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違う道に進むことになった

 追放物を書いてみました。

 

「あー、ライエル、すまないが」


 その日の討伐の取り分をいつも通り配分した時に、パーティのリーダーであるヴァレンが不意に口を開いた。

 深刻な口調に嫌な予感がするが。


「すまないが……違う方向に進むことになった」


 なんとなく予想された言葉が出てきた。

 実年齢の25歳より上に見える坊主頭に厳めしい顔には申し訳なさそうな表情が浮かんでいる。


「分かってくれるよな」


 それを言わせた当事者であろうパーティのエース格のロイドは素知らぬ顔で今日の報酬の銀貨を数えている。

 違う方向に進むことになった、というのは婉曲な言い方で、要はパーティから出ていけ、ということだ。


「俺はそこまで役に立たなかったか?」

「そういうことじゃない……」


「アンタは時代遅れなんだよ!ライエルさんよぉ」


 ヴァレンの言葉をロイドが遮った。


「魔獣相手の戦闘はよ、もっとガンガン攻めるもんだろうが。防御重視だか何だか知らねぇが、俺たちの後ろの安全な場所でヌクヌクしやがってよ。そんなやつはいらねぇんだよ」


「おい!」

「その剣は飾りかよ!お前みたいな消極的な奴がいるだけで、前で戦う俺の取り分減るのはおかしいだろうが」


「止めろ、ロイド」

「なんだよ、事実だろうが、それとも俺が間違ってんのか?」


 ヴァレンが窘めるように言うが、ロイドがそれに噛みついた。

 ヴァレンが困った顔をして俺の方を見る。

 

 当世の風潮を考えれば火力の高い若き前衛と火力不足の錬成術師じゃ前者が優先度が高いのは仕方ない。

 ……今日の取り分をくれるだけまだマシかもしれないな。


 このパーティに入って1年ほどか。そこそこ働けたと思うが。

 若きエース格ロイドが一本立ちした時点で潮時だってことだろう。


「仕方ないな……短い間だったがありがとう」


「すまない。手続きはこっちでしておく」

「ああ、よろしく」


 すまなそうにするヴァレンとほかのメンバー、イブリースとエレミアに軽く頭を下げてその場を離れた



「気の毒だったな」


 カウンターに一人で座ったら、マスターであるレギンがビールをカウンターにおいてくれた。

 この冒険者のたまり場、風の行方亭のマスターだ。

 もと冒険者。短く刈った黒髪に傷が走る顔、そして鍛え上げた体。酒場のマスターじゃなくて今も現役戦士じゃないかって感じだ


「頼んでない」

「これは店からのおごりだ」


「それはありがとう」


 ビールを一口飲む。いつもより苦い気がするけどたぶん気のせいだろう。

 違う方向に進むことになった、といわれる冒険者は珍しくもない。

 ただ、ありふれていることと当事者にとっての深刻さは別の問題だ。


「時代が悪いよな……気の毒だよ、ライエル」


 レギンがいう


 冒険者になるものは誰しも恩恵(タレントと呼ばれる特殊な能力を持つ。

 正確に言えばその能力を持つ者は冒険者として魔獣と闘うことを求められる、というべきか。


 俺の恩恵(タレントは風系統の錬成術。

 風の属性の魔導具、俺の場合は風の魔剣だが、それを触媒にして風を操る能力だ。


 俺自身は剣術もそれなりに訓練したから近距離での切りあいもできる。

 少し離れても風での斬撃も浴びせられるし風の壁で防御もできる。触媒の力を借りれば、風系統の魔法も使える。


 俺に限らず錬成術は汎用性の高い能力だ。

 かつて錬成術師はパーティの中核だった。柔軟に前衛の剣士を支援し、後衛の魔法使いを守る。


 だが、この30年。

 武器による直接攻撃を主力とする前衛の武器を強化する技術が急激に進んだ結果、いまは火力の高い前衛が敵をさっさと殴り倒す、後衛はそれを支援する、という戦い方が主流となった。


 汎用性が高いと言えば聞こえがいいが。

 前衛に立てば本職の剣士には及ばない。

 魔法を使えば本職の魔法使いには火力や射程で負ける、ともいえる。


 こんな感じで汎用性が高いという言葉が中途半端になってしまった錬成術師は今やパーティに居場所がなくなってしまった。

 中衛不遇の時代だ


「気持ちはわかるよ」


 レギンがしみじみと言った。

 彼はもともとは前衛だった。昔の前衛は敵の矢面に立つ壁役で扱いが悪かった。


 で、冒険者家業から手を引いて冒険者の酒場に転身したわけだが、その後戦術改革や武器の強化技術が急激に進歩して前衛の地位が上がった。

 復帰しようにもすでに店は繁盛店。

 もしもう少し早くあの技術革新がおきれば彼の人生も変わっていただろう


「まあ愚痴ってても仕方ないさ」


 俺が冒険者になってからそこそこ長く経っているが、この傾向に歯止めはかかっていない。

 ここ4年ほどはこんな感じだ。扱いの悪さにはもう慣れてしまった。


 これというのも、冒険者への依頼はパーティ単位であるという仕組みが悪い。

 報酬が頭割りだから、余計なメンバーははじき出される。


「まあなんとかなるだろ」

「お前なら大丈夫だと思うがな」


 レギンが言う。

 これでも俺は公認ランクはA3。上位層と言っていい。


 世を拗ねても仕方ない。

 レギンは何も言わないが、ここの宿代もただじゃないし、俺には金が必要だ。

 早く次のパーティに入って稼がないと宿無しになってしまう。



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
― 新着の感想 ―
[良い点] 錬成術師いいね
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