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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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起き抜けのキャラメルと雪、です。

マナが目を覚ましたら、そこはいつぶりかの船の中だった。この地面が揺れる感じと波の音それに下から響く船のエンジンの音、後は潮の匂い、か。それなりに好いている環境ではあるが起き抜け一番に感じるものとしては些か不可解な物であった。何故なら彼女からすれば自分はさっきまで極東の地オオエド、そこにある大きな城の庭、父を閉じ込めていた監獄の傍で戦っていたはずなのだ

なのに目が覚めたら揺れる船の上でベッドに寝かされている。誰でも驚きもするだろう、マナは驚いた

そして彼女はベッドから身を起こす

周りに何があるか、何が居るか、そしてここが「本当に」自分の知るあの船なのか。急に怖くなって調べずにはいられなくなってしまったのだ。その中でまず目に入った物といえば自分と同じようにベッドで寝かされているリリの姿だ。顔色が少し悪いが寝息のリズムは正常で、時期に目を覚ましそうな気配がある


(でもなんでねてるんだろ、リリも、まなも……なんでだっけ。おもいだせない……)


何故だか記憶にモヤがかかっていて思い出そうとしても、中々思い出せそうにない。何かとっても無茶をしたのは覚えているのだが……と、ここでマナが「ここは自分の知るあの船だ」と信じれる確定的な証拠が現れた。それはベッドの隅で毛布にくるまり縮こまって寝ているサシャの姿があった


「サシャ、さむそう……。」


身を起こして分かったが、今とても寒い。きっと日が既に落ちているのだろう、冬季の夜というのは酷い時には人の命すら奪う狂気足り得る物なのだ。故に毛布一枚で寝ているサシャ何か風邪を引こうとしているような物なのだ


「マナのも、あげるね」


そう言ってマナは自分のベッドの掛け布団の一つをサシャに被せてやった。心ばかりかサシャの寝顔に幸せそうな気配が含まれたように見える。それを見ているととても幸せな気分になれる


「…………さて、と」


マナは手近にある羽織る物を手に取って今居る寝室の戸を開く。目指すは船の操縦室、船のエンジン音が聞こえるという事は当然船は動いている訳でそれなら操縦室にはきっとパパ、アレフが居るはずだ。


(パパならおしえてくれる……!)


操縦室へと向かうには一度船のデッキ後方へと出なくては行けないのだがマナの予想通り、時分は夜だった。それに雪まで降っている。そりゃ寒いわけだ、とマナは一人で手を打ち納得している。そして足早に操縦室の階段を駆け上がり、戸を数度叩く


「……サシャか?入れよ、カギ開いてるから」


「はーい、おじゃましまー!」


そう元気に返事してみせ、そして戸を思い切り「蹴破った」。バコーンと派手に音を立てて戸は数度開閉し、そして開いた。その中で操縦桿を握っていたアレフは目をひん剥いて言葉を失っていた。驚きを越して意識ごと刈り取られている様に見える


「や、やりすぎちゃった……ごめんね」


「あ、あぁ……いや、うん。おはようマナ」


流石に大人であり、そして世界に名高い「元」大泥棒であるアレフだ。そんな中でもしっかり驚きを感情の奥底しまい込む。マナとしては少々やり過ぎた感が否めないので若干しょげたままだ


そんなマナを見かねてアレフは、操縦室に元からついていた幾つかの収納スペースから何かを取り出し、マナに差し出した


「……これ、なに?」


「きゃらめる、だ。とても甘いから一つだけにしておきなさい」


甘い、そう聞いたマナの行動は素早かった。アレフの手から「きゃらめる」の入った箱を掠めとる様に取り、箱を開ける。すると何粒かの小さくて白い箱のようなものが出てきた


「その白いのを取って食べるんだ。出来るか?」


「うん、だいじょーぶ」


そう言って彼女は器用に箱の外側についた白い紙を剥いていった。甘味というのはたまに面倒な包装の仕方を施されている物があって、度々マナは苦心されていたのだ。この位はお茶の子さいさいと言える


そうして白い紙を取ると、その中から出てきたのは何とも美しい茶色くてキラキラした宝石のような「きゃらめる」という甘味、その本体だった

マナはそれをしげしげと眺めた後、あーんと大きく口を開けてキャラメルを一粒口に放り込んだ、次の瞬間


「おいひぃー!!」


「ちょ、マナ、皆寝てんだから静かにしろ!起きちまうだろ」


アレフは口元に人差し指を立てて「しー」とマナに合図を送る。流石に大声を上げすぎたと自覚しているのか申し訳なさそうに肩を竦め、それでも尚キャラメルの持つ特殊な感触と濃厚な甘味をうっとりと楽しんでいた


「おいひ〜……これおいひいね!パパ」


「良かった、お土産にちょうど良いかと思って買っておいたんだが正解だったな。おっと、一日一粒までだぞ。箱を返せ」


「…………っ!」「睨んでもダメだ」

「うー…………」「泣いてもダメだ」


なんと、サシャに教えて貰った「お願いの仕方」がいつの間にか通じなくなっている。少し前までこれで簡単にお願いが通っていたのに、思わず

(パパも、きっとせいちょうしているんだね……!)なんて特殊な感慨を覚えていしまった。そして、それと同時にマナはとっておきの最終奥義を今、ここで使う事を固く決めた


「な、なんだ?何をしてもきゃらめるはもう上げないぞ。後のは明日以降だ」


「……ぱぱぁ、おねがぁい……!」


「っ!」


必殺、「甘え倒し」。結局は愛しい娘に可愛くおねだりされたら父親なんて屁でもなくなる。というのは他でもないサシャの言葉である、彼女は実際に故郷であるエルフの里に住んでいた時にこれを巧みに使い様々な面倒事から逃げてきたのだが、それはマナの預かり知らぬところである

何にせよ、この必殺技はアレフにも何らかの効果はあった。その証拠にたった今、彼は自分自身の真偽、その瀬戸際に居た。この世界一可愛らしい我が娘にもう一粒のキャラメルを与えるか否かの瀬戸際だ


(もう一粒くらい良いんじゃないか?後で歯を磨かせれば虫歯にも成り得ないだろう……いや、だがしかしこれで味をしめて甘味塗れの食生活になるかもしれないし……いや、うーん)


真偽の瀬戸際とは言うが実際にはよく有る脳内天使と悪魔のぶつかり合いだ

そして悪魔の言い分にそれなりの筋が通っているのがより一層この戦いを激化させている


と、アレフが必死こいて悩み抜いている間、マナはこっそりとキャラメルの箱をアレフの手から抜き、そして中にあるキャラメルを一粒取ってから箱を元あった様に戻した


「ぱぱ、やっぱりいいや。わがままいってごめんなさい」


「ん?あぁ、わかってくれたならいいんだ、わかってくれたなら」


どうやらこの父は本気で気付いてないらしい。だが仮にも父は元大泥棒、こんな手口なんて二度も通用するものでもないだろう……他に手がなかったら迷わずにやるだろうけど、なんて内心子供っぽい悪戯な笑みを浮かべるマナだった


「それで、体は大丈夫か?痛い所とか無いか?」


「え、あ、うん。だいじょーぶだよ。でもなんかいろいろおもいだせなくて……ねぇ、なんでマナおふねにのってるの?なにがあったの?」


キャラメルをこっそりポケットにしまい込みながらマナは本心からアレフに問うた。そもそもそれを聞きにこの操縦室に来たのだ、キャラメルのせいで危うく忘れてしまうところだったが自分のぼやけた記憶の補完をしてもらう為に寝室の外へ出てきたのだった


そしてアレフは、そんな問いに対し少し悩むように唸り、そして観念したようにゆっくりと語り出した


「脱獄したんだ、ちょっとした知恵と隠れ蓑を使ってな」


それを切り口に、父アレフの説明はゆるやかに流れる川のように続いた。それをまとめると、自分は父を助ける為に単身敵陣に飛び込み、そして見事に奮戦したらしい。最後は新魔法の召喚魔法、それも童話に出てくる火龍を召喚したらしいが、あの一際大きい「ボス」と呼ばれるおじさんに負けてしまったらしい。その後はパパが見事な逆転ゴールを決めて、最終的には完璧な勝ち逃げをかましたらしい。自分は終始おうまさん、マスターの背中でリリと並んで眠っていたらしいが……ここまで聞いて、やっと自分自身のモヤも晴れてきた気がする。確かにそう言われるとそんな気がする。と言った程度だが、無いよりマシだろう


と、マナが一人で得心していた所にアレフが割って入った。というのも何かを思い出したように手を打って口を開いたのだ、そしてそんな口から出てきた言葉がさらに驚きだった


「あ、それでな。あの隠れ蓑だけどあいつらに返したんだ」


「えっ!?そうなの?なんでなんで?」


隠れ蓑と言えばあのトンデモ「道具」。あれを自分のだと言い張り、好き勝手使っていたというのに今更何故返す気になったのか、マナはただ純粋に気になった。アレフは若干押され気味になりながらも自分の後頭部をポリポリと掻きつつ優しく教えてくれた


「アレは元々、ちょっと使う用事が出来たから「借りてた」だけなんだ。その用事もとっくに終わってるし丁度いい機会かと思ってな……そんなに意外か?」


「うん、いがい……パパってほんとうにどろぼうやめたんだね」


「誰かさんのおかげでな」


アレフは片方の目を閉じて薄く笑いながらマナに向かってそう言う。一拍置いて「誰かさん」とは自分の事を指しているのだと気付いたマナは途端に自分の顔がカァッと熱くなるのを感じる。


そう、アレはまだパパとおうまさんと出会ってまだ間も無い頃、自分の父が良くない仕事をしていると知った自分はパパに向かってとんでもないワガママを言ってしまった。「どろぼうをやめて!」と言う奴だ。しかしパパはそれを律儀に守ってくれて、おかげで今もずっとお金に苦労しているのも知っている。それで恥ずかしくて申し訳なくて顔が熱くなっているという訳だ

最後の最後にカウンターを決められてしまったマナはそれ以上何も言えなくなってしまった


アレフはそんな娘を見やり、そして雪の降る空を、夜月の浮かぶ海面をジッと見る。それから答えた、紛れもない本音を


「後悔はないぞ、おかげでこんなに楽しい旅が出来てるんだからな……マナのおかげだ」


そして、感謝の言葉を


「ありがとうな、マナ」


「〜〜〜っぅ!!」


それは、マナにとっては予期せぬ一言だった。故に元から恥ずかしさで茹だっていた体が遂に天元突破してしまった。鼻血を噴いて倒れてしまったのだ


当然アレフはパニックに陥った。焦りに焦って、マナを抱えて操縦室の階段を駆け下り、そのままサシャらの眠る寝室へと駆けて行ってしまった。


部屋に残された「地図」、極東、オオエドよりずっと南に位置する「ヒュウガ」と呼ばれる場所をペンで「目的地」と印してあるその地図が開け放たれたドアから入る冬の風に吹かれ、揺れていた


そして、操縦桿は突然訪れた自由を大いに謳歌してその後戻ってきたアレフをその航路の逸れっぷりで大いに困らせたとさ。続く

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