希望の来訪者
「……というわけで活動内容はこんなかんじ。なんか質問とかある?」
「そうですねぇ。とくにないです」
突如現れた女に動揺しながらも、なんとか一通りサークルの説明を終える。
「じゃあこっちから質問してもいいっすか! 君、学部はどこなんすか!」
初めての後輩にテンションが上がっているのだろう。星野が長机から身を乗り出して問う。
「学部ですかっ!? え、えーと商学部?」
なぜ疑問形。
緊張しているのか。
三次元女にしては珍しい初々しい子じゃないか。
「へぇ~商学部っすか~! いいな~僕なんか工学部だから毎日毎日実験地獄で……」
「へ、へぇーそうなんですかっ!? それは大変そうですね!!! 」
女は少し無理したテンションで受け答える。
それを見た星野が気をよくしたのか、長々と大学生活とはなんたるかを語りだす。
先輩風吹かせたいんだろうなぁ。
………
……
…
「それで楽な授業の選び方ってのはさぁ……」
「そこまでだ星野。調子に乗るな。」
「えーここからがとっておきのお役立ち情報っすのにー」
「お前の話なんか聞きたくねぇんだよ。新入生にしゃべらせろ!」
「いや、高村さんは聞きたくないかもしれないっすけど、この子は絶対聞きたいと思ってるっすよ!お役立ち情報!」
「いいか星野、会話がうまいやつってのは自分が話す以上に人に話させるんだよ。お前はちょっと黙ってろ!」
「あー、まーた説教はじまったよ」
「ははは……」
くそ、アホなくせに理屈ばかりこねる後輩をもつと苦労する。
新入生が引いてるじゃないか。
このままじゃ入部してくれないかもしれない。
それは部の存続のためにもなんとしてでも避けなくては……。
ったく、このアホ後輩は「後輩ほしい」とか言っときながら、今まずい方向に行ってるって気づいてんのか?
これだからこいつはほっとけない。
しょうがない、俺が数々のヒロインを攻略して築き上げたコミュ力をみせてやるか。
「ところで漫画研究会に来たってことは漫画が好きなんだよね?
どんな漫画が好きなの?」
これは漫画研究会伝統の定番の質問!
ここでどんな回答が来ようとも俺は話を合わせられる!
漫画に関する知識に抜かりはないっ!来い!!!
「そうですねぇ、ラブコメがとくに好きですね! "おしえて☆ティーチャー"とか大好きですっ!」
「ほぅ、なかなか古い漫画が好きなんだね。それって僕が小学生ぐらいのときに流行ってたよ~」
「!!! え、えーあはは、私よく趣味が古臭いって言われるんですよ~!!!」
あれ、おかしいなぁ。会話が空回りしてる感じがする。
この子また無理にテンション上げてしゃべってないか……?
ちょっと話題変えるか。
「家は大学から近いの? うちの大学、へんぴな場所にあるから通うの大変って生徒多いんだよねー」
「ここから自転車で30分くらいのところに住んでるんですっ!」
「へぇ~そうなんだ~。珍しいね~実家から自転車で通える大学を選ぶなんて親孝行なんだね」
「あっ、えーと……私下宿生なんです! 実家が田舎なもので。一人暮らし始めたばかりでいろいろ大変なんですよー!!」
「あれ、そうなの? でも、それだと結構大学から離れたところに下宿してるんだね」
「!!! あ……あぁ、それはお父さんに、大学の近くに下宿するとたまり場になるからやめなさいって言われちゃって!もう大学生になるのに過保護な親ですよねぇ、まったく!!!」
「へ、へーそれもそうだよね! 自由を求める年ごろだよね!! あっ、でもお父さんの気持ちもよくわかるよ、うん!!」
ダメだ、ダメだ! なんだこのぎこちなさは!
この子は俺たちとの間に見えない壁を作ってしまっている!
この壁は良好な関係を築く上で大きな障害だ。なんとかしないと……!
「あっ、そうだ! 大学に入学してやりたいこととかあるんじゃないの? ピカピカの新入生だしね!」
「はい! それはもう! いっぱいあります!!!」
目を輝かせ、身を乗り出して答える女。
この質問はなかなか好感触なのでは?なんだよ俺、やればできるじゃないか!
「おーいいねぇ! それでそれで?」
グッドエンドの選択肢を選んだことを確信した俺は、さらに話に興味を持っていることアピールするために相槌を入れる。
純粋で自然な態度こそが攻略への近道だ。
「昔から絵や漫画を描くのが大好きで! いつかこういうサークル活動してみたかったんです! それでみんなで同人誌作って、即売会で販売して、それから、それから……」
「ん……?」
「あれっグズッ……ごめっグズッ…っんなさいっ。こんなつもりじゃっグズッ……ないのにぃっ……」
どういうことだ……?目の前の女は突然大粒の涙を流しはじめる。
どこかで選択肢を間違ったか……?
とりあえず直前のデータをロードして……とはいかないのが三次元の辛いところ。
考えるしかない。なぜだ……?
……ん?まてよ。この光景どこかで見たことあるぞ……!?
明るく小柄な女の子の突然の涙……
……そうだ!カンナドのふぅちゃんだ!
カンナドとはエロゲーメーカー"キーホルダー"が世界に誇る名作。
これで泣けないやつは人間じゃないといわれているほどの作品である。
その作品の中でも屈指の名シナリオ、ふぅちゃんルート。
そのラストシーンの光景が今俺の頭にふとよぎってきた。
決して昨日プレイしたばかりだからというわけではないぞ。
俺がこれまでのエロゲー人生で培ってきた勘が呼び起こした記憶なのだ。
彼女が今見せている涙は、俺の記憶の中のふぅちゃんと同じものだ!
そうだ!違いない!確信した!
そう、彼女の正体は……。
「もしかして君、幽霊?」
「えっ!?」
俺は盛大にやらかした。
………
……
…
「ふふっ、ふふふふ! あはは、あははははは!」
あれ? 笑ってらっしゃる?
「高村さん、研究室でのストレスでとうとう頭がイカれちゃったんすかぁ?」
「う、うるさい! 俺は心身ともに健康だ!あと君も笑いすぎ!」
「いやだって、ふふふ! そんなことぉ、ふふ。言われたのぉ、ふふっ。初めてなんですものぉ、あははは!」
「なんだってんだよ……」
うれしそうに語りだしたかと思えば、いきなり泣き出すし、そうかと思えばバカみたいに大口開けて笑いだす……。
三次元の女ってわけわかんねぇ。
「先輩がわけわかんないこと言っちゃってごめんっす! それでさぁ、部室の見学とかもできるからもしよかったら……」
「私、入部します!」
「「へ?」」
「入部します!よろしくお願いしますね! 先輩!」
こうして浪花大学漫画研究会に新たな部員が加わった。誠に不本意な経緯を経て……。




