09「あとで始末書がいるでしょう」
ラッセルやメアリーがジャッキーを捜している頃、オリバーは七区の保安署に立ち寄っていた。
「なぁ、ヘイゼル。悪くない話があるんだけど」
「気安く名前を呼ばないで。どうせ良くない話なんでしょう?」
ヘイゼルと呼ばれたオオカミ耳で胸に星のバッジを付けた女が、両手をモミモミしながら機嫌を取ろうとするオリバーにすげない対応をすると、オリバーは、女の正面に立ち塞がりながら言う。
「物的証拠が見つかって自白が得られれば、所持者本人は捕まえられるだろう だが、そいつが誰に頼んで薬を融通してもらってたかを吐かなければ、根絶は難しいよな?」
「回りくどいわね。何を言いたいの?」
「オッ。やっと聞く耳を持ったか」
「聞くまでついてくる気でしょう?」
「よくお分かりで」
あきれたと言わんばかりにヘイゼルが口をへの字に曲げると、我が意を得たりといった様子で、ニヤニヤとしながらオリバーが話を続ける。
「実技だけじゃなくてペーパー試験も潜り抜けてきた保安官様のことだから、白い薬に関する黒い噂の捜査は、もう始まってるよな?」
「守秘義務がありますので、お答えしかねます」
「その返事は、肯定と取らせてもらうぜ。実は、とある依頼で、俺たちのほうでも調べを進めててさ。どうやら、アルカロイド系の錠剤をばら撒いてるオオカミ耳の女がいるところまで突き止めたんだけど」
オリバーが言いよどむと、苛立たしげにヘイゼルが先を促す。
「だから、何よ?」
「ピンと来ないのか? それとも、知らぬ存ぜぬを通したいだけか?」
「ハッキリ言いなさい! しまいには怒るわよ?」
ヘイゼルが眼光鋭く睨むと、オリバーは降参とばかりに両手を挙げておどけて見せてから、スッと冗談っ気を消して真剣に話す。
「おぉ、怖い怖い。それじゃあ、ハッキリ言わせてもらおうかな。――俺を、育ての親に会わせろ」
「お断りします」
「即決するなって。悪い話じゃないんだ」
「堂々巡りね。時間の無駄だったわ」
そう言って、ヘイゼルが片手でオリバーの肩を押して廊下の先に進もうとすると、オリバーは、その手を両手で掴まえて懇願する。
「頼む。三分で済ませるから」
「駄目よ」
「じゃあ、二分五十秒で」
「刻むわね。一秒たりとも譲らないから、手を離しなさい」
「二分四十秒」
「しつこい」
「二分半」
「……ハァ。よくもまぁ、そんな捨て猫みたいな憐れな目をできるわね。二分で済ませなさい」
「やったね!」
頭痛を押さえるように片手を額に当てるヘイゼルをよそに、オリバーは、その場で小躍りして喜んだ。




