00「プロローグ」
――太陽系第三惑星に似たこの惑星では、イヌ科の動物たちが独自の進化を遂げ、地上を支配するようになった。見た目はヒトに近く、火や道具を使い二足歩行するが、耳は頭頂部に獣のようにピンと立っている。ちなみに、他の食肉目は、イヌ科の動物たちほど進化しなかった。
「折れた羽根は、きれいに生えかわったみたいね、ジャッキー」
「はい。良かったな、クラクラ」
「ピィ!」
鳥かごに備え付けられた餌箱に生米を入れたり、水を足したりしつつ、キツネ耳のメアリーとジャッカル耳のジャッキーは、中にいる雀を観察しながら、至極平和に会話を交わしている。
その横で、オオカミ耳のオリバーとタヌキ耳のラッセルは、そろばんの珠を動かしながら交渉している。
「まぁ、そうかたいことを言わずに、ちょっとばかり色を付けてくれよ。ローンの返済が滞ってるんだ」
そう言って、オリバーは珠を一つ上へ動かす。すると、ラッセルは指で眼鏡のブリッジを押し上げながら言い返す。
「冗談じゃありませんよ。所長の借金返済のために、事務所の資金を動かすわけにはいきません。買取に出すか、ジャーキーで凌ぐか、二つに一つですね」
ラッセルは、そう言って珠を一つ下へ動かす。
「冷たいな、ラッセル」
「無駄遣いが多い誰かさんたちのせいで事務所が破産しないように、財政の健全化に努めてるだけですよ。まったく。収入が少ないのに支出が多い体質を、なんとかしてください」
「そう、カリカリするなよ。依頼人なら、もうすぐ来るって」
四者四様の過ごしかたをしているさなかで、三毛猫のフェレスは我関さずとばかりに、日当たりの良いソファーの上で丸くなって眠っている。
と、そのとき、事務所の扉をコンコンとノックする音が聞こえる。鏡文字でオリバー探偵事務所と書かれたすりガラスの向こうには、一つの背の高い人影が映っている。
それを見たオリバーは、フェレスを抱え上げてソファーから移動させながら、メアリーに命じる。
「噂をすれば、来たようだな。――メアリー、頼んだ」
「はい。――今、開けます!」
「ジャッキーは、席に戻りなさい」
「はぁい」
一緒に出迎えようとしたジャッキーが、ラッセルの注意で自席につくと、メアリーは扉を開けた。