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03「ドライブ日和」

「オリバー。理由を訊いても良いかしら?」


 ジャッキで持ち上がっているツーシータの車体の下を覗き込みながらメアリーが言うと、ゴーゴーとキャスターが走る音を立てながら、オリバーが声のするほうへ姿を現し、背中に敷いていた台車を片手で持って端に立てかけながら起き上がると、もう片方の手に握っていたレンチを適当に赤い金属製の工具箱に放り投げながら、呑気に言う。


「事業用車なら、修理費を会社持ちに出来るからエンジニアに頼めるんだけど、こいつはあくまで個人用だから自力で直してたってところ」

「そういうことを聞いてるんじゃありません。何の用で呼び出したんですか? 緊急連絡先の実家にまで電話をかけるなんて。しかも、受話器を取ったのが、よりによって母親だったとは」

「いやぁ、悪い悪い。マッキントッシュ夫人には、ちゃんと俺が職場の同僚に過ぎないって説明したから」

「どうだか。きっと今ごろ、そのうち私が再婚するかもしれないって、ご近所に言いふらしてるところよ。これだから、田舎は嫌だわ」

「まぁ、そうやって故郷や親御さんを悪く言ってやるなよ。都会(シティー)と違って刺激が少ないから、ちょっとしたことでも新鮮なんだよ。――着替えてくるから、その辺で適当に寛いで待っててくれ」


 オリバーは、ご機嫌斜めのメアリーを宥めると、半開きのシャッターをくぐり、ガレージをあとにした。


「……どこで寛げっていうのよ?」


 メアリーは、油が染みこんだウエスやケーブル皮膜が散らばったガレージを見渡すと、腰に手を当ててため息をついた。


 それから三十分ほどして、ワイシャツとスラックスに着替えたオリバーとメアリーは、九区ディー番地イー号ハイランド通りエフ丁目にあるスカーロイ邸を目指し、青天白日の下をひた走っている。

 

「それじゃあ、免許を取得してすぐにローンを組んだのね。ずいぶん思い切ったことをしたわね、オリバー」

「結婚する気がなかったから、迷わず買ったんだ。守るものが多いと探偵活動に支障が出るけど、足が無いと困るだろう?」 

「そうね。ファミリータイプでないところが、よく物語ってるわ」


 座席の無い後部を見ながらメアリーが言うと、オリバーは、その様子をルームミラーで確認しながら言う。 


「まぁ、独り身は気楽だけど、ときどき不便に感じるんだ。トースターでパン焼いたり、ランドリーに洗濯物持ってったりしながら、これを代わりにやってくれるロボットが欲しいなぁって」

「あらあら。ずいぶん無精なのね」

「ときどきだって。いつもじゃない」

「じゃあ、従順で貞淑な奥さんをもらえば良いじゃない。万事解決よ」

「いまどき、生身では存在しないから機械が欲しいんだよ。どこかに転がってないかなぁ」


 オリバーが返事の無い願望を口にしていると、赤土色のテラコッタタイルが装飾された長い塀が途切れて、アーチ形の鉄門扉が見えてきた。

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