追われるもの
マジックスパルタンレースの会場に着いた頃には、ルシファーとパイモンはなに食わぬ顔で、受付にいた。
「思ってたより遅い到着だったのはわかるのだ!しかしレースはゴールすればいいと言っていたのだ!」
ルシファーが受付嬢と揉めている。
「もちろん、そうなのですか⋯⋯アローラ様にレース参加者は留まって頂くよう指示が有りまして⋯⋯」
「アローラ⋯⋯?ああ。さっきの叫んでいた兵隊達の一人か。ルシファー様に楯突いていた虫程度の分際で我々の行動を制限しようとは頭にのっているな」
パイモンがしっかり名前をチェックしているのは何かに、使えないか考えているところだった。数分前に気を失う前に最後の力を振り絞りアローラは上空に緊急支援弾を打ち上げており、助けをカシアスに求めていた。
直ぐ様朱莉がそれに気付き、レオナに魔法陣を使ってもらい、似たような幻影を三回上空に照らす事で内容の混乱をさせる作戦をとっていた。
「カシアス子爵さま⋯⋯すいません」
上空に立ち上がった緊急支援弾であったが、幻影を見たアローラは悔しげにそして動けなくなった。
「おい!ルシファー、パイモンお前たちは何かしでかさないといけない性分なのか?」
夏樹がバティンとともにパイモンとルシファーと合流する。
「妨害用の道を作っただけなのだ。街の景色に色を加えたけどいい感じに仕上がってると思ったのだ」
「これをいい感じって⋯⋯」
パイモンも出来映えに納得しているようだが、聳え立つ絶壁に戸惑いを隠せない。
「夏樹~!」「師匠~!」
朱莉とシェールが走ってこちらにやってくる。
「ここらへんは大方救助活動は終わりましたよ!レオナさんとラバルさんアバリムさんはベリルに乗って別の所で救助してます」
「で?カシアス親衛隊はどうするのかしら?このまま大人しくしてくれるとは思えないけど⋯⋯緊急支援弾が打ち上げられたから早くしないと本隊がくるわよ」
「とりあえず冒険者ギルドに相談かな⋯⋯ルシファーには他の親衛隊の足止め用の作戦をお願いしようかな」
「そういうことなら任せるのだ。《ミラージュコーティング》」
ルシファーに合図して闇魔法で幻影を作り出す。幻影のもとは大木を削って人型にしたものだ。
それを受付から見える位置に置いて時空魔法で一瞬で移動する。
受付がそれを親衛隊に伝え、幻影を捕らえて帰ってもらう作戦だ。
◇◆◇◆◇◆
~冒険者ギルド~
ギルドマスターが内容を聞いてしばらく静かに考える。
「ふむ⋯⋯地形が変わってしまった件で?貴族が動いたか⋯⋯とりあえずこの件は俺が預かるからよ。しかし、しばらくはベルサイズでの活動は控えた方がいいかもしれんな。連絡を送るようにするからそれまで少し時間がほしい。ひとまずお前らの身柄の安全は冒険者ギルドで圧力をかけるようにするさ」
「屋敷はどうする?もう屋敷のまわりに兵隊がいるぞ。蹴散らすか?」
アバリムが交戦的な発言をする。
「いや迎撃システムがあるから、乱暴に中に入ったりすると装置が働いて排除するから屋敷内は問題ないんだけど、相手が貴族だから攻撃すると面倒なんだよ⋯⋯」
「じゃあ屋敷のまわりにいる兵隊は、私が対応しようかしら。行ってくるわね」
椅子に座っていた朱莉が立ち上がるとスーっといなくなった。
待つこと数分後⋯⋯朱莉が戻って来たので話を聞いてみる。
「さっ⋯⋯これで屋敷に入ってくることはないと思うけど念のため、レオナに妨害用の魔法陣を張って貰っとくわね。まあちょっとした交渉よ。私これでも顔は広い方なのよ」
「魔法陣はお任せなのです」
「じゃああとは工房ギルドにも顔を出して話をしとくか」
◇◆◇◆◇◆
「なんだと~!!それでいいのかよ!? 」
ジークドラムスが食い入るように話を聞いて怒っている。
「仕方ねぇ。ランクをグレードアップしてもらうよう、こっちは交渉してみるぜ。それと、予定してたお前の村に出張ギルドをすぐつくるようにする」
「あんた急すぎないかい?また本部に怒られるよ」
ジュディが呆れたようにジークドラムスに話しかける。
「ちょっとおじゃまするよ」
オレンジの髪のにこやかに笑っている小さな女の子が扉から入ってくる。
「むっ⋯⋯こいつ我輩の気配探知に反応しなかったのだ」
ルシファーが眉をひそめて女の子を見つめる。
「ふむ。君がクラウスが言ってたルシファーだね。一目見ておきたかったんだよね。あっ黒狼の牙までいるんだね。それと ⋯⋯他にも沢山集まってるみたいだね」
小さな女の子は淡々とした口調で雰囲気でこちらを眺めている。
「ルシファー様潰しますか?少し神の力をこいつから感じます」
パイモンがルシファーにたずねる。
「まあ敵意は無さそうだしまだいいのだ」
「どこかで見たことあるような⋯⋯」
朱痢が必死に記憶を辿っている。
「名前を教えるのが遅れたね。私はジーン・エスターだよ。これでもベルサイズを納めてるよ」
ジーン・エスターとなのる少女は、にこやかにスカートの裾を持ち挨拶をするのであった。
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