06「歩けば情報に当たる」
「ねぇ、お姉ちゃん。あれに描かれてる人たちは、なんで薄着なの?」
「さぁ。暑がりなんじゃない?」
天界の神々が集う一場面を切り抜いたゴブラン織りのタペストリーを指差しながら、ベルベットのソファーの上でビリーとキャシーが呑気に会話を交わしていると、バーンと勢いよく扉を開け、バタバタとジャッキーが駆け込む。その後ろから、やや遅れて、息を弾ませたジャッカル耳のメイドが姿を現す。
「お待たせ! あのオープンカーは、もう少し修理に時間がかかるみたいだけど、ちゃんと直るまでここに居て良いから、安心して。――良いわよね、ジェーン?」
「はい、お嬢さま」
大股に立って堂々と宣言したあと、ジャッキーはメイドに確認すると、ビリーとキャシーの手を引いてソファーから立たせ、そのまま廊下へと引っ張って行きながら言う。
「応接間で待ってるのも退屈だろうから、庭に行きましょう。今日は、良い天気だもの」
「えっ、ちょっと」
「わっ、おっとっと」
よろよろフラフラと、勢いにおされるまま戸惑いの表情を浮かべて歩く二人を尻目に、ジャッキーはマイペースを崩さずに、ずんずんと先頭に立って導いていく。そのあとを、メイドは白いエプロンの下の黒いワンピースのスカート部分を両手で軽く持ち上げてほっそりした足首を見せつつ、早足で追いかけて行く。
それから小一時間後。ジャッキーとキンバリー姉弟は、荒れ果てない程度に手入れが行き届いたナチュラルガーデンを見渡しつつ、鉄製の白いガーデンテーブルを囲みながら、優雅なティータイムを楽しんでいる。テーブルの中央には、山盛りの焼きたてのクッキーが、白いナプキンが敷かれた籐のバスケットの中に入れられて置かれている。
「遠慮しなくて良いから、ドンドン食べてね」
「ありがとう。――何を笑ってるのよ、ビリー?」
「だって、ダイエットするって言ってたじゃないか。意志が弱いなぁと思って。――ギャ!」
クッキーを勧めるジャッキーに応えてキャシーがバスケットに片手を伸ばすと、それをビリーがからかい半分にくつくつと笑い始めたので、キャシーは、テーブルの下でビリーの足を踏みつけた。その様子を見たジャッキーが思わずクスッと笑うと、キャシーはぽっこりと出っ張っている腹部を撫でさすりつつ、ある噂話を始める。
「痩せたくても痩せられないものよ。そうそう。この前、小耳にはさんだ話なんだけど、有名人の中には、白い錠剤を飲んで、スリムな体型を維持してるって話よ」
「あっ! その話、僕も聞いたことがある」
「白い錠剤って?」
「私も、ちょっと聞きかじっただけだから詳しくは知らないんだけど、水無しで手軽に服用できるけど、とっても高いんですって。――キャー!」
「その話、もっと詳しく教えて!」
興奮して席を立ったジャッキーが、両手でキャシーの両肩を掴み、その淡褐色の目を灰緑色の目に合わせてひと睨みしたあと、がくがくと前後に揺らしはじめた。
「わ、わかったわ。話すから、ゆら、揺らさないで」
キャシーが約束すると、ジャッキーはスッと手を放し、満面の笑みで席に戻った。
「大丈夫、お姉ちゃん?」
「平気よ。ハァ。――その話を聞いたのは、二日くらい前だったんだけどね……」
ビリーの心配そうな視線を感じたキャシーが、ひとこと断ると、大きく一度深呼吸をしてから、白い錠剤についての話を始めた。