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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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夜月の灯りに照らされた教会、です。

ヒュウガの街並みは夜が更けてもまるで昼間のように明るく、そして騒がしかった。様々な国の人間が入り交じり、酒を交わしたり道中の馬鹿話で笑いあっていたりする

その中をサシャ達は物珍しいものを見るようにしきりに辺りを見渡していた

度々マスターが「やめろ、田舎っぺだと舐められるぞ」と戒めるのだが彼女らは聞く耳持たず目を輝かせ続ける。


「……なんでだろ、オオエドとぜんぜんちがうね。」


「うん、何だか……外国みたいです!」


外国、そう。ここヒュウガの街並みはいわゆる「極東式」と呼ばれる低く、横に長い建造物の姿はあまり見えず、その代わりにあるのは帝国を含むアレフが長く生活してきた「西洋」の風を感じるレンガ調で造られた背の高い建造物ばかりで、そのせいか街の中を歩いているとここがヒュウガで、極等である事を何度か思わず忘れてしまいそうになる。


「あぁ、そりゃあここヒュウガの過去に理由がある…………聞くか?」


マナとリリは一も二もなく縦に首を振る。マスターはあまり話す気が無かったのか軽くため息をついてから、ゆっくりと話し出す。それはヒュウガ、その戦いの歴史についてだった


今から大体三十年ほど前、ここヒュウガは今では考えられないほど戦火の渦に巻き込まれ、荒れ果てていた。

戦っていた大半は極東から見て海の向こうの「西の国」と「東の国」の二国で、そのちょうど真ん中に位置していたヒュウガを中心にした土地を舞台に長い、とても長い戦いが繰り広げられていた


そしていざ戦いが終わり、街の復興が始まる時になり、ヒュウガの民らは戦いの残滓を拾い集め、資金を作り先ずその日を生き延びる生活を送っていた頃。船に乗って「東の国」の使者がやって来た。民らは無論憤りをぶつけ、使者を複数人で滅多打ちにした。

だが、使者は何も言わず、どれだけ殴られ、蹴られようとも反撃の一つもせずただただジッと耐えていた。

そして民らの気が済み……というよりも反撃してこない人間を袋叩きにする事に対し大なり小なり罪悪感を感じ始めてしまい、思わず手を止めてしまったのだが……そうして、使者は立ち上がり、失意の民らに向けてこう言い放ったという


「この街の復興は、この東の国が請け負う!優しき極東の者らよ、悪かった!」


……と。当たり前だがそもそも言語が違うので使者が何を言っているのかを理解した者らは居なかったそうだが、その使者の熱き目と口調に心動かされたヒュウガの民らは、それ以来東の国に対し恨み辛みを感じる事は無くなった。


「まぁ、そんな所だな……つまり、東の国、前まで俺らが旅をしていた所が建築や街の復興に携わっていたから街並みが極東っぽくない。という訳だ」


「「ほえぇ………」」


マナとリリのキラキラ輝く視線を受けて思わぬこそばゆさに顔を顰めるマスターは、恥ずかしさに感づかれないようわざとそっぽを向いて歩く


「て事はすっごい最近の話なのね……ほんの数十年前はここで戦いが起きてたなんて考えられないわ」


「まぁ超長寿のエルフからすりゃそうだろうが……人の数十年っつったら色々変わるもんなんだよ……色々と」


語尾に謎の含みを持たせ、それでも尚そっぽを向き続けるマスターに少々らとはまた違って訝しげな視線を送るサシャだったが、すぐに「今問いただす様な事ではないか」と思い直し、物珍しい景色広がる周囲に意識を戻したのだった


▶▶▶


さて、そんな話をしている内に今夜旅の目的地である教会が近くに見えてきた。最初こそ分からなかったがその小さな教会は小高い丘の上にポツンと一軒だけ建っているらしく、とてもも物静かで恐怖とは違う「悲しげな」暗さを覆って見えた


ここまで来ると周りに他の建物も無くなり、街の喧騒もずっと遠い物に思えてくる。蚊帳の外と言うべきか、少し離れただけで大分雰囲気が変わる物だ


「はぁ……やっぱさ、俺ここで待ってるからお前らだけで行ってこいよ。それにこんな所何にもねぇし、面白く無いぞ?なぁ」


「うるさいわよマスター、怖いなら大人しく待ってれば良いじゃない。何が面白くて何が面白くないかは私たち自分で決めれるわ、ねぇ?二人とも」


サシャの言葉に二人は強く頷く。リリの方は心做しかその表情に恐怖の色が見えたが彼女はそういう子だとサシャは見なかった事にした。使いこなせないとはいえ魔法を操れるこの少女は根本的に怖がりで、慎重な性分なのだ。そしてそれが良い目へ向かう事もある

だからそれを褒める事はあっても責める事は無い。それにこうやって頷いているのだ、寧ろその勇気を成長と捉えてやるべきだろう。

あ、マナは言わずもがな。タイマンの喧嘩なら大概無敵でろうこの幼女に恐れ云々の話をする方が阿呆だ


「それで?待ってるの?」


「…………チッ、わかったよ。行けばいいんだろ。こんな所で一人で待ってるよかマシだ」


マスターの苦虫を噛み潰したような表情と返事にニッコリと明るい笑顔で迎えたサシャは、教会のドアの前で止めていた足を数歩前へやり、手を掛ける


それを力一杯押してやると、ギィィと音を立てて思いドアが開く。そこから覗くは西洋に伝わる「唯一神 ナハム」の御姿。十字架に括りつけられて絶えたと言われるその荘厳な御姿を前に、サシャは思わずドアを押す手を止める。


「サシャ……?もう、しかたないなぁ」


待ち飽きてうずうずしていたマナが代わりに開きかけのドアを押しきった。

だが途中まで重かったドアが、急に軽くなりその勢いで押しきってしまったマナは反動で教会の中に吹っ飛ばされてしまい、床に叩きつけられる


「いたいぃぃ……」


「マ、マナ!大丈夫……!?ひ、怖っ、暗いっ!」


リリはマナがお腹から教会に飛び込んだのを見て慌てて後を追ったが、教会などという今までの人生で入った事も無い場所、それも灯りの無い月明かりのみで照らされたその静かな恐ろしさは、いとも容易くリリの心を折った。一瞬にして彼女はそこらの乙女の如く縮こまり、震えだしてしまった


「全くこの子ったら……ほら、マスター私たちも行くわよ」


「あぁ、おう、そうだな……。」


「……?」


どうやらマスターもリリ側だったらしく、肩と声を震わしてゆっくりと教会の中へと踏み入った。今更だが人の言葉を喋るとはいえ不細工な馬の姿をしたマスターを教会に入れても大丈夫だったのだろうか、という実に単純な疑問がサシャの頭を巡った


(……ま、いっか。)


結局はこれまた簡単な答えで済ませてしまうのだが


▶▶▶


所変わって知恵の守護者、その本部にて

オオエドからやっとこさ帰ってきたボスとフーガだったが、息付く暇もなく会議室という名の尋問室へと向かわされていた。因みに尋問官は本部のお偉いさん方


「いてェ、ケツがいてェよォ……なァフーガ、どうにかなんねェかな、これ。俺こんな状態で説教なんて受けたかねェよ……」


「僕だって嫌ですよ、尻をおさえて涙目な上司と一緒にお小言なんて……一応塗り薬は用意してあるので急いで塗って下さい」


そう言ってフーガがポケットから痛み止めとラベル貼られた塗り薬を取り出すと、ボスは一も二もなくそれを受け取り、器用な事に歩きながら薬を赤く腫れた尻に塗り出した。

そもそも、何故こんな事になったかと言うと……元を正せばアレフに監獄へと突き落とされ、尻で着地したのが根本的な原因になるだろう。あの後すぐは大丈夫だったのだが、いざ隠れ蓑をオオエドに返還し、ヘリで本部へと帰ろうとしたその時に突如痛みが襲ってきた。それもとんでもない強さで


痛みと一口に言っても遅効性と即効性

その他諸々で様々なジャンル分けが可能で。特にボスは痛覚が人一倍鈍く普通の筋肉痛なども年単位で遅れてくるのが当たり前の特異体質。この尻の痛みも例に漏れない正に「仕様」だろう

そして、これに最も苦心したのはフーガだった。何せ四六時中「尻が痛い」「尻が痛い」と連呼するデカい上司を後ろに乗せてヘリ内で昼夜を共にしなくてはならないのだ

道中、本気で気が狂うかと悩んだ程だ


さて、そんな訳でボスとフーガの二人は会議室へと続くドアの前に辿り着いた。しかしどちらともその戸に触れようとしない、額に冷や汗を浮かべ、口を横一文字に結んだまま動きを止める


「恐らくよォフーガ、お前の昇進の話も無くなッてる……後悔、してるか?」


「ちょっとしてます」


横に結んだ口元を少しだけ動かし、フーガはボスに笑いかける。そんなボスも肘でフーガの脇を小突いて少し嬉しそうな表情を浮かべている

失敗こそしたがオオエドで大泥棒を追って走り回り、いつの間にかこの生意気な部下との仲を縮めれた気がする。いつも昇進、昇進と心を燃やしていたのは……そう、色々な理由があったのは知っているが今はそれを少しだけ薄ませている。フーガにとってそれが良いのか悪いのかはボスには分からないが……まぁ、今はソレで良いだろう

一緒に居るのも悪くない、と部下が言ってくれて嬉しくない上司は居ないのだ


「……じャ、行くか」


「はい。」


そうして二人は、聖司らの待つ会議室へと再び歩き出すのだった。そして予想通り、部屋で死ぬ程怒られ、小言を言われて「もっかい行ってこい!」とほっぽり出されるのでした。続く

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