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エロゲ脳はほっとけない  作者: びねつ
漫画研究会改め開発室
3/8

経緯

「ちわーっす」


「あ、高村さん、こんにちわー」


「こんちわー。いやーご無沙汰じゃないっすかー! 就職活動は順調っすか?」


「星野、お前わざと聞いてるだろ?」


「えーそんなことー」


 このそろそろ夏も本番に差し掛かろうかという時期。

 順調に就職活動が進んでるやつならもう内定をもらっている。

 スーツ姿で部室に来てる俺を見てよくそんなことが聞ける。


「まぁ俺の就職活動のことなんかどうでもいいんだ。お前ら、進捗のほうはどうだ?」


「順調も順調! 発注どおりのイカしたBGM上がってるっすよ!」


「こっちも先週に頼まれてたCGがもうちょっとで完成です」


 漫画研究会の部室でおこなわれている会話としては、いささかズレたワードが飛び交ってしまっている。

 小木曽の入部から四ヶ月。

 俺たちは"漫画研究会"であることをやめた。


 ………

 ……

 …


 結局新入部員は小木曽たった一人だった。

 入部後に小木曽は「みんなで同人誌を出したい!」と申し出てきた。


 しかし、それは無理な話だ。

 "みんな"つまり、小木曽以外の残り二人の実働部員に問題があった。


 そう、俺も星野も絵が描けない。

 漫画研究会のくせに!と思う人もいるかもしれないが、ちょっと待ってくれ。

 漫画研究会部員全員が絵を描けるとは限らない。

 "漫画研究会"の言葉の意味するところは、"漫画の描き方を研究する"だけに収まらず"漫画の内容を研究する"といったところにまで至る。

 さらに、漫画を読むことを専門とした部員を指す"読専"という言葉が存在する。(うちのサークルでは)

 つまり、"漫画研究会に所属しているのに絵が描けない"ことに関する是非という命題は全くもってナンセンスなのである。

 ……俺はだれに対して主張しているんだ?


 話がそれたが、小木曽が望むように"みんな"では同人誌が作れない。

 だったら小木曽一人で同人誌を出したらどうだと提案した。

 漫画研究会としても部員が同人誌を発行したことを活動内容として大学に報告できる。

 ここ最近、これといって活動をしていないせいで、大学に部室を取り上げられようとしていたのでめちゃくちゃ助かる。


 ……が、小木曽は拒否した。あくまで"みんな"で活動したいそうだ。

 なんだってめんどくさいことを言う。これだからおんn……やめておこう。


 部室を守るためにも何か活動はしなければならない。

 そこで苦肉の策としてノベルゲーム制作に行き着いた。


 もともと俺と星野は一緒にノベルゲーム制作をしていた時期がある。

 DTMをかじった星野が自分の曲を披露する場がほしいと俺に持ち掛けてきたのが発端だ。

 シナリオ・スクリプトが俺で、音楽が星野という構成。

 原画については二人とも絵が描けないので、フリー素材だけで作ることになっていた。

 ノベルゲームを作るのに原画家なしってのは不安しかなかったが、星野は「僕の音楽と先輩のシナリオで魅せるんっすよ!」と謎の自信を持っていた。


 星野はつぎつぎと曲を作ってきて「こいつらが映えるシナリオをたのむっすよ~」なんて言ってきた。

 いや、普通逆だろ。シナリオライターがシーンに合わせた音楽を作曲家に発注するんだよ。

 好き放題に作った音楽に合わせてシナリオつくるとかどんだけ難易度高いんだよ。


 そんなこんなで肝心のシナリオが全く進まず、このプロジェクトは凍結状態にあった。

 それを星野が「だったら先輩が投げ出して止まっちゃったノベルゲーム制作やりましょうよ!」と掘り起こしてしまった。

 なぜ一度とん挫したものをわざわざ掘り起こしてしまうんだ……。

 俺は前回と同じようにゲームが完成することはないと反対した。

 しかし、星野はしつこく食い下がってきた。


「今回は大丈夫っすよ! なんたって小木曽ちゃんという天才原画家がいるんっすから!」

 と。


 小木曽は終始目を輝かせて聞いていた。

 ああ、そんなキラキラした目を俺に向けるんじゃない……。

 俺の信念は風に吹かれる砂の城のごとく崩れていく。


 ………

 ……

 …


 そしてここは"部室"あらため"開発室"となった。

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