ヒュウガ、祭りな極東の門。です
極東、完全に周りの大陸と海で隔離されたいわゆる島国、それもかなり小さな部類に入る島なのだが、それでも大きさが豊かさを示しているわけでは決してないと世界中を納得させているのがこの極東、そしてその世界との架け橋。オオエドが城ならここヒュウガは極東の「門」と表すのが適切だろう。ちなみに神殿の役割を果たす地域もあるのだがそれはまた別の機会に
さて、そんな門である所のヒュウガだ
勿論近海の海には世界からの使者がこれまた様々なジャンルの贈り物を持ってやって来ていた。船で
船にも国それぞれの特色が見て取れる
例えば「帝国」と呼ばれる世界屈指の大国の船はたいへん豪勢で、デカい。とんでもなくデカい、船が進む度にバカみたいな波が波紋状に出来て周りの船が軒並み足元をすくわれている。
他にも実に様々だ。色や装飾に凝った船もあれば実用性に重きを置いて子ネズミの様にチロチロ小回りを利かしている船もある。大小も実に様々で、見ていて面白い
因みにアレフらの乗る船はとびきり小さい。先程あった帝国の船と並ぶとアリと巨像、月とすっぽんである。
だがこれらの船は同じ海流に乗り、まるで往来の道で順を待つ人の列の様に大人しく列になっていて諍いや、不用意な事故が起きる事は今の所無かった
アレフらの船は前から三番目、もう少しで入港といった所だ
「ねーアレフ?入港したらどうするの?私たち貿易しに来た訳じゃないのに、怒られたりしない?」
「あぁ……それか、まぁ安心しろよ。ここの奴らは軒並み良い奴らなんだ。それにオオエドの手も届かないしな」
アレフは操縦室でうつらうつらと二重の意味で船を漕ぎつつもサシャに何とかそう返答する。確かにその心配とそれについての説明はするべきだっただろう。それもこれも船に乗っている間はあんまり寝れないのが悪い、寝不足がたたって今、頭から諸々抜けている
おかげで先日マナが自分の手から堂々とキャラメルを奪った事にたった今気付いた所だ。今更怒る気にもならないので放っておいたがこれで当分娘に甘味を買い与えてやる事は無くなった。
もうお色気術と呼ぶサシャ伝授のおねだり術も効きやしない。ああいうのは鮮度が大事なのであって何度も何度も繰り返されては慣れもするという物だ
そんなマナは今朝やっと目が覚めたリリと船のデッキから周りの船を眺め、何かを熱く語っている。何だろう、あんなデカい船に乗ってみたい、とかの話だったら面倒だろうな。あんなの借りようとしたら小さな国の資産をまとめて叩いても足りないくらいの金を渡さないといけない。無理
そして予感的中、マナとリリはえらく目を輝かせてこちらへ駆け寄ってきた
「サシャ、頼む」
「んぇーい」
先手必勝、自分の意を汲んでくれたサシャが少女達の相手をするべくデッキへと繰り出して行った。作戦は見事成功し彼女らの注意は自分から逸れる
ココ最近だろうか、何故か急にマナらの扱い方というか接し方が分かってきた気がする。我ながらやっとこさ肩の力が抜けてきた所なのだろう。やっと
それに、こうやって一人で海の風邪を感じつつ静かに惚ける時間も悪くない
少し前、一人と一匹で行く先行く先で物を盗る旅をしていた頃はこんな事思いもしなかったのだが……まぁ、自分も歳をとってしまった、という事だ
ちなみに「一匹」、で表した我らが駄馬マスターは寝ている。それも憎らしいほどの熟睡だ、朝起こそうとしたが何をしても起きなかったので諦めてしまったのだ、だって全力で横っ面を殴っても目を覚ます気配すら見せないのだから仕方ないだろう?
さて、そんなこんなしている内に順番が回ってきた。アレフは港の先っぽに立つ複数人の男らのそばへ船をつける
「や、どうも。本日は一体なんのご要件で?」
「旅行に来たんだ、家族ぐるみで。」
アレフがそう気軽に説明してやるとここ、ヒュウガの役人であるらしい男の一人、がデッキで目新しい街並みにはしゃぐ女性陣をジッ……と好色込みの視線で暫く見つめる。男らは軒並み幼好きなのだろう、人の性癖にとやかく言うつもりは無いがあんな顔に出るものなのだろうか……そして一体どれほどピンク色の想像をしたのか幾らか気分を高調させて役人の男らは入港を許可してくれた。何だか少し胸の辺りがモヤッとするが何だろう
(…………眠いからだろうな。)
深く考えるのも面倒なので、アレフは思考を放棄して男らに簡単な礼を言って巨大な港場の一角に船を付ける。周りは殆ど貿易目的の船ばかりだが、アレフらの船は幸いにも?その周りの船と比べてとても小さい。場所を取るわけでもないのであまり他の船員から嫌な目は感じずに済んだ
「ねぇパパ!はやく、はやくいこう!」
「そうだよアレフさん!早く!早く!」
少女らは先程まで自分らが他人の性癖をぶつけられていた事など毛ほども感じてない様子で、無邪気にそう言ってくる。流石にサシャは目線に気付いていたのか微妙な表情だ、だがそんな中にも「早く行こう」という少々ワクワクした面持ちも垣間見得ている。
断る理由も無いのでアレフは文句を言われるより早く操縦室の階段を駆け下り、彼女らと同様にデッキのヘリに立った。マスター?放っとけば後で来るだろう……というわけで
「せーのっ……!」
アレフの掛け声に合わせ、四人が船から飛んだ。そしてほぼ同時に着地したのはそこはヒュウガの地。同じ島でありながら景観も、空気の味もオオエドとは何ももが違う。甲乙こそ付ける事は出来ないが、こちらもやはり美しい
特にここが世界各国への「門」である事も起因しているのか、街並みやその風景はとても異国情緒溢れるものとなっていて、見るからに極東人な人間らも帝国で流行っていた物を模した服を着て堂々街を闊歩している
国が国ならばこんな事は有り得ない。極東が、というより恐らくこのヒュウガがそういうのに国一倍おおらかなのだろう
「わぁぁ……!!」
「凄い、凄いわ!オオエドと同じ国とは思えないわ!」
「はい、全然違いますね!」
どうやら彼女らも気に入ったらしい。極東の地はオオエド、そしてここヒュウガを抜いて後四十数個の「州」があるのだが、その中でここをチョイスして良かった。折角苦労してここまで来たのだ、喜んでもらわなきゃ損という物
「さて……んじゃ、先ずは宿探すか
二、三日はここに居る予定だからな。探検はその後でも充分間に合うだろ」
「「「さんせーい!」」」
この時こそ元気よく返事した女性三人組だったが、結局大いに寄り道し倒してアレフが程よい宿を見つけた頃には日が傾き始めてしまっていたとさ。
▶▶▶
その日、誰よりも先にベッドに潜り込んだのはやはりアレフだった。それは何時もマナが眠る時間より大分早い時間帯で、それも目新しい土地を前に今も尚目をキラキラと輝かせている「彼女ら」は、アレフに習ってもう寝よう。などという腹づもりは毛頭無かった
まだ窓の外からは明かりや人の喧騒、遠くからは楽器の音色すら聞こえてくる。オオエドも確かに賑やかだったがここヒュウガはまた毛色が違う。まるで祭りのようだ、さて、これを前にして彼女らが取った行動は
「じゃ、行くわよ……!」
キィ、と古い木製のドアが高い音を立てて開いていく。「静かに」を作戦の基準に置くと言い出したサシャはたった今自らが出鼻をくじいた事を察し、ハンドサインで謝罪の意を示しそれでも尚進んだ。幸いにもアレフは今の音で起きた、という事は無さそうだ
とても気持ち良さそうに寝息を立てている
そうしてサシャ、マナ、最後にリリと言う順番で静かに部屋を後にしていってしまった。目当ては勿論外の街明かりである、こうも楽しそうな声を響かせられては興味も湧くと言うのが道理だろうというのはサシャの言い分
宿の店主もあまり興味が無いのか三人の外出を咎めることも無くスンナリと外へ出る事が出来た、出来てしまった
そして、彼女らの目の前に広がったのはここに上陸した時とは全くの別物、いや、別の顔と言うべきか……何にせよ、明るい内とはどこもかしこもが違った。屋台で売られるのは専らエールと魚介系のつまみ、後怪しげなお香などなど。実に多様性の富んだラインナップとなっている。だがサシャらの興味はそこにはなかった、代わりにある一点を見つめていた
何処か、それはこのヒュウガの観光スポットの一つであり地元にも観光客にも古くから根強い人気スポット、その名も「教会」。
ここからそれなりに距離があるというのに僅かな月明かりで照らされたその素朴な荘厳さに、美麗さに三人揃いも揃って目を奪われてしまった。それと同時に、この夜、今からどこへ向かうか言外に決まった瞬間であった
……本来ならここでいつも通り「続く」の一言を添えて一幕を終えるところなのであるが、それは突然の来客によって遮られてしまった
「よぉ〜嬢ちゃんら、んなとこでなぁにしてんだ〜?ひひっ」
という下卑に下卑た男の声が彼女らの背後から響いた。驚きを表情のその奥に隠し、代わりに警戒を滲ませた顔で肩口から後ろを向いた。そこに居たのは何らかの制服をだらしなく着崩した男だった。頬を赤くしているのは酒が入っているからだろうか
そして、サシャはその顔に見覚えがあった。それはこのヒュウガに入る際の港場でアレフと手続きを交わしていたあの「男」、自分たちの事をいやらしい目で見ていたあの「男」だ
それに気づいたサシャは素早く片手に魔力を集中させた。いつでも「形」にさせれるように
「なぁ、暇ならよぉ……おじさんと一緒に遊ばねぇか?折角だし街を案内してやるよ……な、良いだろう?ふひっ」
「いえ、結構です」
「なぁ釣れない事言うなよ〜なぁ〜」
男は無遠慮に距離を詰めてくる。その足取りは酒が入っているにしてはしっかりとしていて逆にその心に潜む邪な悪意がありありと見えてくる。
対するサシャはマナとリリを自分の背中に隠し、ジリジリと後ずさった
(魔法は撃てるけど……あんまり騒ぎにしたくないしな……)
サシャがどうするか悩んでいる間にも二人の距離は段々と縮まっていく。男は下卑た笑みをより一層濃くして手を伸ばしてくる。サシャも用意した魔力を扱う事をせずどうしたものかと未だ悩んでいる
そして、男の手がサシャの体に触れるその瞬間
「邪魔すんぜ」
その瞬間、男は地面に顔から突っ込んだ。倒れ伏してしまった
「お前らよぉ、アレフはともかくお前らまで置いてかないでくれよな。マジで」
「マ……マ……」
「「「マスターー!!(おうまさん!)」」」
そう、そこにあったのは男を後ろ足の蹄で蹴り倒したマスターの無駄にデカい立ち姿だった。
「ぐ、ぐえぇ……」
「ったくよぉ……おっさん、俺が「助け」なかったらこれよりよっぽど酷い目にあってたからな?感謝してくれよ」
そう笑いながら
そして、こうして秘密の夜旅に一匹加わるのでした。続く




