04「きょうだいコント」
「お姉ちゃんがいけないんだよ。信号無視の取り締まりを撒こうなんて考えるから」
「ぐちぐち言わないでよ、ビリー。――あぁ、駄目ね。完全に、エンストだわ」
ビリーと呼ばれた緑と黄色のチェック柄のネルシャツを着たタヌキ耳の少年と、ポップな極彩色でカップケーキとマカロンがプリントされたスウェットを着たタヌキ耳の女が、オープンカーの上でやいのやいのと騒々しく言い争っていると、そこへ通り掛かったジャッキーが二人に話しかける。
「ねぇ、お二人さん。仲良くじゃれてるところ悪いんだけど、ここがどこか、教えてくれないかな?」
「いま、それどころじゃ……」
「あっ、ジャッキーだ!」
「えっ? あら、ホントだわ」
ビリーが、話しかけられたのはジャッキーであることに気付くと、ワンテンポ遅れて女も気付き、そしてジャッキーも、二人と面識があることに気付いて驚く。
「あっ! 見覚えがあると思ったら、ラスティーの妹さんと弟くんか。えーっと」
「私は、キャサリン。キャシーって呼んで。こっちは、ウィリアム」
「ビリーって呼んでください。今日は、オオカミのお兄さんと一緒じゃないんですね」
「所長のこと? 今日は予防接種の帰りで、急にメアリーさんが所長に呼び出されちゃったものだから、なんとか一人で事務所に戻ろうとしてるところなの。二人は?」
ジャッキーが何気なく問いかけると、ビリーは黙ってキャシーのほうを向いたので、キャシーがエンストして困っているという事情を説明した。
すると、ジャッキーは何かを閃いた様子でパッと表情を明るくし、キャシーに提案する。
「ねぇ、キャシー。ちょっと電話を貸して」
「良いわよ。でも、どこへ掛けるの?」
「フォレストヒルズ四九五の八一二七番。ジェーンに相談してみようと思って」
「ジェーンさん?」
「私と同じ、ジャッカル耳のメイドのことよ、ビリー。彼女、ジェーンっていうの。――ありがとう。もしもし、ジェーン?」
ビリーからの疑問に答えると、ジャッキーはキャシーから受話器を受け取り、周囲を憚ることなく通常のボリュームで話しはじめた。
「そうなの。あっ、迎えに来てくれるんだ。えっ、今いる場所? ――ここ、何て言うところなの?」
「私が説明したほうが早そうだから、代わって。――もしもし、キャシーです。あぁ、先日は、お世話になりました……」
ジャッキーから受話器を受け取り、キャシーは現在地を説明して通話を切ると、ビリーから渡されたおもちゃの銃をサブリナパンツの前ポケットに差し込み、即興で西部劇ごっこをしてみせているジャッキーに言う。
「小一時間ほどしたら、ここに到着するそうよ、ジャッキー」
「そうなんだ。――さぁ、どうする、ビリーよ。降参するか?」
「フッ。ここで白旗を上げるようなら、最初から悪に手を染めないさ。――イテッ!」
「話を聞きなさい、ビリー」
「ハイハイ。まったく。こういうときだけ、ラスティ―兄ちゃんの真似をするんだから」
そう言いながら、ビリーが肩を竦めて首を横に振ると、ジャッキーは、そのコミカルな動きに、思わず大笑いした。