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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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弱きを助ける義理「馬」情、です。

それは今から十数年前、アレフがオオエドにて宝具盗みという大仕事を終えた数日後の事であった。

山に海に兵を敷かれ、逃げ道が無くなったアレフとマスターだったが、旅の商人として何とか逃げ仰せたのだが、それから一人と一頭はそのまま数月を極東内を自由に旅して過ごす事になった。島の外に逃げようと思っても海にはオオエドの差し金で彼らを待ち続ける大勢の船らと対峙必死なので、奴らが居なくなるまでは。という決まりの下旅をすることになった


その旅先の一つにはヒュウガも含まれていた。当時若かった彼らは復興の最中ながらに明るく、そして華やかな街並みに心浮かれて実にハメを外した。法なんて無いこの世界、例えまだ十代半ばで飲酒していても誰にも咎められやしないし、周りの誰も彼もが酔い倒しているのでやけにデカい馬が高らかに喋っていても誰も気にすら留めない


そして、その帰り道。


「まだ帰らねぇからお前、先帰れ〜!」


熟れたリンゴの様に真っ赤な顔でマスターにそう吠えたアレフを一人置いて適当な寝場所を探して歩くマスターはふと、人影を感じ横を振り向いた。そこは暗い、とても暗い路地裏で人が居るとは到底思えない程の細道だったがマスターは敢えてそこへ入った。先程寝場所を探していると言ったが風と雨が防げて、人や動物の喧騒とは程遠いそんな場所。それがマスターの求める寝場所で、この暗い細道はその条件を満たしそうな気配をマスターは感じたのだ


そうして、道も道なりに適当に路地裏の道を進んで暫く、マスターは再び人影を感じる。というより鼻が「察知」した。近くに複数人の人間がいる事を


(人が近くに居ちゃ寝れねぇしな………「最中」だったらアレだが、追い払うか)


寧ろこんな小汚い所でヤるような奴らなんてどうせロクでもないに決まっている。一発脅して逃がし、静かにそこで寝てやるとしよう


そんな事をニヤニヤと考えながら一つ道を曲がったその時である。マスターは見た、想像していたよりずっと醜悪で嫌悪感を覚えるソレの「寸前」を


マスターは見た、見た目五〜六歳程度の少女の体に覆い被さるように馬乗りになった小汚い男の姿が

その瞬間、マスターは光を超えた。


「やめ、やめてくださいぃ……!おねがいします、おねがい、しますぅ……!」


「うるへぇっ!ガキは黙ってヤられてりゃぁ良いんだよぶべらぁっ!?」


大きな物音と共に、木箱にゴミ箱にその他諸々にぶつかり倒した男はそのままどこか遠くまで飛んでいってしまった。よく見ると背中に大きな馬の蹄の後が見える辺りマスターの前蹴りが決まったのだろう。そんな当のマスターはというと、着衣……と言うにはボロいし汚いが過ぎる布きれを羽織り直す少女を黙って見つめていた


少女は突如現れたこの大きな馬に怯えているらしく、まさに一難去ってまた一難。いい加減この人生に諦めをつけないといけないのかと生唾を飲み込んだ


「………………なぁ。」


「?へ、いま、どこからかこえが?」


「……なぁってば、おい」


「ど、どこからぁ?ま、まさかさっきのおじさんがもう!?」


プツン、生き物が怒りの頂点に達した時によく使われる表現として使われるこの表現、まさに今この現場を視認した瞬間からピークに差し掛かっていたマスターの怒り度数がたった今許容範囲越え(キャパシティオーバー)してしまった


「てんめぇこのメスガキ!助けてもらっておいて礼の一つも言えねぇのかあぁん!?舐めてんのかこンの乞食野郎!」


「わっ、わっ!お、おっきなおうまさんがしゃべってますぅ!?そ、それにタマはこじきさんじゃないですぅ!?あと、たすけてくださってありがとうございますぅ!」


少女はマスターの怒髪天の勢いに流されるようにこれまた堰を切ったように勢いよく驚きと否定と感謝の礼をいっぺんに済ましてみせた。あれだ、勢いよく「ごめん」と言われると思わずこれまた勢いよく「いいよぉ!」と返してしまう現象とよく似通っている。


「チッ……ったくよぉ、折角気持ち良く寝れそうな気分だったのによぉ〜……」


「す、すいません……あの、わたしなにもおれいできることがなくて、だから、その……わたしの────」


「趣味じゃねぇ」


マスターは少女が言い切るより先に言葉でバッサリ切り捨てた。傍から見れば少女の善意を無下にする非道い行為に思えるかもしれないが、先ずその少女があからさまに安堵した様子でホッと息をついてしまった。

無論これにはマスターも更にムッとせざるを得なかったが、意外にもそれに対して何の文句も言わないままにプイッと顔を背けてしまった。


実際問題、この目の前の小さな少女では先程の下衆な男ならまだしも、文字通り馬並みのソレを抱えるマスターの相手なんて出来るはずもなく、それは当の少女本人も理解しているはず。お互いにわかっているから、何も言わない


「……あの、ほんとにありがとうございましたぁ。その、たすけていただいて」


「五月蝿ぇ。そうだ、さっき言ってた何かしらの礼だかな。どっかいってくれ。お前がどこかに消えてくれればそれが礼になる、だからサッサと消えちまえ」


それにしてもあんまりな言い様。酒が入っているとはいえここまで口調の荒れるマスターも珍しい、例えアレフと元気に口喧嘩している時でさえ「サッサと消えちまえ」なんて事は言わなかった


なら、何故この少女にはこんなに強く当たるのか……言っていいかな。まぁ良いよね、多分

誰に許可を得た訳でもないがとにかく理由を話すとして、そもそも結構な程で簡単な話なのだ。先ず前提としてマスターはヒトの子供というのが総じて苦手だ、体に触れられれば身の毛がよだつし声なんて掛けられたら一発嘶いてやって脅し倒すのがマスターの常套手段。それ程にマスターはヒトの子供を嫌っていた


更に、マスターはヒトの子供。その中でも「女児」と呼ばれる生き物を最も忌避していた。先程も言ったがマスターは子供が話しかけてきたら高らかに嘶く。そうすれば大概の子供、特に男は騒がしく逃げ去っていく。だが一部の女児は違う。最悪その場でしゃがみ込んで泣き出してしまう

そうなると本当に最悪、我らがテーブルゲームの王道「チェ棋」で言う所の「チェック・王手・メイト」と言うやつだ

女児共が泣き喚けばもれなく何処からかその親が現れ、マスターを取り囲みネチネチと言われの無い文句を散々と言いまくって、スタスタとこれまた何処ぞへと自らの子供の手を引いて去っていく……その一連の流れに腹の立つこと腹の立つこと……主にマスターがヒトの子供を嫌う理由はここら辺にあると言っていいだろう


そして、強いてもう一つ理由挙げるとするならば

そんな親に手を引かれて去っていく女児らの背中がただただ「なかよくおしゃべりしたかっただけなのに」。と心から悲しそうに語って見えるからだ、そんな背中をされたらその子が今どんな顔をしているのか嫌でもわかってしまう


だからだろうか


「わかりましたぁ……じゃあ、あのぉ……さよう、ならぁ」


そんな泣きそうな顔で悲しい事を言いながら背を向ける少女なんて嫌で嫌で仕方がない。きっとこの夜は消えない恐怖に苛まれながら、こんな小汚い場所のどこか隅っこで一人震えて過ごすのだろう……なんて名前も知らぬ少女の事を考えてしまう自分の事も大っ嫌いだ


「……あぁ全く、最悪な夜になっちまったなぁ。だからガキは嫌いなんだよ」


だって助けたくなっちまうから。

なんて口が裂けても言葉には出来ないマスターなのでした


続く

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