真面目に授業受けてるのに今日はダラけてるぞ佐藤。」


何が起きたのか、一瞬理解できなかったが意識がしっかりしてくると自分がさっきまで寝ていたのだということに気づく。


周りは、僕が寝言を言って先生に怒られたのがよっぽど面白かったのかクラスメイト全員が笑っている。


もう一度顔を伏せて、寝たフリをしようかと考えたが先生はジッとコチラを見て監視している。

仕方なく、窓の方に視線を向けて極力他の人と目を合わせないようにする。


少し時間が経つと、クラスメイトの笑い声は次第に聞こえなくなってきていて一人、また一人と笑う人はいなくなってきていた。

僕は、笑い声が聞こえなくなるまで窓の方に視線を向けて時間が過ぎるのを待っていた。


だが、笑い声はいくら待っても消えることはなかった。いつまで笑っている!と、だんだん腹が立ってきて、顔で威嚇してやろうと窓の方から視線を笑い声が聞こえる方向に視線を向ける。


いつまで笑ってやがる。そろそろ笑うのをやめないと僕の拳がお前の顔に火をふく………ぞ………えっ?


その時、僕が目にした光景は驚くものだった。

さっきまで、僕のことを笑っていたクラスメイトは一人残らず、気を引き締めて真面目に授業を受けていた。なら誰が笑っている?その人物は、僕が思っていたほど近くにいた。

「はぁあ、はぁあ、全くこんなに笑ったのは何十年ぶりだろう。」

呼吸を乱し、お腹を両手で押さえて、これでもかと思ってしまうほど笑う目の前の奴は、授業に真面目に取り組むクラスメイトにお構いなしに大声で笑う、仮面を付けた巫女装束の女の子。

その子は、乱れた呼吸をゆっくりと整える。

そして、こう呟くのだった。

「君が想っていた男は面白いよ。」


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