閑話 エルフ ランドレア・シェール ①
私の名前はランドレア・シェール。ハイエルフである。
この屋敷に来て3日が経とうとしている。
平和だ。
なんなんだろう⋯⋯ここの生活は人をダメにするぐらい環境が変わっている。
私は故郷の為にお金を稼ぐ為、冒険者になりそれなりに苦労もした。
そして料理の素晴らしさに感動し料理の腕を磨いてきた。
思い返せば料理大会では1847番が持ってきていた植物の香りに懐かしさがあって思わず魅入ってしまった。
つい見つけてしまったと口する。
私としたことがはしたない。
料理大会で目を引く『珍しいもの』の切り札をせっかく海に潜って手にいれた魚を使ったのだが、審査員の印象は私の魚ではなく、あの男の作った茶色い小さな食べ物に夢中だった。
それなのに、決勝まで同じ物を用意してきたので、そんなに自信があるのならと、用意していた茶色い小さな食べ物を隙をみて1つ食べた。
食べた瞬間、私の身体が全身で反応した。
なにこれ!? 美味しすぎる⋯⋯!!
顔が思わず破顔してしまう。
悶えていると審査員が怒って料理の妨害として、私を失格にしてしまった。
何人かの審査員に引っ張られ、私は会場から追い出されてしまった。
ひどいわ。あんな物を作る人間には、もう会えないかもしれないと考えた時、大会終了時に後をつければ、あの植物の木の情報を手に入れられるかもしれない思ったのよ。
そう考えたら私は行動に移っていた。
あれさえあれば故郷の復興に、一役買うのではと頭によぎった。
私はこれでもゴールドランクの精霊探究者よ。精霊の力を借りながら数多の冒険をしてきたのだ。
(出てきた⋯⋯)
精霊の加護 『ファントム』を使用し、気配と姿を隠しあの男を追跡する。
数人変わった匂いが近づくと届く。
「なんだろ?この変な匂い。まるで魔族でもいるような⋯⋯」
しばらくして男が急に走り出す。
(ええっ?待ってよ~)
私は『ファントム』を解除し追いかける。
人間にしては走るのが早くて見失いそうになるが、僅かに追い付いていける。
人間の男は狭い路地に入っていく。
十字路の袋小路になっている場所に男は立ち止まっていた。
(ん?これはまさか誘い込まれたの?)
私は踵を返して広い場所に行こうとするが、どうやら私の方が追い込まれていたみたい。後ろから蛇の尻尾をビタン、ビタンしながら綺麗な人が私の行く道を塞いでいる。
目線を左側に向けると屋根からはあれは?ヴァンパイアロードなのかしら?凄い威圧感が⋯⋯左側は行きたくない。
右は⋯⋯狼の仮面を被ってる女性がいるわね⋯⋯あの風貌は確かランキングキラーとよく似てるわ。でも最近は現れることがなくなったって言ってたのに⋯⋯
こうなったら一番弱そうな男を人質にして逃げるしか⋯⋯。
いや待て、逃げても私の目的は達成されない。
ここは話を⋯⋯。
「ねぇ貴方⋯⋯」
ブゥーン 頭上に魔法陣が展開される。
えっ?なに?まだなんか来るの?
強力な魔力波が私の頭上にくる!なにこの魔力⋯⋯気持ち悪い。酔いそう。
目を細めて頭上を確認する。
漆黒の翼をもった天使がいる!なんでこんな存在がいるのよ!
「ほぅ我輩の姿を捉えるとはなかなか面白いのだ」
間違いない、こいつが一番ヤバい奴だ。
どうしよう⋯⋯一か八か逃げよう!後方の女性に向け、精霊の加護『シルフ』を使用し、脚に風を纏い跳躍する。
「ふふふっ、私しに勝負を挑むのですね」
直ぐ様、体勢をかえ尻尾を私の脚に絡ませられたかと思うと、私は地面に叩きつけられた。
「ぐうぅ」
思わず呻き声が出た。同じように諦めず左右にも行ったが、数分後に私は土下座状態にまでなっていた。
その後は蛇の女性の魔眼によって、動きを封じられるし、ヴァンパイアロードに脅されるし、男だと思っていた者は魔物だったし、その後、ヴァンパイアロードだと思っていたのは、その遥か上の不死者の王だったと知ることになる。
なんとか事情を説明し、熱意を持って師匠(夏樹さん)に弟子入りをお願いし、屋敷についていけるようになった。
屋敷に到着すると部屋を貰えた。いきなり来たのに1人部屋だと?
荷物はアイテムボックスがあるので、テントなどを用意していたのだが、なんなんだこの屋敷は!? 広いってほどを越えてるわよ?
聞けば師匠はまだシルバーランクに入ったばかりらしい。
なんでランキングランクがシルバーランクでこんな所に住めるの?
そうか⋯⋯横にいた須藤さん(ランキングキラー)はプラチナランクだったわね。
多分この屋敷、須藤さんの持ち物だったのね。納得したわ。
須藤さんに確認したらここは師匠が借りたお家らしい。
支払いは師匠がしているとのこと。
お金を払うって言っても断られたらしい。
師匠は貴族か何かかしら?
もう暗くなるから屋敷の案内は明日ということで、今日はご飯の支度をするとのこと。
よし!ここは弟子として、腕前を見せて役に立つところを見せねば!
「今日は朱莉とバティンが当番だから、お風呂でも入っておいで」
いきなり来た私には任せられないのか⋯⋯少し落ち込むな。
ところでお風呂ってなに?
困ってると、須藤さんが反応してくれる。
「しょうがないわね。私がお風呂に連れていってくるから、夏樹は下処理だけしといてよ」
「わかった。じゃあランドレアさん、朱莉にお風呂を教えてもらいなよ」
「師匠、シェールと呼んで下さい。呼び捨てで結構です」
「わかったよシェール。今日はゆっくりしててね」
お風呂に来るとシェールは驚く。
「こんなにも水を使っているの?」
この前の海の横で湖もあったので水浴びをしたのだが、ここのお風呂というものは、この街では考えられないくらいの水量を使っている。
「そうよ。でも水ではなくてお湯ね」
確かに温かいな。こんなにも贅沢をしていいのだろうか。
「まずそこの石鹸で身体を洗ってね」
なに、これ?泡が凄い出て汚れが落ちていくのがわかる。
「次にシャンプーよ。頭をこれで洗うのよ」
凄い気持ちいいぐらいさっぱりするわ!
「それが終わったら湯船に浸かるの」
ふー温かいな。水浴びをすることはあったけどこうやってお湯浸かるのは初めてよ。
服を着ようとしたときに須藤さんがため息をついていた。
「本当なら服を用意したいところだけど、急だったし仕方ないわね」
須藤さんは裁縫が得意らしく、今度服を用意してくれるみたい。
ダイニングルームに戻ると須藤さんがキッチンに案内してくれる。
蛇の亜人だと思っていたのは悪魔の大公爵バティンというらしい。バティン⋯⋯いえバティンさんが食事を作っている。
なんでこの家は悪魔やら堕天使が普通に生活してるんだろう。
伝説では、上級悪魔や堕天使が1人あわられただけで世界が混沌と化すって言われてるのに。
気を取り直そう。
見たことのない調理器具が並んでるわね。どうやって使うのかしら?
それに食材が私の見たことのないものやAランク冒険者でもほとんど手に入らない食材が並んでるわ。
それに香辛料が沢山ある!これは私では触れないぐらいの価値があるわよ。
「何よ!ここは?師匠は何者なんですか?」
「冒険者足るもの余計な詮索は禁物よ?」
そうだった⋯⋯須藤さんに注意され押し黙る。
「俺は普通の人間だよ。シェールが多分しらない料理を知ってて材料は皆に取りに行ってもらったんだ」
「これだけの材料と料理道具を用意できるのは、この街じゃ普通のなんて言わないわ」
今日はトメトを使ったチキンライスってものらしい。
何も手伝うことが出来なかった⋯⋯師匠が作ったっていうケチャップってなに?
塩、胡椒、砂糖を使うなんて信じられないことだらけである。
アクアシティに行けなかったけど、ここは料理の楽園だよ。
私は一心不乱に食べた⋯⋯。今まで食べた物など比べ物にならないほど美味しい。
皆で集まって食べるのも悪くないわね。
食事の時に堕天使が1人増えてたわ。この堕天使は師匠のことが嫌いみたいね。凄く怖いのよね。
師匠が食後にデザートにって、ドーナツっていうのが出てきた。
ドーナツの上に今日食べた茶色い液体のチョコレートというものがついている!
また食べれると思ってなかったから幸せ~。
アバリムさんが怨めしそうに此方を見ているわね。
明日も楽しみだわ。
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