正念場
「これが事の顛末よ……私、あなたたちをだましてたの」
俺たちは黙って小木曽の懺悔を聞いていた。
横目に見える星野の目が少し赤い。
「軽蔑したでしょ……?」
「「………」」
俺たちは何も答えない。
「それじゃあ、私は薬局アルバイト三十路手前おばさんに戻るとするわ。」
「じゃあね。あなたたちとの四ヶ月間……とても楽しかったわ……」
少しビブラートのかかった声でそう告げると、小木曽は部室のドアに手をかけた。
「ちょっと待てよ……」
「えっ……?」
「ちょっと待てつってんだよ!!!」
俺は立ち上がり、小木曽に詰め寄る。
そして小木曽の左腕をつかむ。
「離して!! もういいの!! もうこれ以上あなたたちに迷惑かけられない!!」
小木曽は必死に抵抗し、俺の手を振りほどこうとする。
「私はまたあのつまらない仕事に戻ってぇ! だれともつながりをもたずにぃ! そして最期はさみしく死ぬのぉ!」
言ってることがめちゃくちゃだ。
バイトで孤立してるからって、誰もその人の最期の時をみとってくれないとは限らない。
こいつ、普段はおとなしいけど一度スイッチが入るととことん暴れるタイプだな。
質が悪いぜ……。
こんな暴れ馬ヒロインを目の当たりにしたとき、俺はいつもどうしていた?
俺は心の中で自問自答する。
導き出された答えは一つ、これだ。
「やめちまえよ!!! そんなクソみたいな仕事!!!」
決まった!強気の一言だ!
一見危険な選択肢にみえるが、これがTRUEエンド直行の選択。
勝負ありだな!
「やめるって、そんなことしたらお父さんに家を追い出さちゃう!!! ホームレスおばさんになっちゃうのぉ!!!」
「!!!」
そんな現実的な言葉を前に俺は打ちのめされる。
なんだこいつ、めんどくさすぎる……。
クソ、こんなめんどくさい女ほっておけばいいんだ。
この女がどんなに不幸になろうが知ったことではない。
これから俺の人生には関係ない。
というか、そもそも俺はどうしてこの女を攻略しようとしているんだ……?
二次元と三次元を混同してしまうなど愚かすぎる……。
ああ恥ずかしい、死にたい………。
いや、待てよ。
一つの仮説が脳裏に浮かぶ。
この女があまりにめんどくさすぎて、
あまりに現実的でないがゆえに、
俺はこの女を二次元ヒロインとみなしているのではないか…?
だとすると、この女は実質二次元ヒロインと同じ……?
ふふっ、面白い!三次元も捨てたもんじゃねーな!
受けて立とうではないか!!
こんなめんどくさい女だからこそ………
俺はこいつを………
ほっとけない!!!
「心配するな、次の仕事なら用意してある」
「えっ………!?」
「これからお前は……俺と一緒に働くんだよ!!!」




