12「おかしな音が聞こえる」
これより十一区、という道路標識を通り過ぎてからも、二人のオオカミは、狭いツーシータの車内で侃々諤々の議論を続けていた。
「なぁ、ヘイゼル。時計型の情報端末があれば便利だと思わないか? 話しかけると何でも答えてくれて、キーワード検索で目的地への正確な方位と距離を、瞬時に文字盤に表示するんだ」
「スパイ映画の見過ぎよ。――ちょっと、オリバー。いまの信号は、黄色だったわよ?」
指笛をピッと鳴らし、人差し指を立てながらヘイゼルが注意すると、オリバーは片手でヘイゼルに近いほうの耳を上から押さえながら文句を付け、ついでに軽口のおまけを言う。
「黄色くらい、見逃せよ。かたいのは貞操だけにしとけ、この処女聖人」
「セクハラで捕まりたいの? 経験があるほうが偉いわけじゃないんだからね、って何を言わせるのよ」
「勝手に言ったんだろうが。否定は、しないけどさ」
「まったく。そのうち、減らず口叩けないように、金的お見舞いしてやるわ」
「うぐっ。想像しただけでも、思わず顔が引きつることを言うなよ。お前、俺にうらみでもあるのか?」
「個人的なうらみはないけど、女だと思ってナメ腐って見くびる輩には、一発食らわしてギャフンと言わせたい気概はあるの」
「おっかないな。実際に蹴られたら、ギャフンどころか、悶絶必至でぐうの音も出ないぞ」
「悪いけど、それに関しては共感出来ないわ。あなたたちと違って、邪魔なモノをぶら下げてないから」
「俺が生理痛を実感出来ないのと同じだな。――さて。住所によれば、あの建物だな」
そう言うと、オリバーは車を縁石の横に寄せて止めた。そして二人は速やかに降車すると、鉄骨レンガ造りの古びた小さなビルの前に佇んだ。
「どう見ても、研究施設には見えないんだけど、本当にココなの?」
「信憑性の高い情報を聞き出して欲しかったのなら、もっと時間をくれれば良かったんだぞ?」
「悪かったわね。まっ、ここに『ニコニコ製薬』があれば、十中八九クロね。……オリバー。あなた、ちゃんとエンジンを切ったの?」
そう言いながら、ヘイゼルはツーシータの後尾部分を指差す。耳を澄ませば、そのあたりからグルルルという不規則でくぐもった重低音が聞こえてくる。
「妙だな。たしかに、変な音がする。修理がうまくいかなかったか」
工具箱でも出そうと、オリバーがトランクを開けると、そこには予想外の物体エックスが存在していた。




